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今月の永田町

財務省のシナリオに勢い

 政府・民主党内では、東日本大震災の復興のための臨時増税額について大論争が繰り広げられている。藤村修官房長官は「スタート時点では11・2兆円だ」と主張。一方、民主党の前原誠司政調会長は税外収入の上積みによって増税幅を圧縮し、増税規模はあくまで9・2兆円と譲らない。


 どちらも強硬だ。政権内の混乱が表面化している、と危機感を示す声も多い。しかし、冷静に見てみると、どちらも大幅な増税をしようとしていることに変わりはない。「いつの間にか、増税なき復興の声はかき消されてしまっている。政府も民主党も結局は、大幅な増税路線を仕掛けている財務省の手のひらの上で踊っているだけになってしまった」と、野党の中堅幹部は指摘する。

 それに加えて小沢一郎氏元秘書3人の有罪判決だ。小沢氏の資金管理団体「陸山会」をめぐる事件で虚偽記載罪に問われた元秘書らにとって、不利な証拠が不採用となったため、「無罪判決もあるのでは」との楽観的な予想もかなりあった。それが9月26日の東京地裁判決で覆され、3人とも政治資金規正法違反で有罪となった。

 この機に乗じて、野党は元秘書の一人である石川知裕議員の辞職勧告決議案や小沢氏の証人喚問を求める攻勢に出た。増税に抵抗している小沢グループの力が弱まることで、さらに消費税増税導入をも狙う財務省のシナリオに勢いが出てきているのは確かだ。

 党内力学の視点からも、異変が生じている。党内融和を重視した野田佳彦首相の政権基盤にヒビが入ってきたからだ。首相は小沢氏に気を使って政府・党役員人事をしたが、それが裏目に出た形だと言える。というのも、元秘書らが無罪になる見通しから復活が予想された小沢氏に首相自ら接近し、同氏に近い輿石東幹事長に党を預けてしまったのだ。そのため、いまさら小沢カラーを薄めようとしても薄めることができない。

 首相はまた、小沢氏の証人喚問を求める声に対して「小沢元代表は記者会見などで説明をしてきた」と語ったが、そう言えば言うほど、逃げの印象を国民に与える。今後、マスコミが「小沢氏との関係をいつまで続けるのか」「菅直人前首相のように距離を置かないのか」といった問いを連発するだろうが、それに首相は返答に困り、詰まってしまうケースが出てくることも予想される。

 小沢氏自身の裁判の行方も野田首相にとって頭痛のタネだ。「10月6日から始まる小沢裁判は、有罪となった元秘書の裁判と多くの証拠が重なっている。そのため、裁判の将来には暗雲が漂うようになってきた」(政界関係者)のである。

 元秘書3人が有罪、というだけでも小沢氏の道義的な政治責任が問われる重大事だが、さらに小沢氏本人までも有罪となってしまっては最悪だ。仮にそうなると、小沢氏が来年4月の判決で無罪を獲得した後、9月の党代表選で勝ち次期首相に就任するというチルドレンたちの目論見は水泡に帰そう。いくら「心証だけの一方的な判決で、基本的人権を無視した国民への挑戦」と訴えても、今後、小沢グループに遠心力が働くことは避けられまい。

 こうした事態にもかかわらず、野党側は9月最終週の衆参予算委員会で野田政権を攻め切れなかった。一度は、わずか4日間で逃げようとした臨時国会の延長に追い込み9月30日までとはなったものの、質問の準備不足が目立ったためだ。

 ただ、自民党の谷垣禎一総裁は、小沢問題で「出処進退は本人が考えること」といった事実上の首相の「ゼロ回答」に、「空疎で人ごとのような答弁だ」と批判。そのため、最大の問題である大震災の本格復興に向けた2011年度第3次補正予算編成と臨時増税をめぐる事前協議の呼び掛けに応じない考えを表明した。首相が柔軟姿勢を期待する公明党も「民主党は自浄作用を発揮しようとしない」(石井啓一政調会長)とつれない。

 9月30日で閉幕した臨時国会は「10月中のなるべく早い時期」(首相)には再び召集される見通しだ。だが、このままで3次補正審議のメドは立つのか。自民党幹部はこう読む。

 「大震災が起きたのは寒い3月だった。政府は3次補正を10月中下旬に出したいと言うが、それから審議がガタガタと紛糾すれば、雪の季節になってしまい、国会は一体何をしているのだと国民から非難を浴びることは明らかだ。それを避けるためにも、次の国会では、わが党も対決姿勢ばかりでなく、復興に向けて動かさざるを得ない」

 「政治とカネ」の問題は重要だが、4次補正、5次補正も必要になってくるとみられているほど深刻な震災復興を脇にやって、いつまでも政争を続けるわけにはいくまい。

 もう一つ、野田首相にとっての課題は、9月の訪米時にオバマ米大統領と約束してきた沖縄普天間基地移転問題にメドを付けることだ。メドとは言っても、二人の前首相にズタズタにされてしまった問題だけに、解決の糸口を見付けるのは難しい。沖縄県の仲井真弘多知事は「かつてのように銃剣とブルドーザーで新たに基地をつくるのか」と怒り心頭である。

 首相は29日の参院予算委員会で、「沖縄の皆さまに多大なご迷惑を掛けたことは深くおわびしなければいけない」と陳謝。さらに、次の国会の始まる前にも、沖縄を訪問し「正心誠意」頭を下げてこようという腹づもりのようだ。

 だが、訪問して頭を下げるだけでこの問題が前進することはあり得ない。この問題も政府・民主党だけでやろうとするのでなく、自民、公明ともよく協議をして取り組むことが求められよう。

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