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ベタ記事大潮流

老いたボス猿に若手が手を出す

 新聞の片隅に掲載される「ベタ記事」なのだが、実は国際規模で起きているパワーシフトだとか世界の大潮流のはしりだとかといった大きなメッセージを含んでいるケースがある。本コラムは、小さな事件に見えて、実は「氷山の一角」のようにシリアスな問題を示唆しているベタ記事を扱う。

 今回は6月19日に報道された、アルゼンチンの大西洋に浮かぶ英領フォークランド諸島出身の男性にアルゼンチン政府が「国民身分証」を付与した問題を俎上に乗せる。

 フォークランド諸島には約3千人の英国人が住み、1982年にアルゼンチン政府が領有権を主張したことからサッチャー英首相(当時)の怒りを買い、英国と戦火を交えた。5つの大洋を制していたパックス・ブリタニカ時代はとうに過ぎていたが、老いたりといえども英連邦を擁する英国はまだ英国であった。英国は海軍や特殊部隊を繰り出して、フォークランドを一気に制圧した。

 だが今回、ボス猿にトップの座を降りるように2度目の若手猿からの挑発行為があった。単に国民身分証といえば、それだけの話なのだが、事は国家の主権に関わるものだ。

 だが、財政難に苦しむ英政府は国防予算の8%削減。さらに空母「アーク・ロイヤル」は退役している。フォークランド紛争で活躍した英海軍の虎の子「ハリアー垂直離着陸戦闘機」も使えない。後ろ盾の米国も応援してくれる趨勢にはない。一方で、今年10月に大統領選挙を控えたアルゼンチンではナショナリズムの高揚とともに英国との領有権争いに再び火がつく可能性がある。だが、ちょっかいを出す若手の猿を老いたボス猿は見て見ぬふりをするしかない。