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ペマ・ギャルポのアジア最前線

民主チベットとドグマ国家中国

 世界には200以上の国々がある。ただし国連に入っているのは193で、それ以外の国々は他国によって承認されている国、あくまでも一方的に独立を主張している国々である。台湾のように10数カ国が認知しても日本やアメリカなどが建前上台湾を国として認めておらず、いわゆる中華人民共和国の一部として見ている。しかし、現実にはお互いに代表も送っており、しかも大使級の高官がその地位についていて大使館同様に領事の仕事も行っている。

 また、かつてのバルト三国や今のチベットのように、亡命政府を形成し、政府の形を取って内閣や議会までも有するものがある。これらの国々に関しては正式に国として認めるものはいないが、事実上は海外に代表部まで設け国際的にも機能しているものが多い。

 その一つであるチベット亡命政府では、このたび大きな世代交代が行われた。亡命先のチベット人たちが直接選んだ首相が誕生し、しかもダライ・ラマ法王が400年以上続いた宗政一致の制度を廃止し、ご自身も一切の政治的役職から退いたため、新しい主席大臣(首相)が今までの主席大臣と違い大きな権限を持つこととなった。

 もちろん、チベット亡命政府を承認している国は現在のところ一国もないが、しかし世界の注目度が高く、今回の亡命政府の新首相選出に関しては国際的にも大きな話題となった。いくつかの独立国家よりも注目された、と言っても過言ではないだろう。首相に選出された人物のカリスマ性やハーバード大学出ということも踏まえて、脚光を浴びているこの若き首相は現在43歳で、亡命先で生まれたチベット人難民2世である。

 彼の内閣7名のうち彼を含め4名は異国に生まれた40代である。第一次の亡命政府はチベットで官僚を経験した人々が中心で、その後はチベット生まれで、インドで教育を受けた若者たちが活躍したが、今回の内閣の特色は高学歴で、いわゆるプロフェッショナルが多い。今後、チベット問題は、特別な訓練をされた彼らが中国政府とやりとりをすることになる。中国側も新しい世代のチベット人とどう対処するのか当惑しているに違いない。なぜならば、亡命先のチベットはダライ・ラマ法王のご指導のもとで民主化が進み、チベット人の行動も思考も21世紀の世界並みになっているのに対し、中国は依然として民主主義を拒否し、民意を無視し旧態依然の体制から脱皮出来ていないからだ。

 つまりここでは古い考え、ドグマから解放されていない中国と、民主的になったチベットが政治面においては逆転しているのである。だから今後、世界がこの行方に注目し、見守って行くことを願っている。チベットの新内閣はバイタリティーに富んだ若者中心のものであるが、中国はどれだけ時代認識をきちんと持って臨んで来るのか、チベット問題を平和裡に解決する意思があるのかを問われることになろう。

 チベットの新首相はハーバード大学留学中、多くの中国の学生や学者と接する機会があったと言われる。しかし、これらの中国の学者や学生がどれだけ彼を理解し、そして中国が現在行っている植民地支配を恥じたとしても、彼らのそのような意向が果たして北京政府首脳に通じるだろうか。

 国家にはある一定の領土とそこに住む住民、国民そしてその領域に有効な法律と実行する政府、更にそれを承認する他の国が必要とするものと、自国民の自由意志による信頼と支持を失っても国家を形成するものと、他の国が認知せず自国の実質的主権を失っても、なおかつ国民の積極的支持と信頼を得て存在する国家もある、ということを知る必要がある。

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