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巻頭インタビュー

参議院議員 島尻あい子氏に聞く

ASEAN外交、重要に ハブ空港、那覇を活かせ

 主婦として人と人を結ぶ基地である「台所」には、政治にも適用できる知恵が詰まっているというのが参議院議員・島尻あい子氏の持論だ。その主婦の視点から政治を語ってもらおうと思ったが、沖縄で一人孤塁を守る保守の論客でもあった。学生時代には米国に留学し、日本語学校の経営では生徒募集のため、東南アジアを駆け回ったという島尻氏の視野は広い。その識見から見える今の政治の課題を安全保障と外交問題を中心に伺った。

──出馬する時は、「台所から政治を変える」というシナリオでした。

 台所には様々な知恵が詰まっています。親戚付き合いとか、隣近所との接し方だとか、そういう知恵が台所には詰まっていて、時々でどの人にどう話をするともの事が解決に向かうとかということもあります。

 あるいは家計のやりくりの知恵があって、その知恵をもって財政にあたっていくべきだろうというものでもあります。福沢諭吉の「学問のすゝめ」の中にも、家の帳簿、つまり家計を語れない人がどうやって国の財政を言うのかという件くだりがあります。

 やはり、「学問のすゝめ」というのは実学なんですよね。実は福沢諭吉の大ファンです。

──上智じゃなくて慶応に行くべきでした。

 後から、気づいたものですから。また増税反対論者じゃないですが、仁徳天皇が増税を考える時には、必ず民のかまどに煙があがっているかどうか確認してからという話があります。あれだって身近な台所の事情から国政を考えるということです。

 広く民意を汲み取ろうというのであれば、台所の意見、台所をリサーチすべきだと思います。

──今春の東日本大震災ではモダニズム(近代)への反省が生まれました。第二次大戦後、米国が持ち込んだ近代化というのは、個人主義と合理主義でした。そこから公を考えない個人主義や「お一人様の人生」といった履き違えが起きてきていますが、大震災で人と人の絆や共同体の重要性が改めて再認識されました。

 その意味では台所にこそ、人と人を結ぶ絆のノウハウが詰まっています。

 沖縄に嫁に行って当初、何も分からない状態でした。方言があって言葉も違うし、もう分からなくて本当に泣きましたから。ですが、何に助けられたかというと、隣近所の付き合いだったり、子供を通してのPTA仲間のお父さんお母さんだったのです。あのヘルプがなかったら、もうノイローゼになって子育てどころではなかったと思います。

 沖縄というのは、そういう人と人のつながりが濃厚に残っているところです。こうした結(ゆい)マール精神というのは、農耕社会から来ると思います。今もサトウキビの収穫の時は、隣の畑にみんなでこぞって出かけるというのが、まだ残っている所です。親戚とか、近所とかの縁で「今日はあいつんちなー」といった感じで順繰り回っていくのです。

 子育てで言うと、人の子も自分の子も一緒ということで、人の子にもガンガン叱りますしね。こうした人と人の付き合い方は沖縄で学びました。これは絶対、子々孫々に残さなきゃいけないし、あるいはこの社会こそは、日本が目指すべきものかなとも思っています。──外交防衛委員会所属というのは、どういった経緯があるのですか。

 沖縄県選出というのが大きいと思います。自民党として国会議員が、沖縄では一人になりましたから。

 政権交代あとの普天間問題で、少なくとも県外国外というのがひっくり返されて、その後、外交防衛委員会に入りました。今は解決の糸口さえ見つかっていません。

 最大の問題は普天間をどう解決していくかという問題であるので、外交防衛で踏ん張るしかないと思っています。

 普天間問題はどうしたものか、と思っています。沖縄県民の怒りをかった現政権です。正直言って、前に進めないといけないので、何とか糸口が欲しいところです。

 この米軍再編問題は、日米問題ととらえるのも大事ですけど、東アジア全体の安全保障の問題として少しフェーズを上げて見てみたい気がします。普天間問題というのは沖縄の問題ではなくて、これは日本の問題です。

 この間の代表質問でも言わせていただいたのですが、これまで沖縄の立場をとらまえて、抑止力とか日本の国防という中で、貢献しないといけない立場だというのは、県民はこれまでよく理解してきたというのを強く言いたい気がします。

 ただ国民の中には「いや沖縄県民は金や補助金欲しさに、わがままを言い出した」と言う人も確かにいるのですけど、そうじゃなくて、これまで戦後、筆舌に言いがたい事件事故がある中でも我慢してやってきた沖縄県民の気持ちというのは、国民には分かってもらいたいと思いますし、それでも動かせない地政学的な要所でもあるので、何とか解決に導かないといけないと思っています。

 でも今の政権のやり方では、誠意がなさ過ぎますし、下手くそ過ぎます。その点では、ちょっとまだ心配なところがあります。

──沖縄にある米軍のポジションは、日本にとってもアジアにとっても大事です。とりわけ台湾や朝鮮半島の問題があって、ここを崩されると行く道が閉ざされます。台湾はシーレーン防衛の問題があるし、朝鮮半島に動乱が起きれば難民が大挙して日本にやってきます。21世紀のリスキーな2つの地域の中間にあるのが、沖縄の米軍基地で、あること自体がすごい意味があります。ただ沖縄の問題は、歴史問題やメディアの問題も大きい気がします。

 沖縄タイムズなど言葉のすり替えなどが日常茶飯です。ストーリーが変わり筋が違ってきます。

 今回の教科書問題でもそうです。育鵬社が新しい教科書を出しました。与那国や竹富町、石垣市、この3つの教育委員会が同じ教科書を選ぶという行程の中で、審議会は育鵬社の教科書でいくべきだとの答申を出したのです。その答申に基づいて、教育委員が集まる中で、一つの教科書に集約していくのですが今回、竹富町がそれにはずれて、異議を言っています。

 文科省の法律によって、一つの教科書にしないといけないと法律は定めているのですが、これから逸脱した教育委員会があったらどうするかという、これを集約する文言が抜けています。要は法の不備でもあります。

 自民党の文科部会を開いて、現地の審議の3カ所の教育委員を呼んで事情を聴取し、県の教育委員も呼んでやったのですが、地元紙には政治介入し過ぎだというような方向で書かれて、論点がずれてきています。われわれとしては単なる手続き論なわけで、それを粛々とやればいいだけの話ですが、そこに思想的な教科書に対するものが入ってくるので、難しくなっているのです。

──中国の軍事力増強は、日本にとって死活の問題です。中国が軍事的に台頭してくる中で沖縄は、最大の関心事とならざるを得ません。南沙問題もあるし日本だけでなくてアジア全体の中でとらえていく問題でもあります。

 一方、与那国の自衛隊の配備も重要なことです。中国の台頭という文脈の中で、日米関係は深化させていくべきだし、同盟に頼らざるを得ないところがあります。ただ、自分の国は自分で守るというのが基本的な考え方だと思っていますが、なかなか憲法の改正論議も進まない中で、目の前の安全をどう担保していくのかという課題があります。

──昨年の尖閣問題で、中国の対応は異常でした。

 中国は思いっきり勘違いしているということでしょう。実は、私は沖縄で日本語学校を経営してきました。今は主人が理事長でやっています。そうすると、べトナム、ミャンマー、フィリピンなど生徒募集のため広くアジアを回ります。そこで聞こえてくるのは、中国は分をわきまえていないという、昔の日本語が飛び出してくることがあります。

 中国で懸念されるのは、孔子学院が何百と世界中に散在していることです。正直、怖い話です。文化大革命の時は批林批孔と言って逆に否定していたものを、現在では教条主義を放棄して政治利用しています。上手いと言えば上手いし、怖いと言えば怖い文化外交です。言葉を介し思想に入って行きますから。

──首相は5年で6人がころころ代わっています。外務大臣も昨年から、岡田、前原、松本、玄葉氏と4人目です。一国の代表の顔がころころ変わる中、外交的空白が続いているのが現状です。

 本当にそうです。

 私は外交で主眼に置くべきは、ASEAN(東南アジア諸国連合)だと思っています。さらに言うとパラオだとか島嶼地域も重要です。パラオは人口2万人なのに、国連で一票を持っているのです。こういう隙間的なところを今、日本が手当をしていく必要があるはずです。

 その辺の重要性を国は、どこまでフォローしているのか疑問です。それから親日国をもう少してこ入れすべきです。「あいつら放っといても付いてくるわ」じゃ駄目です。だって、実際に中国が入ってきて、手を突っ込まれているわけですから。

 それと、お金を効果的にどう使っていくのかというのが、わが国には欠落しているように思います。橋ひとつ作るにも、中国のやり方というのは、例えば、バングラデシュ・チャイナ・フレンドシップブリッジとか、そういう風にチャイナをドカンと出してきます。

 その点で日本というのは下手で、いかにもやってますというのは品性を疑われるからというみたいな対応がもどかしいこともあります。イメージというのは結構、大事なことですし、だから中国に抜かれるのです。

──そうした戦略の欠如と押し出しの弱さがあるのは事実です。

 先だってスリランカに行ったのですが、空港を下りて都市部に行くまでの高速道路の建設を中国が担当しています。日本は、そのあとの山間部に向かうのであったり、ダムを作っています。ダムを含めてかなり大きな投資をして、玄人には見えるけれども、国民には伝わりにくいという問題があるのです。

 額とすれば、まったく違うのに、日本は肩身の狭い立場で、「がんばろうよ日本」みたいな気にさせられます。

──公約に沖縄の経済復興を掲げていますが、展望はいかがですか。

 那覇空港はハブ空港なので24時間、離着陸ができます。ANAがそれを生かして物流貨物の基地を作っています。2年前から動いているものの、航空会社がなかなかニーズをつかみきれない状況にあります。ただスカイマークが深夜便を出して、夜中3時とかに出発し、早朝6時に羽田に着きますとか、そういうのが少しずつ出ています。

 この特典をもっと活かしてBtoBに結び付けるとか、アジアの国々に連結する工夫が必要です。沖縄を基点にコンパスで丸い円を描くと、上海と羽田とフィリピンのマニラが円周線に入ります。

──経済圏の中心になり得るということですか。

 そうなんです。だって軍事的に大事なところで、これが経済的に生かせないわけがないんです。

 それをうまく使っていくべきだし、それに対して県民、国もこれに対する支援をやっていただくということでいいのだと思います。

 沖縄が経済的に安定することが安全保障面でも大事になります。例えば、離島の人口を減らさないとか、これも安全保障の基本の基本です。

──金融センター構想はなぜしぼんだのですか。

 霞ヶ関文学というのでしょうか。さっぱり、実効性のない効果の上がらない文句になって返ってくるのです。いわゆる政治判断のなかで、沖縄を重点的に考えようとしても、いざ実務担当の霞ヶ関におろすと、書くにしても自分たちの動きやすいように書いてしまうのです。そうすると実際問題として、動きにくいものにしかならないのです。

 名護の金融特区のメニューを見ても、これが役に立つのかと疑問ばかりが沸いて、心を打ちません。

──そのほかに今、取り組んでいる問題はどういったものですか。

 私は一方で消費者問題を扱っていて、消費者教育推進法案を書いています。国政に出させてもらった時、悪徳商法が蔓延していて、消費者の目線に立った消費者行政の強化ということで消費者庁が立ち上がりました。ですが、消費者保護も大事だけれど、消費者の責任というのもあります。

 今回、書いている消費者教育推進法案で、消費者市民社会という言葉が出てきます。消費者としての行動が社会にどういう影響を与えるのか考えられる教育をやろう、というものです。それが消費者教育なのだと定義して、初めて入る見込みです。次期国会に出したいと思っていて、各政党のすりあわせをやっているところです。

 今回、震災があって、買いだめがありました。そうじゃないでしょう、本当にやらないといけないことをちゃんと考えましょうよ、というわけです。

【プロフィール】しまじり あいこ
1965 年、宮城県仙台市生まれ。上智大学文学部新聞学科卒。上智大在学中、アメリカへの留学経験がある。シアーソン・リーマン証券日本法人(現・リーマン・ブラザーズ)入社。その後、那覇市議会議員(民主党)を経て2007 年から参議院議員(自民党額賀派)。

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