トップページ >

今月の永田町

民主、公・自個別に仕掛ける

外交日程多く審議時間不足も

 10月20日に召集された第179臨時国会は、「復興予算国会」とも呼ばれる。最大の焦点が東日本大震災の本格的な復興予算を盛り込んだ第3次補正予算案の成立にあるからだ。それに向けて与党・民主党は、まず公明党を引き込み、その上で自民党を巻き込む戦術を展開している。

 その一方で、民主党は自民党にも接近し、公明党をけん制するなどの仕掛けも巧みに行っている。ただ、外交日程が目白押しで十分な審議時間を確保できるのかといった懸念が出ており、3次補正を成立させられても、その他の重要案件の消化は会期の延長なしには困難との見方が出ている。



 3次補正の成立に向けて政府・与党が動いた最初の一歩は、「10年間を基本」としていた大震災の復興債の償還期間を、公明党の「15年から20年」という主張に沿って延長する方針に変えたことだ。これに公明党は好反応を示し、復興財源に充てるたばこ税の臨時増税について、当初の慎重姿勢を転換し民主党案に乗る方向で調整することになった。

 さらに公明党は、与党・国民新党が強く要求している郵政改革法案についても、日本郵政株売却が復興財源確保につながるとの立場からの党独自の修正案を提示する意向を示し、与党との修正協議に積極的に応じる方針に転じた。

 「公明党としては、震災復興で主導権を発揮していることをアピールできる。一方の民主党としても、参院で公明党の協力を得られれば、ねじれ国会での展望が開け、予算成立がスムーズに行く。また、公明党を引き込めば、自民党も付いてこざるを得なくなるとの読みがある」と政界関係者は指摘する。

 すでに、復興債の建設国債並み「60年返還」で譲らなかった自民党が、半分の「30年返還」を口にし始め、さらに「20年と30年の中間」ではどうか、などと歩み寄ってきている。民公接近による効果の表れだ。

 その一方で、民主党は自民党にも秋波を送っている。党の消長を決定付ける衆院選挙制度改革を巡っては、民主、自民ともに現行の小選挙区比例代表並立制(選挙区300、比例代表180)を前提に、比例代表数の削減(民主は80、自民は30)を主体とした現行制度の手直し案を提示している。民主党の方が比例代表で削減数が多く、「1票の格差」(2・524倍)を埋めようとする姿勢は見える。ただ民主党は、47都道府県に1議席ずつ割り振る「1人別枠方式」を廃止して新たな配分方法を盛り込むための法案づくりで自民党との連携を図っているのだ。

 これに対して、公明党は比例代表の削減数を示さず、小選挙区もただ「削減」とするだけの小選挙区比例代表連用制など3案を示し、小数政党として少しでも有利になるための独自案を示している。この選挙制度改革で民主が自民と距離を狭めることについて、公明側に警戒心が生じているのも確かだ。

 そのため、「民主が自民、公明に接近し、あの手この手で各党をそれぞれ口説けば、国会審議を進ませる材料にはこと欠かない」と野党中堅幹部は読む。その一方で、同幹部は「外交日程が詰まっているので、12月9日までの51日間の会期では足りない。延長しなければ審議未了案件も出てくるだろう」と指摘する。

 政府の3次補正予算案と関連法案の国会提出と野田首相の所信表明演説は10月28日にずれ込んだ。国会召集日から8日も経ってのことだ。さらに、代表質問を終えて衆院予算委員会での審議開始は、11月3日からの主要20カ国・地域(G20)首脳会議(仏カンヌ)が終わってから。その直後の12、13両日には、米ハワイでアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が控え、17?19日には東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議(インドネシア・バリ)があり、首相が出席することになる。

 「いったい、審議の日程を組めるのか」という声が野党側から出るのも無理はない。しかも、APECで参加表明を求められている環太平洋連携協定(TPP)については野党内はもとより、政府・与党内ですら賛否両論が渦巻いており、首相が参加を表明すれば集中審議を求める声が強まろう。また、小沢一郎元民主党代表に対する国会証人喚問や「政治とカネ」に関する集中審議の開催要求が強まることも確実視されている。

 今国会への政府提出法案は、新規が16本、継続が22本ある。政府・与党は、第3次補正予算案のほかに、国家公務員給与の引き下げ特例法案、公務員に労働基本権の一部を付与する公務員制度改革関連法案、復興の要となる復興庁の設置法案の成立を目指している。政府としては、これらが時間切れになることを避けるために、会期の延長を検討することになろう。

 それ以外にも、日米同盟深化の観点から、野田首相は沖縄普天間基地の移設問題を進展させなければならない。米パネッタ国防長官は、10月25日に防衛省で日米防衛首脳会談を行った中で、日米合意履行に向けた日本側の具体的な進展状況を尋ねた。米国では予算審議が大詰めを迎えており、普天間移設とセットになっている在沖縄海兵隊のグアム移転予算を獲得するためにも、「目に見える進展」がなければならないのだ。

 川端達夫沖縄担当相、一川保夫防衛相、玄葉光一郎外相の3閣僚が10月に相次ぎ訪沖したが、地元は態度を硬化させており、最後のカードとしての首相の沖縄入りも見通せない状況になってきた。米国と沖縄の狭間にある首相がそれをどう打開するのか。

 衆院を解散総選挙に追い込む野党側の勢いは鈍化しているものの、解決すべき待ったなしの重要課題は山積している。

この記事のトップへ戻る