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今月の永田町

小沢氏離党で、民主党分裂

8月下旬に話合い解散も

 野田佳彦首相が「政治生命を懸ける」と繰り返し表明してきた消費増税法案が6月26日の衆院本会議で、民主、自民、公明などの賛成多数により可決され、参院に送付された。しかし、反対票を投じた小沢一郎民主党元代表ら衆院38人、参院12人の計50人が7月2日、党執行部に離党届を提出し、民主党は分裂した。野田首相としては今後、同法案成立の〝悲願〟を達成するために、自民、公明との話し合いによる衆院解散に進むことになろう。もちろん、複数のシナリオが想定されているが、最終的にはお盆前の8月上旬か中旬に消費増税法案を自公両党の賛成を得て成立させ、同下旬にも解散に踏み切り、9月上旬の投票日に政界の新たな勢力図が示されるとの見方が有力になってきた。


 衆院本会議での消費増税法案採決後、国会内で野田首相と野党自民党の谷垣禎一総裁が握手をしたが、二人の顔に笑みはなかった。公明党とともに民自公の3党合意を結んだ結果、賛成363、反対96という圧倒的な差で可決したにもかかわらずだ。

 「投票行動では取りあえず一致したものの二人は疑心暗鬼の域を出ていなかったからだ」と自民党中堅幹部は指摘する。「〝小沢(一郎元代表)斬り〟を首相に求めてきた谷垣さんは、民主党内で小沢さんら57人が青票(反対票)を投じたにもかかわらず、彼らに厳しい処分をしないのではないかという疑念を持っていた。一方、どこまでの処分をできるか自信のなかった首相は、自民党が参院側でも法案成立に協力してくれるだろうかという不安がよぎっていた」(同)というのだ。

 首相はその疑念を払拭するかのように、同日夕の記者会見で「党議拘束がかかっていたので、党内のルールにのっとって厳正に対応したい」と述べた。その後、首相とともに処分を一任された小沢氏と親しい間柄の輿石東幹事長が党内融和を求めて小沢氏と会談を重ねたが、結局、話はまとまらず、小沢氏らは離党に踏み切ったのだ。

 「しかし党を飛び出したのは、衆院が38人と予想より少なかった。離党先行組の新党きずなの9人や新党大地・真民主の3人などと合流しても内閣不信任案を提出できる51数に届くかどうかギリギリのところだ」(自民党幹部)。その一方で、同幹部は「谷垣さんが9月の総裁選で再選されるための必要条件は、総裁選挙前に解散に追い込むことにある。ところが現状は、法案の衆院通過に協力しただけで何も得ていない。政権の延命に手を貸したのと同じ、などの強い批判が党内に噴出しており、衆院で内閣不信任案または参院で問責決議案を提出する最終局面が出てくるかも知れない」と語る。

 国会は会期が9月8日まで79日間延長されたが、審議スケジュールはかなり窮屈になることは避けられまい。予算執行の根拠となる特例公債法案でも野党の協力を得なければならない野田首相としては、自民党側の要求を次々に呑まざるを得なくなっていく。これに輿石幹事長が抵抗し続ける時は、“ 輿石斬り” を決断する場面も出てこよう。

 次に、審議入りできたとしても、「関東軍」ともいわれる参院自民党執行部は法案の修正をさらに迫る考えだ。来夏の参院選を念頭に入れ、手ぐすね引いて準備をしている。例えば、増税の時期と幅は法案に明示されたが、低所得者対策は両論併記だ。「逆進性」をどう緩和するのか、特定品目の税率を低くする「軽減税率」はどうするのかなど課題は先送りされている。自民党は、最低でも70時間の審議時間を確保したいとしており、採決はその後となる。

 その審議と同時並行して、裏舞台で最も激しく展開するのが「話し合い解散」が成立するか否かとなっていよう。自民党にとって困ることは、衆議院の解散を来年の任期満了近くまで引き延ばされること。「少しでも早い解散」が至上命題の谷垣総裁は増税法案賛成を条件に「解散の確約」を迫り続けることになろう。

 そこで、野田、谷垣両者にとって好都合なのが代表、総裁の任期切れとなる9月末前に総選挙をやってしまうことだ。結果は民主党が大敗するのは間違いないが、自民党も勝利できる見込みはない。

 ところが、「二人の思惑が一致している点がある。二人はときどき直接、電話で総選挙後についても話しているようで、お互いに大勝はできなくても、第一党になった方から総理を出し、公明も誘って大連立を組もうとの筋書きができているらしい」(野党関係者)というのだ。

 それが事実なら、消費税増税法案の参院での審議の入り口は非常に狭く遅くなっても、採決となる出口は8月上・中旬頃に決まっていることになる。そこで、同法案を成立させ、さらに修正協議を経て「違憲状態」を解消できる「0増5減」の定数削減法案を仕上げた上で下旬に解散に踏み切り、9月2日か9日の投票に、という線が色濃く浮かび上がってくる。

 民主党内での権力闘争に敗れ、大阪維新の会などの地域政党との連携も期待できずに見切り発車した小沢氏──。ただ、政界の一寸先は闇だ。小沢氏らの新党が求心力を増し、その規模が衆院で内閣不信任案を提出できる51人を上回った場合には、早期解散を求める自民、公明が、小沢新党から提出される同案に同調して野田政権を解散あるいは総辞職に追い込むこともあり得よう。

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