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維新の会は、日本版「ティーパーティ」

手法はプーチン小泉流 「維新八策」の是々非々

 今や民主党は「失望された政権与党」であり、自民党は「期待されない野党」でしかない。こうした二大政党が漂流する中、台風の目として鮮烈な政治的求心力を持ちつつあるのが橋下徹大阪市長率いる地域政党「大阪維新の会」だ。暗鬱とした時代の闇は、新星のように現れた「維新の会」を光り輝かせているが、果たして「大阪維新の会」は桎梏状況に追い込まれている国家的呪縛を解き放ち、変革と蘇生のエネルギーを吹き込む本格的な政治力になりうるのか、はたまた一過性のブームに終わるのか検証してみた。


picture 記者会見で語る橋下徹大阪市長=2月20日、大阪市役所(辻川吉夫氏撮影、表紙も)

 橋下氏のやり方は、小泉純一郎元首相に似ている。「敵」を作り上げ、民意をバックに強引に主張を押し通す手法は小泉流だ。また知事を辞職し市長選に出て市長に就任するという前代未聞のくら替えを断行、新知事には腹心の松井を擁立し完勝するというアクロバットをやってのけた橋下氏は、配下のメドベージェフ氏を大統領にして首相に収まったプーチン首相を髣髴させる。ポストそのものへの執着より、やるべき目標を見据えたプラグマチストなのだ。

 問題の先送りばかりで決められない政治状況から離脱した新しい統治ルール作りへの関心が強く、トラブルや軋轢を恐れない橋下の政治スタイルはドラスチックな政治変革を促すパワーになるかもしれない。

 その「大阪維新の会」が国政進出へ動き出した。衆院選候補を養成する「維新政治塾」には、定員400人に対し約3326人が応募した。昨年11月の「大阪ダブル選」で橋下氏らが既成政党に圧勝したパワーは衰えるどころか、ますます勢いを増している。

 「維新政治塾」は足切りせず、3326人すべてを受け入れ、将来に備える。ただ、政治家というのはビニールハウスですくすく育つ野菜ではない。議員養成の場となる維新政治塾は、一年間のカリキュラムを備えているが、政治家を1年で促成栽培するというのは土台、無理な話だ。準備も蓄積もない人物を短期養成で、永田町に送り込むというのは無茶でもある。これでは民主党の二の舞いだ。

 その「大阪維新の会」は2月、次期衆院選公約となる「維新版・船中八策」の骨子をまとめた。大政奉還を前に、上洛する竜馬が「夕顔丸」の中で構想した国づくりの骨子が「船中八策」だが、維新八策はその現代版というわけだ。「大阪維新の会」とすれば、新しい風を呼び込む8つの帆柱を立てることで、地域政党から国政進出への動きを加速させたいとの意向がある。

 「船中八策」の柱は、①統治機構の再構築②行財政改革③教育改革④公務員制度改革⑤社会保障制度改革⑥経済政策⑦外交・安全保障⑧憲法改正─の8つで構成される。

 橋下氏が掲げる「決定でき、責任を取る民主主義」を梁として、憲法改正にも踏み込んだものだ。

 その統治機構改革や憲法改正では、橋下氏の持論である首相公選制や道州制の導入、参院を首長兼務の代表機関に改めることなどを掲げ、改憲の発議要件を衆参両院の各3分の2から2分の1に緩和することなどを盛り込んだ。地方交付税に関しては、かつて橋下氏が公共事業における地方分担金の問題に、「明細のない『ボッタクリバー』の勘定は払わない」と拒否したことがあるが、この廃止を盛り込んだ。

 野田政権が交渉参加方針を打ち出した環太平洋経済連携協定(TPP)に対しては参加を掲げ、「自主独立の軍事力を持たない限り、日米同盟の機軸」と明記。外交、安全保障での政権実務者担当能力を強調したい意向が透けて見える。

 社会保障制度改革や経済・税制では、積み立て型・掛け捨て型の年金制度や資産課税のほか、国が最低限の生活に必要な所得を全国民に保障する「ベーシックインカム」(最低生活保障)の導入を検討。外交・安全保障では沖縄の基地負担軽減も掲げている。

 ただ憲法改正に踏み込んでいながら、核心部分となる憲法9条に触れていないのは疑問符が付く。また外交・安全保障政策で、日米同盟基軸を明確にしたのは当然だが、同盟の実効性を高めて日本の安全を担保するには、集団的自衛権の行使容認に踏み切ることが不可欠となる。

 集団的自衛権行使の容認こそは、決断ひとつで可能な廉価ながらもっとも効率性のいい安全保障強化策となるからだ。

 歯に衣を着せぬ率直な主張が持ち味の橋下氏が主導したとは思えないところだ。

 また、ベーシックインカムも所得に関わらず一律型の生活保障をすることで、人々の労合意欲をそぎ落とし社会全体の活力を低下させることにならないか疑問が残る。さらに首相公選制は「決めれない政治からの脱却」の効果は認めつつも、横山ノック氏や青島幸男氏のような、ただ人気はあるが政治家としては無能なタレント議員がのし上がってくる可能性があることから、これも疑問符が付く。

 それでも織田信長タイプの橋下氏は、「未完の大器」だ。ただ橋下氏は、大器晩成型ではなく「早熟型大器」の可能性がある。その「大器」が持つ時代の勢いに対する各政党の期待は大きい。本音のところは、新しい風を起こしつつある橋下氏に、票を食われて落選の憂き目だけは避けたいというのかもしれないが、共産党を例外としてどの党も「大阪維新の会」にすり寄りつつあるのが現状だ。

 民主党の前原政調会長はこの「維新八策」に対し、「ねじれを解消する一つの案として一院制がありうる」と個別政策には理解を示した。

 また維新の会との連携を目指すみんなの党の渡辺喜美代表は「われわれが描いてきた国のかたちと同じだ」と述べ、もろ手を挙げて支持表明するとともに、維新の会と政策勉強会を続け、連携強化を図る方針だ。

 前の衆院選で大阪、兵庫の6議席をあっさり失っている公明党は、次期衆院選挙こそはなんとしても負けられない一戦であり、そのためには維新の協力が不可欠となっている。

 公明党の山口那津男代表は2月21日、「次期衆院選で維新の会と相談すべきところは相談し、協力すべきところがあれば協力することを検討する」と述べ、具体的な選挙協力に含みを持たせた。

 さらに橋下氏に熱い視線を送っているのが小沢氏だ。小沢氏は石原慎太都知事と溝があり「石原新党」に合流できない。このため、次の選挙で落選の憂き目を見るのは火を見るより明らかな選挙基盤の弱い小沢チルドレンを次期衆院選で当選させるため、手を組む相手は橋下氏しかいないのが現状だ。無論、それができれば政界再編は難なく動き出すことになる。

 なお「大阪維新の会」と似ているのが、米国のティーパーティーだ。

 ティーパーティーのマークは「どくろを巻いたガラガラヘビ」だ。これは米ガスデンで英国軍に踏みにじられそうになった時、米国民がかみつくぞというメッセージを込めたものだった。

 「小さな政府」を金科玉条とする保守本流の確信者にとって、オバマ大統領は明らかにやり過ぎた。オバマ政権では、自動車産業やリーマン・ショック後の金融機関の救済、さらには医療保険法改正における「大きな政府」路線に対する抗議を中心として動き、大きな政治的影響力を発揮し、2010年11月の米中間選挙で共和党大躍進の原動力となった経緯がある。

 「大阪維新の会」も道州制を唱えるなど、「小さな政府」指向の側面がある。ただティーパーティーの致命的欠陥は外交に関心のないシングルイッシュでありモンロー主義であることだ。自分も穢れるから汚いものには触れてはいけないとして、基本的に孤立主義的衝動が強い。

 果たして吹きすさぶ維新の風は、雲を呼び龍を招くことができるのか。あるいはただ台風一過、路上に枝葉を撒き散らして終わるだけなのか。橋下氏が大衆受けを狙った単なる壊し屋だったら、間違いなく後者だ。しかし、破壊の後の設計図とふさわしい人材を用意できれば、評論家の屋山太郎氏が橋下氏を評して言う「本物の政治家」に大化けするかも知れない。

 そのためには少なくとも、ティーパーティーの致命的欠陥であるモンロー主義は排除しないといけない。

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