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沖縄地場金融リポート第三弾 本誌編集部特別取材班

モラル喪失の行員、金融円滑化法違反の可能性

中小企業に銀行恨み節

 野田佳彦新首相は民主党代表選で「欧米の財政危機、それに進行する円高とわが国の中小企業を取り巻く環境は一段と悪化している。財務面での支援が引き続き必要」と述べた。

 経営環境が悪化しても体力のある大手企業は何とか持ちこたえられるが、財務的余裕が乏しい中小企業は一時の旱魃で一命を落としかねない。

 2009年末に施行され今年3月に1年延長された中小企業金融円滑化法も、中小企業にとっては砂漠の中で出会ったオアシスにも匹敵するような慈雨と感じた経営者は少なくない。

 ただ、景気が悪くなると、一番弱いところからやられていく。その意味では、とりわけ失業率が日本一高く、経済基盤の弱い沖縄は、日本経済の危機を警告する「カナリア」でもある。

 炭鉱に置かれるカナリアは、酸欠や有毒ガス発生を知らせてくれる貴重な指標だ。沖縄経済こそは沖縄自身のためだけでなく、日本経済に対するメッセージを持っているのだ。

著しい行員の質低下

 その沖縄の中小企業を訪ね歩いた。どこも厳しい経営状況を訴えた。とりわけ苦情が多いのは、金融機関へのものだった。

 「2年前、黒字体質に何とか持ち込むことができた。それで、返済猶予を要請すると、とたんに実抜計画(実行可能な抜本的計画)を持ち出し、大きな資本を注入するか、M&Aを選択するよう迫ってくる。」(A社)という。

 A社にすれば、利益はあがるようになったのだから、30年、40年かかっても払うつもりなのにと性急な銀行の対応に戸惑っている。今時、金利だけでも支払っていれば中小企業としては優良の方なのにだ。

 企業は約定通り返済できなければ、延滞した債務には大体、年率14%前後の利息が加算される。放っておくと、あっという間に雪だるま方式で債務が膨れ上がって、身動きが取れなくなる。そして、メインバンクを中心としたバンクミーティングでとどめの宣言をされるのだ。

 今はそれでも、金融円滑化法で守られている側面がある。だが、同法も両刃の剣だ。いわゆる同法が適用されなくなる来年4月以後を見越して、金融機関が今のうちに財務体質の弱い企業の強化に動こうとするからだ。

 金融機関は、金融円滑化法適用以後、その反動がくると読んでいる。今のうちに財務体質強化のため、大きな資本注入か財務状況がいい同業種大手とのM&Aを実現することで、金融機関としてのリスクマネージメントとしたい意向だ。

 またB社は「観光客を呼び込む施設を作った。しかし、銀行が見るのは決算だけで、担保は見ない」としょげていた。

 さらにC社は「融資部の20、30歳代の若造が、貸した金を返せと迫る。できなければ臨時再生法適用だという。いわば、小僧っ子が破綻を迫るのだ。これは銀行の質の問題だ。これでは街金融の取立て屋と変らない。沖縄の行員のモラルは低い。上層部はこの実情を知っているのか」と悲憤慷慨する。C社は行員のモラルチェック機関創設の動きがあることに、諸手を挙げて賛成する。

 これに対し、琉球銀行審査部の中川氏は「銀行が担保ではなく、決算を見るというのはあくまで基本であり前提となるものだ。要は企業として回っているのかどうかが重要となるからだ。

 返済猶予にしても、いろいろ手立てはある。闇雲にM&Aに追い込むようなことはしない。金融円滑化法ができ、またそれが延長されて、返済猶予申請が増えているのは事実だ。2倍ほどではないが、通年よりかなり増えている。もちろん、顧客が不快な思いをしないように、マナー教育には心がけている」と語った。

 なお、銀行というのは、土砂降りの時に「傘を貸してきた」明治以来の古き良き伝統がある。

失ってはならないバンカー精神

 自見金融相は先月、本誌とのインタビューで「銀行というのはバランスが大事だ。貸し渋りにあったり、貸しはがしが横行すると国家の経済自体が収縮してしまう」と大局観を述べた後、「中小企業には、いろいろ相談できるコンサルタント機能が必要となる。金融機関にはそのコンサルタント機能がある。金融機関というのは、いろんな企業の栄枯盛衰を見ているし、借り手が波をかぶれば一緒にその波をかぶる立場だ。金融円滑化法も、中小零細企業に対し、しっかりコンサルタント機能を発揮していただきたいというのが法律を改正した主旨だ」と語った。

 なるほどバンカーのバンカーたるゆえんはそこにある。金融機関は、あくまで地場企業を育て、そのパイを大きくしていくコンサルタント業を含めたバンカー精神をベースにしたものであるべきだ。

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