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ペマ・ギャルポのVIP往来

駐日欧州連合(EU)代表部大使と対談(上)

EUは東アジア共同体の道標

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ハンス・ディートマール・シュバイスグート大使

 今回の「ペマ・ギャルポVIP往来」は、先だって駐日欧州連合( EU ) 代表部を訪問して話を伺ったハンス・ディートマール・シュバイスグート大使へのインタビューです。(文中 T=大使 P=ペマ・ギャルポ)

 大使閣下、本日は民間外交推進協会(FEC)のために貴重な時間を頂き、感謝申し上げます。本日のインタビューはFECの機関誌と、私が関わっている「政界往来」という2誌に掲載させていただきます。閣下もご存知と思いますが、FECは民間外交に力を注ぎ、政府、外務省の立場ではできないことを民間の立場から補い、協力している団体です。大使閣下もご承知のように菅総理の外交と防衛に関する施政演説をFEC主催で行いました。

 もちろん、FECのことは良く知っております。私も帝国ホテルでの菅首相の演説は聞きました。

 ありがとうございます。FECには常任理事が二人おり、私はその内の一人ということになるのですが、私はチベット出身で、本来はアジアを担当するような役割をいたしております。

 ええ。あなたのお名前を伺って、チベット人だろうと思いました。

 でも今は日本国籍です。閣下、早速ですが私達は欧州連合(EU)のこと、特にEUができた経緯などを学んで〝東アジア共同体〟の道しるべにさせていただければと思っております。そこで、まず閣下ご自身のことについてお伺いしたいと思います。いつ、どのような経緯で日本に着任されたのですか?

 私はもともとオーストリアの外務省の人間ですが、以前に10年ほどオーストリアEUの財務省に出向していました。1992年に日本に大使として勤務し、その時は大変有意義で楽しい時間を過ごしました。その後、在中国オーストリア大使になり、さらにその後本国からブリュッセル駐在のEU大使に任命されました。そして、EUで抜本的な機構改革組織変革が行われた際に私はEUの外交組織に志願し、今年の1月に再び大使として日本に着任できたことを大変うれしく思っております。

 EUに志願なさったということは、オーストリアの外務省を退官なさったのですか?

 いいえ。これは少し複雑な仕組みです。まず、個人がEU方に申請します。かなり競争が激しいのですが、EUの選考委員の審査を合格すれば、自国の政府からEUにいる期間中、休暇をもらいます。期間終了後は本省へ戻れるようになっています。EUの選考審査に合格すれば、加盟国は拒否しないことになっています。

 期間終了後は必ず戻る義務はあるのですか?

 戻ってもよいですし、延長を願い出ることも可能です。

 EU大使在任中は、閣下はオーストリア人ということになりますか? それともEU人になるのでしょうか?

 もちろん、EU人です。

 閣下がオーストリア国の大使でいらっしゃる時と、EU大使でいらっしゃる時に、何か大きな違いはありますでしょうか?

 もちろん、違いはあります。国を代表するときは領事業務、両国の親善、貿易振興、あと特に文化関係など、幅広い分野において責任がありますが、守備範囲は二国間関係に限られます。EU大使の場合は全加盟国を代表し、EU地域全体のことを考慮しながら行動する必要があります。以前はEU議長国のプレジデント(大統領)は6カ月で交代していましたが、現在はその役割はEU代表部が常時担うという常任体制制度に変わりました。現在、EUは移行の時期にあり、大きく変わろうとしています。

 例えば日本との経済連携的パートナーシップ協定(EPA)を結ぼうとしていますし、政治的協定も検討中です。そうした時、このような大きな政治的、経済的課題はもはやEU加盟国と日本の二国間単独の問題ではなく、EUの行政の域に入ります。安全保障や外交問題の分野でも、EUとしての立場で方針をより強く打ち出そうとしています。例えば、北アフリカ問題やアフガニスタンの問題について日本政府と協議する場合、個々の加盟国が日本と協議するのではなく、EU代表部が彼らを代表して協議します。しかし、領事業務や教育や留学、文化交流などは引き続き国単位で行います。加盟国の歴史、伝統文化が多様性に富むEUのモットーは〝Unitedy in Diversity〟( 多様性の中の統合一性) です。各国の特質は十分に尊重されています。つまり、EUとして行動することが効率と効果を高める分野では、できる範囲で可能なだけの統合一性を図り、文化など異質な分野は多様性として現実的に認め、具体的に育てていくという方法です。

 大使閣下は日本との経済連携的パートナーシップ協定について触れられましたが、もしこれが具現化した場合、どれだけ加盟国に対し効力がありますか? 確か現在加盟国は27カ国だったと思いますが、関税などの面において各国が約束を守るのでしょうか?

 100%効力を発揮します。なぜなら、そのような協定に入る前に全加盟国は方針を了承し内で十分に議論し、合意を得て欧州委員会(行政府政府・内閣に相当)に交渉する権限を委ね、その結果合意された協定は、欧州連合(EU)理事会および欧州議会で承認(批准)を経て発効後には法的拘束力を持ち、締結した条約、協定は、27カ国全てがそれを遵守しなければなりません。

 大使閣下、教えていただきたいのですが、EUには欧州議会、欧州理事会常任議長、執行委員会(内閣に相当)と、EU司法裁判所、欧州中央中銀行などがあって、まるで合衆国のようですが、一方においてはフランスはフランスの中央銀行を有し、独自の金融政策、外交、防衛政策を持ち、英国、ドイツも同様です。つまり、これらの国の主権とEUの主権が重複し矛盾は生じないのでしょうか?

 EUは最終的に一つの統一国家を目指しているのでしょうか?

 少し認識の違いがあるようですね。EUが優位性を持つ分野というのがあります。例えば、フランスの中央銀行はあくまでも欧州中央銀行という機構の一部であって、独自に政策を持ち出すというようなことは今ではありえません。

 単一通貨を用いるドイツ、フランス、オーストリアなど17カ国はユーロ圏機構に加盟しており、独自の金融政策は打ち出せませんが、この機構に加盟していないユーロを使用していないEU加盟国はその枠には当てはまりません。あなたは司法裁判所最高裁のことを指摘しましたが、もし加盟国がEU法のルールに反するようなことがあって執行委員会と対立するような事態が生じた場合、執行委員会はルクセンブルグにある最高裁司法裁判所に提訴される可能性があります。その最高裁の判決はすべてに優先し、最高位であり、EU競争法違反などで罰金などを課せられた場合は支払わなくてはなりません。あまり一般的には知られていませんが、EU加盟国の法律の70%はEU法なのです。現在は各国の議会・国会よりもEU本部のあるブリュッセル議会のほうが多くの法律を制定しています。これらの機関、この最高裁や議会の存在からもわかるように、EUはただの国際組織ではありません。EUの国々と国民は、主権の多くの部分をEUに移譲しているのです。もちろん、予算編成や治安維持、福祉などは引き続き各国の政府が行っていますが、貿易政策、競争政策、エネルギー政策問題などは、もはや一加盟国では変えられないのです。EUとして取り組んでいます。

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