トップページ >

東日本大震災 被災地で「火事場泥棒」

福島では空き巣が1・6倍

福島県警「震災や原発事故の影響」と分析

 東日本大震災の惨状は、国内はもとより海外にも伝えらた。家、車、そして人の命までも一瞬のうちに飲み込んだ津波被害の甚大さは世界の人々に衝撃を与えた。茫然自失する被害者に多くの同情が集まったのは言うまでもないが、その一方で、海外なら暴動や略奪の発生は避けられないと思われるほどの天災にもかかわらず、冷静さを失わずに秩序だった行動をとる被災地の人々の高い倫理感は驚きをもって伝えられ、各国から多くの義援金が集まる要因にもなった。しかし、政界往来36無人となった店舗での窃盗など「火事場泥棒」とも言える犯罪も少なくなかった。実態はどうなのか。今年5月末までの犯罪統計を中心に、被災地の犯罪状況を探った。

 東日本大震災で、特に被害が大きかったのは岩手、宮城、福島の東北3県。その中でも、福島県は津波の被害に加え、東京電力福島第1発原子力電所事故という二重の悲劇に見舞われた。県内外で避難生活を送る県民は10万人近くに達し(6月末現在)、空き巣などの犯罪が多発しても不思議ではない状況が続く。

 同県内の刑法犯の認知件数は今年5月末現在、6168件。これを前年同期と比べると、934件(13・2%)減っている。同県の刑法犯は平成15年から昨年まで、8年連続減少。14年と比べると、昨年の犯罪減少率は46・1%と、半分近くになっている。統計を見ると、犯罪の減少傾向は今年に入っても変らず続いており、治安の向上傾向は明らかだ。しかし、今年に限って大幅に増えている犯罪がある。「空き巣」だ。

 今年5月末までの空き巣被害の届け出は427件で、昨年同期(265件)の約1・6倍と、大幅に増えている。また、「出店荒し」が昨年の87件から43件増えて、130件に達したほか、「忍び込み」も前年の82件から103件と、増加している。

 空き巣や出店荒らしなどが今年前半、増加したことについて、福島県警の広報担当者は「これまで同期間内で今年のような増え方はしていない。また、増加した管轄管内と避難地域が重なっているので、震災や原発事故の影響と見ていい」と分析している。

 福島県内には原発事故で自治体ごと避難対象となって、ゴーストタウン化している地域があることが空き巣や出荒らしを増やしたのは間違いない。災害被災地での犯罪の場合、食料不足などから生きる手段として犯行に至るケースがあるが、原発事故による避難地で発生する空き巣などは、いわば火事場泥棒であり、より悪質である。

 一方、大震災の被害が最も大きかった宮城県。死者・行方不明者約1万4千人を数え、避難者は3月のピーク時に32万人に達した。県の犯罪統計を見てみよう。

 今年5月末までの刑法犯の総数は8395件で、昨年同期と比べると、1047件(11・1%)の減少で、福島県と同様、治安は向上傾向にある。しかし、侵入盗、自動車盗、ひったくり、すりの「重要窃盗犯」は昨年同期から32件(2・4%)増えて、1459件発生した。

 増加が特に目立ったのは「自動車盗」で、前年同期と比べると、36件(51・4%)増の106件。「部品ねらい」も38件(19・5%)増えて、233件発生している。

 自動車盗と部品ねらいの1年間の発生件数を、平成22年と21年を比べると、それぞれ43件と87件の減少となっている。大幅な増加を示した今年前半の状況は、大震災の発生と深く関わっているとみていい。宮城県警捜査3課の担当者は「津波で流されたから盗んだというだけではなく、流されて放置していた車が盗まれたというものや、放置していた車からタイヤが盗まれたという被害届もあった」と語る。

 また、窃盗犯総数の増加は32件とそれほど多くはないが、震災が発生した3月11日から半月間に発生した窃盗事件に限ると、昨年同期よりも約100件多くなっている。従業員のいない店や、ガソリン不足の影響で車のガソリンを狙った犯罪が目立った。この期間に、津波で骨組みだけになった気仙沼市内の信用金庫から、現金約4000万円が盗まれる事件も発生している。

 しかし、岩手県の場合、5月末までの自動車盗は前年に比べると、1件減少して15件に止まった。同じ被災地でも、同県で自動盗が増えなかったのは、津波の被害を受けたのが地域社会の絆が強い沿岸部だったからだろう。この点に、仙台市や石巻市という都市部が津波に襲われた宮城県との違いが見受けられる。

 その一方で、宮城県内の被災地だけでも、拾得物として警察に届けられたり、警察官が回収した金庫が2000個を超えたという(5月22日読売新聞)。6年前、巨大ハリケーン・カトリーナが米国南東部を襲った際は、略奪などが多発した。無法地帯化した状況で、金庫が警察に届けられたなら、美談として話題となったろうが、そんなニュースは聞かなかった。空き巣や自動者盗は増えても、多くの金庫が奪われることなく回収されるのは、はやり東北の住民の倫理観は世界に誇れるレベルにあることを示している。