トップページ >

日本独立から60年

国力強化へ憲法改正急げ

本誌編集部

 日本が7年間にわたる占領軍の支配から解放され、サンフランシスコ講和条約発効(1952年4月28日)により独立を達成して60周年を迎える。「自主憲法制定」を党是とする自民党は、結党50年の2005年に作った第一次憲法草案を加筆・修正して第二次改憲案を4月中に近く発表する見通しだ。憲法は国家の骨格であり国民精神の結集した秩序の基でもある。占領軍のつくった現在の憲法には多くの矛盾がある。日本人の手による改憲を早急に実現し国力強化にまい進したい。


 昨年3月11日に発生した東日本大震災による教訓の1つは、致命的欠陥が露呈した日本国憲法を早急に改め、今後起こり得る緊急事態に備えることであったはずだ。ところが、政府・与党はその欠陥に関する検証作業を怠り、大震災の復旧・復興策ばかりに焦点を当てて議論をしているが、それは問題である。

 指摘すべき欠陥の第一は、地震、津波、原子力発電所の事故による大震災が国家の非常事態、緊急事態であったにもかかわらず、現行憲法にその際の危機管理規定がなく、国家緊急事態宣言を発令できなかった点だ。占領下では、同様の事態が起きれば占領軍が対処するので政府の出番は不要だったろう。

 しかし、国家の最大の役割が国民の生命、自由および財産を守ることである以上、外国の侵略、武力攻撃やテロ、大規模災害などの緊急事態が生じた場合を想定し、憲法に国家緊急権を明記して制度化しておくことは不可欠のはずだ。国家権力によるすべての行使が、憲法および法律の定めるところに従って合法的になされることが立憲主義の要諦でもある。

 福島原発の事故に対しては、原子力災害対策特別措置法に基づき原子力災害非常事態宣言が発令された。だが、被災地は東日本広域にわたりさらに拡大する可能性もあったし、地震、津波、原発による複合災害となっていた。また、自衛隊を総員の半数近い10万人投入したことで、武力侵略に備えた防衛体制の確立が急務だった。そうした緊急事態に対処するため、総合的な指揮権の発動を内閣総理大臣に与えるといった法的整備はなく、憲法による裏付けもなかった。そのため、官邸はチグハグな対応に終始し、犠牲者数も増えてしまったといわざるを得ない。

 その点、自民党憲法改正推進本部は第二次改憲の原案で、緊急事態について書き込み、首相に緊急事態宣言を発する権限を認め、法律と同じ効力を持つ政令を制定して、地方自治体の首長への指示権を与えるなど首相の権限を強化し、国民にも国や自治体などの指示に従うよう義務付ける条項を明記した。

 政府・与党はこの際、国家緊急権を憲法に盛り込み、その発動の要件、その効力の及ぶ範囲を明確に定めるための議論を活発化させるべきである。憲法は国家、国民のためにあるのだから、必要事項は加筆または改正することが必要だ。憲法を守って国民が不幸に陥り、国が滅びるというのでは本末転倒である。

 東日本大震災のもう1つの教訓は、活躍した自衛隊を憲法に盛り込んできちっと位置付け、さらに本来任務である国防強化に取り組んでもらうことだ。自衛隊は1954年7月1日発足なので、47年5月3日施行以来一度も修正されていない現行憲法に「自衛隊」の文言が記述されていないのは当然である。しかし今日、誰の目にも自衛隊はなくてはならない価値ある実力行使部隊と映っていよう。

 東日本大震災における派遣活動では、人命救助活動をはじめ、行方不明者の捜索、遺体収容、救援物資の輸送、給水、給食支援、原発への空中・地上放水、緊急患者空輸など、投入された10万人がフル回転して当たった。一方、支援要請を受けた米軍も「トモダチ作戦」を展開。空母「ロナルド・レーガン」など8隻を急派し、二日後の13日未明には宮城県沖の現場海域に到着。この作戦に空母など約20隻、航空機など約160機、最大時には2万人を超える米軍を投入した。

 この間、中国、ロシアは日本の領空、領海侵犯を繰り返した。「震災直後に公表された防衛研究所の『東アジア戦略概観』には、人民解放軍の近代化と増強により、わが国の離島や海域の主権を脅かし、『不測の事態』が発生する可能性は否定できないと書かれている。ロシアも北方領土を軍事基地化して、露太平洋艦隊が東太平洋に出やすいよう着々と手を打っている」と指摘する軍事専門家は「わが国の安全保障にとって日米同盟がますます重要になってきている」と強調している。その主役の自衛隊の位置付けが憲法に書かれていないのである。

 ところが、憲法学会の多数はいまだに自衛隊違憲説で、宮澤俊義東大教授が主唱した「武器なき自衛権論」が幅を利かせている。田畑忍同志社大学教授は、「武器なき自衛権」ついて「戦力的手段以外の政治的外交的手段による」と解釈しているが、これで防衛はできまい。国連憲章51条は自衛権は武力攻撃が発生した場合のみに発動を許されるとしており、従って、自衛権の発動は、武力攻撃に対して武力を行使するということを前提とするのが当然のことだと言える。また、自衛隊合憲説にも諸論ある。

 こうしたことの根本的原因は憲法9条を一度も書き直していないためだ。9条(戦争の放棄と戦力及び交戦権の否認)は、第1項で「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」とし、第2項で「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」としているが、この条文にその後発足した陸海空軍を持つ自衛隊を合憲と解釈しようとするからムリが生じるのだ。

 衆院予算委員会で自民党の石破茂前政調会長が田中直紀防衛相に自衛隊合憲の根拠をただした際にも、この問題が提起された。石破氏が「芦田修正」根拠論を述べたのに対して田中防衛相は、「その点、私は理解していない。先生のご知見を拝聴しながらよく理解したい」と述べるにとどまった。このヤリトリについて自民党中堅は「石破氏の芦田修正発言には落とし穴があった。もし田中防衛相が何も知らずにその通りだと答弁したら大変なことになっていた。『理解していない』と答えたのは田中さんにとっては結果的にラッキーだった」と語る。その理由は「政府がこれまでとってきた立場は、『自衛力合憲論』で、自衛隊を『戦力』とはみなさず『自衛のための必要最小限度の実力』すなわち『自衛力』の保持は認められるというものだ。一方、『芦田修正』を重視するのは『自衛戦力合憲論』で、自衛戦力の保持は認められるという解釈であり、同じ合憲論でも異なるものだからだ」というわけだ。

 もし、田中防衛相が場当たり的に「イエス」と答えたら、この問答の泥沼に引き込まれ、収拾のつかない事態に落ち込んだ可能性は否定できない。即、問責決議案の提出という事態になったかもしれない。ただ、いずれにせよ、こうした不毛な論戦を国会が続けてきた最大の原因は、9条の解釈自体にムリがあるからで、現実に合わせる形で即刻、改める必要があるのだと言える。

 その代案として自民党は第二次改憲案に、戦力不保持を規定した2項を抜本的に改め、「自衛軍の保持」を明記し、自衛軍は集団的自衛権も含めた「自衛権」を行使できると盛り込む方向になっている。自主憲法制定を1955年の結党政綱に記し、2年前の党大会(1・24)で「新しい時代にふさわしい国づくりのための自主憲法の制定を目指します」と新綱領に明記した自民党が他党に先行して積極的な姿勢を示しているのは責任政党にふさわしいものと言える。

 肝心の政権与党である民主党はどうか。

 同党は2005年に「創憲・未来志向の憲法を構想」するという「憲法提言」を発表。憲法の還暦(07年)には党憲法草案を発表すると前向きな構えを一時、見せた。ところが、その発表もそのための作業もなく、09年7月のマニフェスト(政権公約)は、「現行憲法に足らざる点があれば補い、改めるべき点があれば改めることを国民の皆さんに責任をもって提案していきます」と大きく後退し、「何かあれば提案する」というだけの消極姿勢に変わった。

 こうした民主党のそもそもの発想の根拠として挙げられるのが、「『憲法とは公権力の行使を制限するために、主権者が定める根本規範である』というのが近代立憲主義における憲法の定義である」という決め付けであり、「決して一時の内閣が、その目指すべき社会像や自らの重視する伝統・価値をうたったり、国民に道徳や義務を課すための規範ではない」との考え方だ。これでは党自らが改憲案を作成していく意欲は生まれてこないだろう。

 事実、党所属議員全員をメンバーとする党憲法調査会(中野寛成会長)が昨年12月2日、国会内で初開催されたが、出席者は10分の1以下の約30人。過去の経緯を確認した程度で、改憲への積極発言はなく、逆に「憲法改正を前面に出すと誤解を招く発信になる」とのコメントが出された。今年のテーマは国民投票の投票年齢の引き下げについてだ。「憲法調査会といいながら憲法の中身に触れたくない人たちの集まり」(自民党幹部)というのでは話にならない。

 改憲政党と言われながら現行憲法を高く評価し、「加憲」を唱えているのが公明党だ。基本的には、修正を避け、「環境権」や「プライバシー権」を加えることや9条も第1項と2項を堅持しつつ自衛隊の存在や国際貢献などについて「加憲」の議論の対象として慎重に検討していくことにしている程度で、改憲への積極性は全くない。

 こうした中、憲法審査会が衆参両院で動き始めたことは評価できる。自民党の小坂憲次元文科相が会長に就任した参院憲法調査会では2月15 日、前衆院憲法調査会会長の中山太郎氏を招き、「非常事態と憲法改正」についての意見を聴取。

 さらに、3月以降は、「東日本大震災と憲法」のテーマで聞き取りを続けていく予定だ。衆院審査会でも、同様の動きが活発化している。さらに国会以外で、憲法改正の機運を盛り上げる動きが出てきたことに注目したい。

 橋下徹大阪市長が地域政党「大阪維新の会」の次期衆院選の公約とする「船中八策」に憲法改正の要件緩和を含む諸策が盛り込まれているからだ。この「船中八策」自体は、国家として最も肝要な安全保障、外交、治安などがそっくり欠落している欠陥だらけの公約集だが、橋下ブームに乗って改憲ムードは盛り上がろう。

 石原慎太郎都知事も、自身を党首とする新党構想に関して「私が参加するなら憲法破棄を持ち出す」と述べ、綱領に現行憲法の破棄と新憲法の制定を盛り込む考えを示している。現行憲法の破棄となれば、公布の際、「朕は、日本国民の総意に基いて、新日本建設の礎が、定まるに至つたことを、深くよろこび、枢密顧問の諮詢及び帝国憲法第七十三条による帝国議会の議決を経た帝国憲法の改正を裁可し、ここにこれを公布せしめる。御名御璽」とされた先帝陛下の御意思まで「破棄」することにつながり大問題となろうが、今の憲法を改めなければならないという意味で方向性は一致している。

 他国では戦後、米国6回、フランス27回、ドイツ57回など憲法を何度も改正し、現実に合った舵取りを行っている。国際社会との関わりが拡大し深化している日本が、占領時代の米国製憲法にムリをしてしがみついていては、憲法前文が希求している国際社会での「名誉ある地位」を占めることはいつまでたっても不可能であろう。

この記事のトップへ戻る