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待ったなし! 衆参選挙制度改革

国会主導はもはや限界か

第三者機関が抜本改革案を

 「1票の格差」が2・43倍となった昨年12月の衆院総選挙は、「違憲、無効」「違憲状態」などとする高裁の厳しい判決が相次ぎ下された。国会が議員定数の削減はもとより格差の是正措置を怠ってきたことは明らかだが、いまだに各政党の思惑から抜本改革案が策定できない体たらくな状況が続いている。もはや政治家自身に政治家を選ぶ選挙制度の改革案策定を任せるのは限界だろう。有識者による選挙制度改革審議会などの第三者機関を早急に立ち上げて、議員定数削減を含む抜本改革を断行するしか解決策はあるまい。


 「1票の格差」をめぐっては、最高裁大法廷が2011年3月、09年に行われた衆院選が2・30倍だったことから「違憲状態」と判断し、各都道府県に1議席ずつ配分して残りを人口比で割り振る「1人別枠方式」の廃止を求めた。この方式が格差を生じる主因だと判断したためだ。

 これを受けて国会は昨年11月、区割りを定める法律から同方式の条文を削除するとともに、300ある小選挙区を「0増5減」するという選挙制度改革法を民主、自民、公明などの賛成多数で成立させ一定の方向性を示した。衆院の山梨、福井、徳島、高知、佐賀の5県の小選挙区を3から2に減らし、格差は1・79倍に改善されることから立法府としての努力の跡は見られたと言っていい。

 ところが、昨年12月の総選挙は、区割りを見直さずに行われてしまった。例えば、有権者が最少の鳥取県は1議席になるはずだったが、2議席のままで行われたのである。その結果、1票の格差は「違憲状態」とされた2・30倍よりも悪化して2・43倍にまで広がり、格差が2倍を超える選挙区も45から72に増えてしまった。最高裁判決から1年9カ月も経ちながら改正選挙法に従って選挙をしなかった国会が「著しい司法軽視」をしていると批判されても仕方がない。

 相次ぐ判決は、東京、大阪、広島各高裁と同高裁松江支部、同岡山支部、福岡高裁宮崎支部、同那覇支部、仙台高裁秋田支部など16訴訟に対して下されたもの。「違憲・無効」が2 件、「違憲」12件、「違憲状態」2件という内訳だが、なかでも、広島高裁が3月25日に言い渡した判決は、衆院選を「無効」とする戦後初の判断だけに大きな波紋を起こしている。

 その判断の要旨は、①2012年12月衆院選の選挙区割りは、11年3月の最高裁大法廷判決が違憲状態として廃止を求めた1人別枠方式に基づいているのに、憲法上要求される合理的期間内に是正されず「違憲」である②今回の選挙は、違憲状態が悪化の一途をたどる状況下で実施され、最高裁の違憲審査権も軽視されていると言わざるを得ず、憲法上許されるべきではない事態に至っており「無効」だが直ちに無効とするのは相当ではなく、衆院選挙制度改革関連法に基づく区割りの改定作業が始まっていることから、同法施行から1年後の13年11月26日の経過後に無効の効力は発生する──といった内容だ。

 この判決では、無効の効力発生に一定の猶予期間を設けたが、翌日の広島高裁岡山支部の判決は即時無効とするさらに踏み込んだ内容になっている。「すべての裁判は上告される予定だが、判決自体あいまいな点がいくつもある。例えば、何倍以内なら合憲なのか分からないし、無効になった場合の再選挙のやり方などは公選法に書かれていないので突出した判断だとも言える。最高裁が年内にも統一見解を出すが、無効判断を支持することはあり得ないだろう。だが、いずれにしても国会が早急に是正措置を取らなければならないことは間違いない」(全国紙政治部デスク)と言える。

 だが、この一連の判決に対する政府・各政党の反応はさまざまだ。

 菅義偉官房長官は「それぞれの国会議員が真摯に受け止め、速やかに是正に向けて対応する必要がある」と述べるとともに、「大変厳しい判決だった。(小選挙区)区割り改定案が勧告されれば、速やかに法制上の措置を講じたい」と語り、小選挙区の「0増5減」実現を急ぐ考えを強調した。自民党の石破茂、公明党の井上義久両幹事長も27日の会談で、「0増5減」を最優先で取り組む考えで一致した。

 しかし、昨年11月に成立させた「0増5減」に対しては、高裁の評価に差が出た。同じ違憲判決でも「是正が期待できる」(東京高裁)、「改善の方向が一応示された」(大阪高裁)と評価する判断がある一方で、「駆け込み的」であくまでも1人別枠方式を基礎としており「格差是正措置とは言い難い」とする広島高裁岡山支部は否定的な見解もあった。他の高裁でも批判が出ていることから、1人別枠方式を実質的に排除する方向性が求められるだろう。

 ただ、そうだからといって一気に抜本改革を実現することも困難であることは間違いない。まずは「0増5減」の区割りを決める公職選挙法を改正し、同時に定数削減を含めた大掛かりな選挙制度改革案の策定を進めることが現実的である。

 「ところが、その抜本改革案作りの段階で各政党の思惑が優先し、まともな案が出てこない。その筆頭が、自民党の改革案だ」と語るのが、足元の自民党員たちだ。ある大阪出身の自民党市議(複数)は「公明党に気を使い過ぎた案になっていて公正さを欠き、国民の批判に耐えられないのではないか」と語っている。それもそのはず。1票の平等に逆行している案だからだ。

 自民党案はまず、現行の比例11ブロックを8ブロックに再編し、「北海道・東北」「北陸信越・東海」「中国・四国」を統合する。また、比例代表については、30削減して150とし、議席配分はその150を(1)第1枠90議席(2)第2枠60議席──の二つに分け、ブロックごとに第1枠をすべての政党の得票数に応じてドント式で配分し、第2枠を比例2位以下の政党にドント式で割り振るとしている。また、各ブロックで、得票数の少ない政党が得票数の多い政党の議席数を超えることのないよう措置するとしている。

 同案の作成を主導した自民党の細田博之幹事長代行(選挙制度改革問題統括本部長)は、「昨年の民主党案と思想的には極めて近い」との見解を書面で発表した。だが、あまりに公明党との合意形成を先行させたい余り、党利党略の臭いがプンプンしてくるし、矛盾も多い。

 読売新聞(3・23)が昨年の衆院選データを用いて自民党案に当てはめ、再編後の「北陸信越・東海ブロック」を試算したところによると、定数は27で、まずはドント式で16議席を各党に振り分け、優遇枠は11議席になる。もし、優遇枠がなければ、17議席目以降も得票を整数で割った商の順に、17位の自民6議席目、18位の日本維新の会4議席目、19位の民主党4議席目…と議席が配分されることになる。

 ところが、優遇枠では第一党の自民は除外され、維新、民主も「合計議席が自民を上回らない」ようにするために5議席で打ち止めとなり、その分の議席はより得票の少ない政党に配分されることになる。その結果、約312万票の自民党と200万票強の維新、民主両党が同じ5議席で並ぶ。公明党は自民党の3分の1強の得票にもかかわらず4議席となり1議席しか変わらないのだ。得票数が第一党と第二党の1票の価値が異なり、違憲と指摘される可能性も出てこよう。

 読売新聞は「1議席あたりの得票数で比較すると社民の約26万票、公明の約27万票に対し、自民は約62万票で、大きな格差が生じている」と締めくくっている。細田氏は「違憲論は単なる誤解だ」と言うが、これほどゆがみの大きい選挙制度が司法の判断に耐えられるだろうか。司法が違憲と判断した制度の見直し案が違憲の疑義ありというのでは話にならない。

 自民党案に対して、公明党は28日の中央幹事会で受け入れを決定。さらに、同党は自民党と同案を与党案として正式に決定するという合意文書を交わすことになった。

 しかし、日本維新の会の橋下徹代表は「かなり厳格に1票の価値を求めてきている司法の流れからすれば、国会議員は謙虚な気持ちを持って、自民党の改革案は憲法違反だと認識すべきだ」と反対の

 意向を表明。みんな、民主も同じく反対の立場だ。

 民主党の政治改革推進本部(岡田克也本部長)では3月26日、岡田氏が1票の格差是正のための「0増5減」を含めて小選挙区定数を30、比例代表を50それぞれ削減する新たな案を提示し、大筋了承された。つまり、民主党はあくまでも定数削減を含む抜本改革を格差是正と一体で処理する考えなのだ。

 だが、この民主案に対しては自民党が「いたずらな引き延ばしにならなければいい」(高市早苗政調会長)と批判。公明党も「受け入れられない」(北側一雄副代表)ことを明らかにしている。社民党も「比例削減は多元的な価値が国会に反映しなくなる」(福島瑞穂党首)として反対だ。

 「違憲状態」と判断されているのは衆院選だけではなく参院選も同様だ。参議院は昨年11月、選挙区の定数を「4増4減」して「1票の格差」を是正する改正公職選挙法を民主、自民、公明などの賛成多数で可決、成立させた。

 それにより、神奈川県と大阪府の定数を6から8へ2ずつ増やし、福島、岐阜両県で定数を4から2へと減らすことになった。今年夏の参院選から適用されるが、これにより「1票の格差」は5・124倍から4・746倍に縮まる。だが、同法は付則で16年の参院選までに選挙制度の抜本改革の結論を得る方針を明記している。また、昨年10月の最高裁判決は現行制度の見直しを求めているため、参院選挙制度協議会は具体案づくりを急がねばならない。だが、それも開店休業状態で見通しは立っていない。

 これで果たして政治主導の選挙制度改革ができるのか、極めて疑問である。公明党の石井啓一政調会長は「有識者に任せても答えに困るのではないか。国会議員自らがきちんと責任を持って答えを出していくことが必要ではないか」と語ってはいる。もちろん、立法府がベストを尽くしイニシアチブを発揮して成案を得ることが望ましいが、党利党略案の作成が優先され、その対立で「決められない政治」が続くのであれば、有識者で構成する第三者機関に抜本改革案の策定を委ねて対処する方が賢明だと言えよう。

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