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子供への投薬にようやく「警告」 抗うつ剤、遅すぎる厚労省の対応

精神医療の「薬偏重」露呈

 服用すると、攻撃性が増すなどの副作用が強いとして問題となっている抗うつ薬について、厚生労働省は製薬会社に対して、18歳未満への投与を慎重にするよう、添付文書の「警告」欄の改訂を指示した。海外の臨床試験で、薬の有効性を確認できなかったというのがその理由だが、長い間、子供への投薬に警告を発してこなかったことは薬物治療に偏ったわが国の精神医療の異常さを浮き彫りにしている。

 問題となっているのは1999年以降に承認された選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤(SNRI)などの、いわゆる「新世代」抗うつ薬6種類。これらは感情や思考をつかさどる脳の神経伝達物質に作用する。従来の抗うつ薬よりも副作用が弱いとされてきたが、厚労省は2006年、「自殺企図の危険が伴う」などの使用上の注意の改訂を指示していた。

 今回は、警告欄の改訂指示を出しことは、子供への投薬に対する警鐘と言えるが、その理由が子供のうつ病患者に対する薬の有効性が確かめられなかったというのだから、わが国の医療行政の怠慢ぶりを示すケースでもある。というのは、06年当時、すでに米食品医薬品局(FDA)の評価結果によって、抗うつ薬を服用した子供の自殺傾向が2倍高まることが分かっていたのだ。

 大人への投薬でも危険な副作用が確認されている薬を、脳が発達段階にある子供に処方することの危険性は容易に推測できる。しかし、この間、厚労省が「警告」の改訂に動かなかったことは、安易な投薬が横行するわが国の精神医療の重大な欠陥を象徴するものだ。

 うつ病は「心のカゼ」とよく言われ、誰にでも起こりうる病気というイメージが広まっている。しかし、もともと「心のカゼ」は抗うつ薬を販売するための、製薬会社のキャッチコピー。早く精神科にかかって、薬を処方してもらえば早く治るというわけで、政府、製薬会社、精神医療界が一体となって早期受診キャンペーンを展開してきた。

 その結果、99年に約24万人だったうつ病患者は今、その2・5倍に増えている。投薬の必要のない軽いうつや、うつ状態までも「うつ病」と診断する精神科医が増えたからだ。これにともない、抗うつ薬の市場規模は99年から10年間で約5倍に膨れあがった。

 背景には、精神疾患の診断が主観的に行われやすいことに加え、処方箋を出すことで利益がでるという診療報酬制度の問題点がある。さらには、精神疾患が薬の投与によって治療されるべき生理的な障害と考える傾向が強いわが国の精神医療の体質も重なっている。

 承認から14年間、成人への投薬でもその副作用として自殺企図の危険性がある抗うつ病薬を子供に投与することに警告を発してこなかった厚労省の怠慢の背後には、利益優先からくる過剰診断と過剰投薬という、精神医療の深刻な問題が隠れている。

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