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野田新政権スタート

深い霧の中の船出、「和の人事」が足かせにも

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野田佳彦新首相

 6月に事実上、退陣表明をしていた菅直人首相がようやく辞任し、野田佳彦新首相が誕生した。党・閣僚人事は地味で、各グループに配慮し党内融和の構築を目指したことがうかがえる。だが、国内外での重要課題は山積しており、前途は深い霧の中にある。

 野田人事の特徴は、党内融和と党代表選での論功行賞を重視したことだ。「親小沢(一郎元代表)対反(脱)小沢」が浮き彫りになった代表選を修復するために、小沢氏に近い輿石東参院議員会長を党の要である幹事長に起用。代表を争った前原誠司元外相は政調会長に就任した。また、鳩山由紀夫前首相と樽床伸二元国対委員長の両グループから、それぞれ平野博文氏を国対委員長、樽床氏本人を幹事長代行の要職で処遇した。

 閣僚人事でも、小沢氏側近の山岡賢次元国対委員長を国家公安委員長、一川保夫氏を防衛相に起用。小沢、前原グループから各3人、野田グループから藤村修官房長官を含む2人、菅、旧民社党系、旧社会党系の各グループから1人ずつが入閣した。さらに、代表選で一貫して野田氏を支持した安住淳前国対委員長、玄葉光一郎前政調会長は、それぞれ財務相、外相の重要ポストに就け、論功行賞の色彩が濃い人事となった。

 しかし、新党改革の舛添要一代表が「党内向けの『気遣い』内閣が国難から日本を救うことができるのか」と問い掛けたように、果たして国内外で山積している重要課題に対応できるのかは疑問だ。

 第1に、党内向けに気遣うといっても、党内融和を堅持できるか否か自体が最大の課題なのだ。小沢氏に配慮して輿石氏を幹事長に起用したといっても、同氏は民主、自民、公明による3党合意の見直しを表明した海江田万里氏を支持した。その輿石氏が幹事長になって、果たして3党合意を守れるのかと自民、公明両党が疑問を表明したのも当然だ。

 輿石氏はひとまず、これまでの経緯を尊重し3党合意を守ることを約束した。それにより、大震災の復旧・復興のための第三次補正予算案は3党の協力で成立に向けて前進するメドは立った。だが、復興財源を増税によるのか否かなどをめぐり党内が再び対立する可能性は否定できない。野田首相はそれをどう克服していくのか、その前途は霧の中だ。

 輿石幹事長が党員資格停止処分中の小沢氏について「この難局に参加してもらうことに皆さん依存はないと思う」と述べたことも、不安要因だろう。小沢氏を党の要職に処遇する意向を示したものだが、それによって党内融和にさらに向かうのか。「波乱要因になる可能性もあるのでは」(自民党中堅)との見方もある。

 第2に、民主党政権になって後退を続けている外交・安全保障への対応である。

 「日米同盟の深化」を掲げる野田首相は9月1日夜、オバマ米大統領と電話会談し、同月下旬にニューヨークで開催予定の国連総会で首脳会談を行うことで一致した。そこで間違いなくテーマになるのが、鳩山、菅両政権を通じて頓挫している沖縄米軍普天間基地移転問題だ。「県外移転」を求めている地元の沖縄をどう説得して実現のメドを付けられるのか、

 その道筋を提示できなければ意味のある会談にはなるまい。米露が初参加する東アジアサミットやアジア太平洋経済協力会議(APEC)などの日程も控えている。メドベージェフ露大統領による不当な北方領土(国後島)訪問、尖閣諸島沖の中国漁船領海侵犯事件、韓国の竹島への実効支配の拡大など領土問題に対して国益を踏まえてきちんとした対応ができるのか。シャトル外交による韓国大統領の訪日の日程も決まらない。野田首相は

 菅氏が疎かにしてきたすべての外交課題に対処することが求められている。

 首相持論の集団的自衛権行使のための憲法解釈の見直しや新憲法制定に対しても、指導力を発揮して取り組むことが必要だ。民主党は憲法審査会を動かす決意をようやく固め、同会所属の議員を選任することになった。そこで、改憲政党・自民党と深い議論を行い、党としての改憲案づくりも期待されている。菅前首相と岡田克也前幹事長が〝公約〟した在日外国人の党員・サポーターによる代表選への投票権付与問題にも決着を付けることが求められよう。

 第3に、円高・デフレ対策をどうするかだ。野田首相は、速やかに円高・デフレ克服のために緊急経済対策を策定する方針だと言う。ただ、円高問題は欧米の財政・信用不安と米景気回復のもたつきなどに起因している。米国は特に、大幅な経常赤字を是正するためドル安志向を強めており、日本一国では限界のある中で、どう国際協調していけるのか。安住財務相の手腕は未知数だが、デフレ脱却にもこれまでにないアプローチがなければ克服できまい。

 閣内不一致を突かれそうなテーマが環太平洋連携協定(TPP)への参加問題だろう。米国などは11月のAPECでの大枠合意を目指しているが、外相に就任した玄葉氏はこれまで合意に向けて主導してきた一方で、自由貿易の旗振り役の経済産業相に農業関係議員の鉢呂吉雄氏が起用され、慎重派の鹿野道彦農林水産相も再任された。この調整作業をどう進めていくのか。前途の見通しは厳しい。

 野田首相は「ドジョウのように泥臭く、国民のために汗をかく」と語ったが、待ったなしの難局をスピード感を持って乗り越える英知と実行力が求められている。

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