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ペマ・ギャルポのVIP往来

駐日欧州連合(EU)代表部大使と対談(下)

コンセンサス重視のEU理事会

 今回の「ペマ・ギャルポVIP往来」は、先月に続き駐日欧州連合( EU ) 代表部を訪問して話を伺ったハンス・ディートマール・シュバイスグート大使へのインタビューです。(文中 T=大使 P=ペマ・ギャルポ)


将来はEU軍創設も

 安全保障、軍事問題に関してはいかがでしょうか?

 軍事問題はそれこそ各国の主権の心臓の部分です。現在も移行期に模索中であり、どれだけの時間がかかるか分かりません。まだEU軍は存在しません。EU条約には、いずれそのような段階に至ることもありうると規定していますが、現時点ではそのような動きはないです。将来、EU軍へ移行するための合意書には調印しています。

 大使閣下、確か加盟国の多くはNATOのメンバーだったと思いましたが。

 確かに、冷戦時代のアメリカと西ヨーロッパにとって、NATOは当時のソ連との防衛境界線でありました。1950年代に「欧州防衛連合( 軍事的なEU )」の構想が挙がったのですが、結局実現できず、経済的な統合が先行することになりました。ですから、EUの中には複数の加盟国、特に永世中立国はNATOにも入らなかった。

 EUの最高裁は国家単位のみが対象になるのでしょうか? それとも個人、例えば個人の刑法犯罪者なども裁かれるのでしょうか? 強盗がある加盟国で犯罪を犯し別の国に逃亡した場合、その人はEUの裁判で裁かれるのですか?

 そういう刑事事件の場合には、EU加盟国間内の協力制度協定によって対処します。例えば、欧州共通逮捕状があり、一国内で指名手配された場合、それは直ちに全ての加盟国に通達されます。なお、裁きに関しては、国内法とEU法が対立するような場合はEU司法裁判所で裁かれる法が優位とされます。

 そういう意味では、ハーグにある国連の国際司法裁判所よりも強いですね。

 というより、権限がずっと広範囲にわたり、一種の憲法裁判所的な要素が強いのです。

EU議会議員は人口割で選出

 欧州( EU ) 議会の議員はどのように選出されるのですか? 国が選挙区になっているのでしょうか?

 EU議会は750名の議員によって構成されています。各国からの選出議員数は、基本的には国の人口によって決められていますが、上下の限度を設定しています。上はどんなに人口が多くても80議席まで。EUは主権平等の原則を重視していますので、特に欧州議会の場合、区別することも必要です。それでも人口8千万人のドイツに比べると、小国マルタのほうが、一票の重みでは得をしていることになります。ちなみに、マルタの人口は25万人くらいでしょう。下限は4議席です。

 国連に少し似ているのでしょうか?

 人口が13億の国も数千人の国も、主権平等の原則で国連総会で一票を有する。欧州連合理事会の選出と、権能決定方法はどうなっているのでしょうか?

 EU理事会もいくつかの合意形成方法があり、多数決で決定してよい案件も増えていますが、実際には多数決はそう頻繁には用いられません。原則的にはコンセンサス(満場一致・総合意制)を重視します。法律を制定する場合、満場一致で決める方が良いと思われるので、多数決だとしこりが残ったりしますから、できるだけ多数決に持ち込まれないように努力しています。しかしながら、多数決というオプションがあることで、かつてのように決定が遅れるということがなくなります。もちろん、一般国家に似た政策決定プロセスに見えることは重要です。欧州議会と欧州連合理事会が共同で立法を行い、必要な多数が得られれば、法律は成立します。立法府、政府、そして最高裁が存在し、全ての手続き手順は一般国家同様です。合意を得ない場合には多数決の原理も作用します。

 またEUには外務大臣のような立場の方もおられるようです。外交や防衛は委員会のようなチームワークですか?それとも大臣のような担当者がいるのですか?

 あの壁(大使の部屋の壁)に飾っているのがキャサリン・アシュトンEU外務・安全保障政策上級代表( 大臣) の写真です。彼女はEU加盟国の首脳や大統領たちによって任命されており、安全保障と外交の上級代表責任者であると同時に、欧州委員会副委員長(副議長、副大統領)でもあります。

 EUのスポークスマンでもあるわけですか?

 基本的には外務大臣と考えればよいです。

 「大統領」の役割は?

 一種の双頭体制ですが、よくEU大統領と呼ばれるヘルマン・ヴァンロンプイはEU各国の首脳が集う欧州理事会を主宰します。また、ジョゼ・マヌエル・バローゾは欧州委員会委員長で、行政執行を担当します。また大統領は独立した委員会を持っています。

ギリシアの財政危機

 大使閣下、我々は新聞などの情報を通してしかわからないのですが、ギリシアの金融危機はEUにとってどのような関わりを持ち、その解決は今後EUにどのような影響を及ぼすのでしょうか?

 ギリシアの財政危機はユーロゾーン(EU通貨圏域)にとって重大な問題です。もちろん、EUは必要な処置を取ると共にギリシア自身に緊縮財政等の努力を要求しました。我々は近いうちにこの問題を克服できると思っています。今回の危機を通して今後、加盟国内において欧州中央銀行による統一された金融政策と各国が行う金融財政政策・経済政策の間に不均衡があり、財政・経済政策についてより緊密な連絡と調整が必要だという認識が高まっています。金融安定化基金のための委員会も設置しました。短期的にギリシア危機を救うことと、長期的にユーロ圏の安定化を図るという対策を打ち出しています。7月中に打った対策で、かなりの問題は解消できていると思います。

 大使閣下、国連での票決に関して、加盟国は統一的に行動するのですか、それとも各国が自主的に自由投票するのですか?

 国連での票決ですか? 大変興味深い質問です。今、私は最新の統計を持っていませんが、国連では加盟国間で日々非常に緊密な調整を行なっており、各投票案件の前にも調整を行ないます。重要な課題に関しては連絡協議会の責任者を置き、共同の行動をとることが多いです。おそらく票決の90%はEUとして同一の投票行動を取ってブロック(団体・連帯)で行動しています。しかし稀にですが、全体の合意を得られない場合もあります。例えば中東政策問題に関しても、最近ではドイツが棄権したリビア問題に関しても、必ずしも見解が一致していません。

中国への武器不売却決議

 新聞で読んだのですが、EU議会は中国人の人権問題などを考慮し、中国に武器を売却しないように決議しましたね。しかし、もしフランスがその決議を無視し、中国への武器売買を決行した場合はどうなるのですか?

 欧州議会はたびたび同様の決議を採択しています。当然ながらEUの決議は尊重されなければなりませんが、法的拘束力という意味では、中国に武器を売らないのはEU理事会の決定事項によるものです。加盟国はこれを尊守する義務があります。もし、フランスが尊守しなかった場合はEU司法裁判所最高裁に提訴されうるのです。禁輸措置の解除は、全27加盟国が議論した上でのみ決定できます。最高裁の判決には従わなければなりません。

 ローマ法王庁は加盟国なのですか?

 いいえ。

 大使閣下、先ほどアフガニスタンやリビアの問題に言及されましたが、尖閣問題、つまり日中領土問題について、EUの公式な見解を示したことはありますか?

 この問題はひとつの領土問題ではなく、多くの問題をはらんでいます。昨年、この問題をめぐり緊張感が高まったとき、EUは双方に平和的な解決を求めました。また、我々はアジアにおいて重要な経済利権があるため、それと同時に国際法や海洋法に照らし合わせ航海の自由を確保するよう求めて冷静に解決することを呼びかけました。もうひとつの側面は主権の問題ですが、これについてはEUとしての意見は述べておりません。我々は基本的には、このような領土問題に関しては関係各国が平和裏に誠意を持って対処するように求めています。

トルコの加盟問題

 もう何度も同じ質問を受けていらっしゃるかもしれませんが、トルコのEUへの加盟申請はどうなっているのでしょうか?

 確かに少し時間がかかっておりますが、ご指摘の通りトルコは加盟候補国の一つです。加盟交渉は始まっており、問題は一つだけではなく、いくつかの事柄の改革、改善を必要としています。また、キプロス問題もあります。さらに、加盟国の中にはトルコとの関係は「加盟という形以外の方法もあるのでは?」という考えを持つ国もあります。フランス大統領は「トルコの場合は加盟することが最良の選択ではないのでは?」と発言しています。しかしながらEUの担当機関が交渉を続けておりますし、今までも加盟に関しては他の国も時間がかかっています。

 大使閣下、一部ではトルコがイスラム国家であることがEU加盟を難しくしているのではないか、と疑念を抱いているようですが。

 いいえ、それは違います。EUは宗教的な組織ではありません。EU条約発足の議定書も、宗教について触れていません。現にもう一つのイスラム国家、ボスニアも加盟を申請しています。ボスニアは多数のイスラム人口を有していますが、誰もそれを問題視していません。加盟に関しての条件として、EUおよびその諸機関が新メンバーを適切に「消化」できるか、今後の運営していくためのEUのあるべき大きさというようなことも考慮しなければなりません。トルコは人口、面積ともに大きな国です。現加盟国で最大のドイツとほぼ同じで、人口増加のペースも欧州で最も速いのです。そしてトルコは大きな農業国家でもあります。ですから様々な側面からバランスを考えなければなりません。トルコに比べるとボスニアは小さいので、全体のバランスを大きく変えるようなことがありません。

日本とEUのEPA締結問題

 EUの外交部は、どれだけの大きさですか? 何カ国と外交関係があるのですか?

 ほとんど全ての国々と外交関係があります。135カ国とです。

 その中で具体的に代表部(大使館に相当)を置いているのは?

 EUの代表部は世界135カ国の全てに大使館があります。

 大使閣下、話題は再び日本との関係についてですが、日本との関係について、またできればアジアとの関係についても、どのような考えをお持ちか教えて下さい。

 EUと日本は大変興味深い時期を迎えていると思います。まず何よりも双方が、政治や経済を越えて、もっと多角的に関係を深める必要性と可能性を認識していると思います。今、世界は大きく変動しております。そしてEUと日本は共に大きな役割を持っています。しかし、その双方を足しても、まだ世界全体の経済の30%には満たないのです。ですが、それでも両者の間にEPAが締結されれば世界に対する影響は大きいです。また、そのような結びつきはより強力な政治的協力にも大きな意味を持つようになると思います。EUと日本は多くの国際問題について同じような考えを持っています。共有できる価値観も持っています。EUも日本も法治国家で、人権問題や民主主義促進などについても双方が深い関心を持ち、貢献しています。今後さらに共同行動のための新たなフレームワークのようなものを築く必要があると思います。

 国連改革についてのEUの考えを聞かせて下さい。それと日本などの国連安保理の常任理事国入りに対してのお立場はどうでしょうか。

 先ほども国連についてお話ししましたが、ご存知のように既にEUの2カ国が国連安保理の常任理事国であります。ですから多少曖昧な言い方にならざるを得ません。国連の改革そのものに関しては、総論では各国皆さん賛成ですが、各論については全ての加盟国が一致した考えを持っているわけではありません。長い間議論してきていますが、そう簡単に結論が出るものではありません。

東日本大震災で示した日本の英知

 最後に閣下から読者、あるいは日本の皆さんに何かメッセージがありましたら、お願いいたします。

 この度、日本を襲った大変悲惨な災害に対し、世界中からお見舞いとお悔やみの言葉が寄せられたと思います。EUの人々からもお悔やみとお見舞い、またEUの人々は日本の皆さんと共にあるというメッセージが届いています。日本は勇気と忍耐と秩序と英知を示し、世界中からの敬意を受けました。日本がこの困難を乗り越え、以前にも増して強い国となり、今まで同様、もしくはそれ以上に大きく世界のためにEUと共に活躍することを確信しています。

 今日は貴重なお時間をいただき、誠にありがとうございました。

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