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尖閣対談(下) 今だから話そう!1978年尖閣上陸作戦の全貌

来年、尖閣衝突の懸念高まる

国際武道大学理事 大平光洋 氏  日本経営者同友会会長 下地常雄 氏

 中国は連日公船を尖閣の接続水域に派遣し、日本の領海侵犯も繰り返している。中国は「9月に出された野田政権の国有化宣言」が尖閣問題に火をつけたかのように言うが、1992年に尖閣を自国領土とした領海法を制定していることから見ても尖閣奪取の戦略的発動と見るほうが正鵠を得ている。34年前の昭和53年(1978)にいち早く、中国の策謀を見抜き、尖閣上陸作戦を敢行した国際武道大学理事の大平光洋氏と日本経営者同友会会長の下地常雄氏が、長い沈黙を破りその全貌を語り尽くした。


大平 上陸を果たした尖閣では、ここは日本国の領土と書いたり、日の丸を掲げたり、簡単な灯台みたいなものを作ったりした。ただ灯台といっても、電灯がついているから灯台といった基準の懐中電灯に棒をくくったような程度のものだった。

 一次隊が頭山門下、二次隊が藤元氏が中心となって20人ぐらいが行った。だが尖閣に2週間もいると、何もやることがなく、さすがにみんな飽きてくる。

下地 アナコンダほどじゃないにしても、丸太棒のような大蛇がいるという。

大平 人を呑み込む臭蛇(しゅうだ)というのがいる。

下地 だからテントの周囲に硫黄をまいて寝たそうだ。臭いのきつい硫黄は蛇よけになる。それで夜中もしばしば、硫黄の異様な臭いで目が覚めたという。

大平 江崎氏の話によると毎晩、幽霊が出る。それは親子連れの母親と女の子の二人連れがくるという。女の子はしくしく泣く。そういうのを何人か見ている。

 毎晩、江崎氏は念仏を唱え、般若心経を読んでいた。彼はそういう霊感が働くらしい。

つがいのヤギ持ち込む

下地 もう時効だけど、食料がないものだからヤギのオスと雌を連れて行った。それが異常繁殖してしまった。

大平 江崎氏が「ヤギを連れて行っていいですか」というので、「いいだろう」と言ったんだよ。それが異常繁殖した。

下地 琉球大学の教授と食事した時、尖閣諸島の話になった。最近、ヤギが増えていると言い出した。昔、確かヤギはいなかったはずだがと言うのだ。

 それで、「そうなの」と相槌をうったが、俺が当事者なのだから、とぼけてみたものの居心地が悪かった覚えがある。

 最初、乾パンを30ケース程度、持っていかせた。江崎氏は、それを小屋の中に入れて帰ってきた。それが2度目に行ったら、全くなくなっていた。

 漁船が台風で避難したときに、全部、持っていかれたからだった。それで何がいいかなということになって、繁殖の早いヤギということになった経緯がある。当時はそれがいいアイデアだった。

大平 羽井さんがヤギ捕ってきたらどうかって提案したことがある。

 尖閣のヤギは、人による捕獲もないし天敵もいない。ヤギは上の方に登って逃げるから、鉄砲ぐらいないと捕獲は難しい。ただあそこで鉄砲撃っちゃうとまずい。実効支配して、鉄砲持ってきているとしたら、それこそ海上保安庁は絶対むくれる。

 それで「そりゃー先生、難しいですよ」と言ったら、手で捕まえるのは、とてもじゃないができるものじゃないと言う。

下地 だから、異常繁殖して相当の個体がいる。それで尖閣の植物が全部食べられるのではないかと心配されている。

実効支配による覚醒効果

大平 そういうことで一応、実効支配した。

 そうでなければ中国が尖閣を攻めてきて、実効支配された竹島と同じで、日本は何もできなくなった可能性があった。

 第二次隊の藤元君などは、あれをやったから実効支配できたが、やらなかったら大事(おおごと)だったですよという言い方をしている。だから効果としては、われわれがやり、下地さんや羽井さんがやったというのは生きている。そういう意味合いでね。

 また石原慎太郎さんとは毎日コミュニケーションをとっていた。セスナ機を出してくれたり非常に意欲的に動いてくれた。

下地 実効支配したことによって、日本の政治家が領土問題に対してパッと目がさめた効果は測り知れないものがあった。世論も含め、そういった覚醒作用は大きいと思う。

大平 あの時は日本は経済成長していたし、中国に比べても通常兵力だったら負けないぐらいの軍事力を持っていた。だからこそ、あれができた。今みたいな、謝ってばかりのへなへな外交じゃとてもじゃないけど出来ないよ。

 そういう意味合いで、今回、石原さんが「東京都の尖閣購入計画」で活を入れ、それに押されて野田首相が「国有化」に踏み切ったというのは評価されることだと思う。

 あのころには、それでも燃えるところがあった。それが今、だんだんと日本は外交的能力が落ちつつある。とりわけ、日本をどう守るかという戦略的考え方がないことは致命的問題だ。外交的にどう守り発展させるかという基本的な考えがないから何もできない。

 勝海舟が旧幕臣でありながら、明治新政府に出仕したことを福沢諭吉が難じた時、「行蔵は我に属す、毀誉は他人の主張」と述べているが、「毀誉褒貶(きよほうへん)」は所詮他人事だ。

 結局、ある思想の元に、これをやらなきゃならないとなったら、それは実行に移さないことには何にもならない。

 そういう意味では、みんな黙ってやってくれた。

──みんなサムライだったということか?

 自分を自慢しようとか、そういう奴は誰もいなかったのは事実だ。

漁船に偽装した工作船

──西村慎吾元衆議院議員は、自分が尖閣に関心をもったのは、海底に石油資源があるからじゃない。台湾を守るためには、虎の子のジェット戦闘機を置いた航空基地が台湾東部の花蓮にあるが、尖閣を取られてしまうと、そこから花蓮が落とされる。そういう地政学的な価値があるのが尖閣だったと言っていた。

大平 台湾総統の馬秘書長とは仲良かった。亜東関係協会の会長もやっていた人物だ。

 それと亜東関係協会の実質的な主任だった粛さんなんかとは、しばしば尖閣問題を話したものだ。

 それで彼らは「大平さん、いいですよ。やってください。台湾は一応、あそこを自分らの領土ということでやっているけれど、そういうことで沖縄の人たちがやることには反対はしないし、反対行動もさせませんよ」と言ってくれた。

 あくまでも日台韓、それから米国と連携して、東シナ海での中国の暴走を防ぐという考え方ははっきりしていた。

 それで、こちらから尖閣に行っている間、台湾が抗議するとかしないとか、そういう話は一切なかった。

 一方、中国からは、漁船が何百隻もきた。これらは実際は、漁船に偽装した工作船だ。

 その意味で台湾というのは、考え直さなきゃいけない。今の中国共産党は、昔の孫文の時代とは隔世の感がある毛沢東のコミュニズムなんだから、そのことを注意しながら付き合っていく必要がある。

──中国は台湾と経済のパイを拡大させて政治の本丸を落とす「以商囲政」(ビジネスの外堀を埋めて政治を囲む)路線で熟柿を落とす作戦をとっている。その中国は今年1月、尖閣が核心的利益だとはっきりさせてきた。

大平 中国が狙っているのはあからさまに石油資源だと思う。それに対し民主党政権は、外交的戦略をもってなきゃいけない。それが何もないから問題だ。

 その場その場でやっているからぶれてくる。謝ったり逃がしたり、あとでちょっときつく言ってみたりという格好になる。

 ああいう風な外交では馬鹿にされるだけだ。国を守るための一番のものというと、まず領土だ。その領土を守る日本の気概と戦略が必要だ。

下地 世論が領土というものに対して意識が広がり、向上してきている。

大平 いいことだよ。

 なお3次隊からは青年社がやった。青年社は金集めはうまいから自分たちで何でもやれる。だから灯台でも、すごいのを建てている。

 結局、江崎氏は本部から帰ってこいと何度も言われたが、そのまま居残りたかった。

 青年社の江藤氏から森山欣司運輸大臣と話があるから俺と頭山氏に出てくれと言われたことがある。それで俺と頭山氏は出ないが、石門社の関二郎氏を出すよとなった経緯がある。

 そこで森山大臣としては、尖閣でヘリポートを作るから、みんな引き下がってくれという話が出たと思う。ただ詳細は一切、聞いていないから確認のしようがない。

 それで話がついて、江崎氏たちを引き上げろということになった。江崎氏は泣いて、何度も手紙が来た。「自分は死んでもかまいません。一人でも残ります」と書いていた。

 それを強引に引き下がらせた。案の定、江崎氏は沖縄のホテルで死んた。酒ばかり飲んで、荒れていた。

下地 そのせいだったのだろうか。

大平 当然だ。くやしくて仕方がなかったんだ。東京まで帰ってこいといったが、帰らないまま沖縄で死んだ。上陸して1年後ぐらいのことだった。

 4回目ぐらいのことだ。葬儀は確か青年社葬だった。

──尖閣の実効支配を強める必要があるが、具体的にすべきことは何か。

下地 具体的には海岸に桟橋を作るとか、避難用にもう少し整備する必要がある。

大平 前にも尖閣にヘリポートを作るという話がでたことがあった。それはまだやってないもんな。

下地 簡単な地ならしだけはやっている。

大平 灯台は台湾か中国が来て潰した。今度は新しくて本格的な灯台を作らなきゃいけない。その後、認知させなきゃいけない。認定させれば、そこは完全な領土となる。

 僕は外務大臣だった園田氏に言ったことがある。両院を開いて、わが国は領土問題はないという立場だけど、「日本の領土」だと国会で議決しろと言った。毛利松平も賛成したが、そこまで持ち込めなかった。

 それをやってないから、禍根を残すことになった。あれをどうしても復活させたい。

下地 あの時、強引にやっておけば問題はなかった。全部、後手後手だ。

──灯台の認定とはどういうものか。

大平 国家が認定するだけでいい。

 始めのうちは領土問題は、北進論を考えた。まず尖閣をやって、それから竹島、最後に北方領土という順だ。ただ竹島は戦後、ああいう風になった。

──竹島は実効支配されて、すでに50年間を超えている。国際司法裁判所によると、50年実効支配されると、それを覆すのは難しいとされる。だが、竹島というのは日露戦争においては不可欠な地政学的ポジションだった。

大平 そういう歴史をみんな忘れちゃうんだよな。

尖閣問題は中国にとって唯一のカード

下地 尖閣問題は来年、緊張することになるだろう。この対処については真剣に考えないといけない問題だ。

 ワシントンでは中国サイドが、ロビー活動などものすごい規模で動いている。新聞広告など宣伝活動を含め、共産党独裁政権だからできる総力戦できている。

 日本が平和ボケしたままだと、とんでもない結果を招くことになる。もっと危機感が必要だ。

 日本のマスコミも小さなことで大騒ぎしているけれど、大局的にものごとをしっかり見据える眼力がないといけない。

 具体的に中国が仕掛ける手は二つ方法があると思う。一つは大漁船団できて、一隻が上陸する。銃器装備も想定していた方がいい。当然、海上保安庁とそこで小競り合いとなる。

 そこで海上保安庁が力で押さえ込もうと銃撃すると、中国は待ってましたとばかり、いろんな挑発行為に出てくることが想定される。

 日本が先に武力行使したのだから、防衛措置として武器を使ったということになって、世界にアピールするはずだ。そういう意味でも、今の政治で日本はちゃんと対応できるのか。今の法整備からすると、おそらく出来ない。そのままずるっと行く可能性がある。

 前に航空自衛隊の人に聞いたことがあるのだが、スクランブルで発進して自分たちが危ないと思っても撃てないという。相手が撃ってきても、自分の判断だけで撃ち返す事はできず、あくまで上司の命令がないとだめだという。たとえ重装備していても,撃ち返すのは指令がない限りできない。そうしたら死にに行くようなものだ。これなんか法律上の不備で、無意味に前線の自衛隊員の手足を縛っている典型だ。

 もう一つ、日本側が尖閣に上陸する。すると中国の海上保安庁が主権侵害だとして、この人たちを逮捕する。それで中国は国際社会に自国領土だとPRできる。

 これから中国経済もおかしくなるし混乱してこよう。すると政府は外に危機的状況を作り出し、国民の目を外に転じさせるという常套手段を使う可能性は高い。尖閣は中国にとって唯一のカードだ。国内を一致団結させ束ねるには最高のものだ。さらに台湾をも巻き込むことが可能となるわけで、一石二鳥だ。

 与那国や石垣といったその周辺を巻き込んで、尖閣を中心としたあの地域で戦争がおきる可能性は十分あり、内外ともの備えを十分しておかないといけない。

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