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今月の永田町

加速する野党再編の動き 民主、みんなの亀裂深刻

 参院選で惨敗した民主党に加えて、みんなの党の亀裂が深刻化している。まずは民主党。29の1人区で全敗するなど結党以来の大敗北を喫し17議席にとどまり、昨年の衆院選に続く国政選挙連敗となった。それにもかかわらず海江田万里代表は7月26日の両院議員総会で「信頼回復の努力は道半ばだ。一年後くらいに(党再建の)結果が目に見える形で出ていなければ、代表をお願いすることはないだろう」と続投の意向を示した。


 安倍首相は7月22日、参院選の圧勝を受けて自民党本部で記者会見し「決められる政治によって、この道をぶれずに進んでいけと国民から力強く背中を押してもらった」と述べるとともに、当面の政策については「国民が最も求めているのは、全国津々浦々まで実感のできる強い経済を取り戻すことだ。秋の臨時国会は成長戦略実現国会だ」と語り、経済再生を最優先課題として取り組む考えを強調した。

 その一方、憲法改正については「しっかりと広く深く議論していく必要がまだあるんだろう。腰を落ち着けて議論を深めていきたい」と述べ、時間をかけて合意形成を進めていく姿勢を示した。

 今回の参院選では憲法改正が初めて主要な争点となり論戦の深化が注目されたが、首相は論争の主導権を取ろうとはしなかった。むしろそれを避けて、国民の多くが期待感を示す景気回復のための経済政策「アベノミクス」を中心に訴えた。

 それには、改憲論争を挑めば挑むほど、共に戦っている公明党の政策との違いが出てしまい、かえってマイナスになるとの戦術上の判断があった。同じ改憲勢力の日本維新の会とみんなの党の伸びが選挙期間中に見られず、選挙後、一気に改憲には動けなくなってきたとの読みもあったろう。

 実際、選挙後の改憲政党の議席数は伸び悩みとなり、すぐには手をつけられないので「腰を落ち着けて議論を深めていく」しかないとの発言になったものと見られる。

 改憲政党の獲得議席は、当初、予想された議席を下回った。みんなの党と日本維新の会はともに8議席で、非改選議席はそれぞれ10議席、1議席なので、両党を合計すると、参院での総議席数は27だ。圧勝した自民が65議席で非改選を合わせると115。従って、参院での改憲勢力3党は142にとどまった。参院内の会派・新党改革も同じく改憲の立場で、一人だったのが選挙後、二人加わり、計3人に。それを足しても145。改憲の発議に必要な議席数は3分の2に当たる162なので、17議席不足している計算だ。

 しかし、不足しているからといって看過している自民党ではない。同党幹部は「総理は腰を落ち着けて議論をしていくと冷静さを装っていたが、もちろん議論は深めていくにしても水面下では切り崩し工作をやっていく」と語る。その切り崩し工作の第一の標的は民主党だ。

 結党以来最低の17議席にとどまり惨敗した民主党は、細野豪志幹事長が責任をとって辞任。海江田万里代表の求心力も低下しボロボロの状態だ。民主党の参院議席は59議席に減ったが、その中に改憲派が約20人おり、自民党はその人たちの取り込みを狙って攻勢をかける考えだ。その中には憲法を旗印とした党の分断、新党結成も含まれているという。

 もちろん、連立を組む公明党対策にも全力を傾ける。「公明党は参院に20議席もっている。改憲に慎重ではあるが、彼らは『加憲』の考えで、自衛隊の表記についての盛り込みは『是』の立場だ。うちの改憲案をゴリ押しせずにうまく修正すれば、乗ってこれるかもしれないし、維新、みんなの合意も得られる可能性はある」と前出の自民党幹部は続けた。

 さらに、その公明党の重たい腰を押すために仕組んだこともあるという。それが「埼玉選挙区での自民の公明党候補への応援だった」(全国紙政治部デスク)というのである。「公明党は本体の創価学会がイエスと言わなければ政策決定は難しい。特に、重要懸案はそうだ。その学会に対して『参院埼玉で自民に勝たせてもらった恩義があるので政策面で自民に譲らねばならないことがある』という対学会カードを自民、公明両党が持った」(同)というのだ。

 改選定数が3人の埼玉選挙区に、自民党埼玉県連はもともと自民候補を二人擁立する予定だった。そこに公明党から急きょ立候補したいとの申し入れがあり、埼玉県連は大激論になった。結局、自民が譲って自民からの擁立は1人だけとし公明の候補者を当選させて恩義を与えた形になった。自民の石破茂幹事長も全国で唯一、この埼玉選挙区の公明候補応援に入った。

 そこに、秋以降の政局をにらんだ自民、公明首脳による創価学会対策が潜んでいたというわけだ。政権にとどまりたい学会としても、義理を果たすためなら政策面での譲歩は止むを得まいとの言い訳ができることになる。

 公明党も改憲勢力に加勢すると、145に20が加わって165に膨れ上がる。これで参院は3分の2をクリアする。衆院ではすでに、自民294、維新53、みんな18と計365議席を占めており、3分の2の320を超えている。ここに公明が乗ってくると、396議席という巨大勢力が誕生し、改憲への下準備は整うことになる。

 問題は、安倍首相が改憲戦略をどう描いているかだ。

 首相は、第2次政権発足以来、憲法改正を発議するために必要な議員数を3分の2から過半数に引き下げ、改憲をしやすくしようと「憲法96条の先行改正」を軸に他党に呼び掛けてきた。維新とみんなが昨年12月の衆院選の時のように伸びればそれに突き進む可能性もあったろうが、結果が伴わず戦略を変えざるを得なくなったのだ。それが、参院選圧勝後の首相会見にあるように、時間をかけて合意形成を図るというものである。だからといって、いつまでも時間をかけるという考えはない。

 「今の首相の頭の中にあるのは、3年後の参院選を衆参ダブル選挙にして一気に勝負に出ることだ。錦の御旗は憲法改正。かつて小泉純一郎氏が郵政民営化で勝負に出たのと同じように、シングルイシューの改憲で国民の支持を得て、その流れを確実なものにする」と自民党関係者は強調する。その上で、「それまでの3年のうちに、国会内での多数派(3分の2以上)形成に努めつつ、改憲のための国民投票法が抱える3つの宿題を済ましておく。これが首相の改憲戦略」だと語った。

 確かに首相は先の会見で、「まずは国民投票への整理をしていく。その上に96条(の先行改正)をできればという考えだが、多数派を構成できるものは何かということも踏まえて考えていきたい」と語っている。せっかく国会が憲法改正を発議できるようになっても、その審判をする国民がどういう規定の下で投票をするかの法的裏付けがあいまいなままになっている。いずれやらねばならない国民投票法の整備にまず取り掛かるというのもあり得る選択肢の一つだ。

 その国民投票法には、まだ定まっていない「三つの宿題」が残っている。この法律を成立させることを最優先したため、与野党が決着できなかった部分を付則を設けて先送りしたものだ。それは①公職選挙法の投票年齢や民法の成人年齢などを18歳以上に改正すること②国民投票の際、公務員が賛否について勧誘することなどは制限されないよう法整備すること③憲法改正以外に国民投票を拡大するかを検討すること─の3つ。これを与野党がこれから議論して合意をしなければならない。大変な作業が待っているのである。

 さらに何%の投票率であればその国民投票が成立するかについても決めておく必要がある。仮に、投票率が20%しかなく、その過半数で成立するということになれば、国民全体からすると、10人に1人以上が賛成すれば改憲が成立することになるが、本当にそれでいいのかどうか。これらを整備しておかなければ、国会で発議されても国民投票にかけられない事態に陥り、先に進むことができない。

 それ故、首相としては「国民投票法の整備という外堀を埋める作業を優先して着手することにし、同時に改憲の中身についての議論を深めて多数派形成に向けた工作を図るという新たな作戦に出た」(自民党関係者)というわけだ。

 一方、国民との議論を活発化させることにも精力を注ぐ。石破幹事長は22日、「党憲法改正草案への国民の理解を求めていくため、戦略的に対話集会のようなことをやっていく」と述べ、全国各地で国民と憲法について語り合う集会を開く考えを表明した。国会内対策と国民への改憲意識を高める運動を同時に行い、3年後に備える戦略と見られる。

 だが、安倍政権が3年後、衆参ダブル選で勝負をかけられるほどの高支持率を維持しているかどうかは不透明だ。昨年12月の衆院選、6月の都議選、そして今回の参院選と自民党は連勝し「1強他弱」時代を迎えている。その状況を継続するためにはいくつもの大きな壁を乗り越えなければならない。

 その第一は、消費税増税に踏み切るのかどうかだ。来春引き上げを予定してはいるが、その決断は秋にも行われる見通しだ。ところが、早くも閣内で「8月12日のGDP速報値(4─6月)を受けて決断すべし」(麻生太郎財務相)と「9月9日の改定値が出てから慎重に検討し発表する」(菅義偉官房長官)との違いが表面化している。賃金の上昇もなく消費税を上げれば、国民の不満が大きくなることは十分予想できる。内閣支持率の下落は必至だろう。既定方針で増税するのか否か、首相にとって難しい判断を迫られることになる。

 第二に、6月に発表された「アベノミクス」の第3の矢は踏み込み不足が目立っていたため、秋に投資減税や規制改革の推進などの思い切った具体策が追加して出されなければならない。それが評価できるものとなるのかどうか。

 第三は、原発再稼働を唯一公約として掲げた自民党が、自治体の説得を十分にできるのかどうか。安全審査をパスしても地元が理解を示さなければ反対運動が盛り上がり、安価なエネルギー供給の基盤が揺らぐことになる。

 第四には、参加した環太平洋連携協定(TPP)交渉で、国益を守ることができるのか否か。首相は「息を呑むような棚田を守り、日本の国柄を守る」と語り、農業分野では妥協しない姿勢を強調したが、本当に国益に反すれば撤退も辞さない覚悟があるのかどうか。有言不実行、美辞麗句の連発のみに終わっては、国民から見放されることになりかねない。

 自民圧勝は国民の期待の表れに過ぎない。約4年前に国民は「一度は民主党に政権をとらせてみよう」と思い、期待の1票を投じ政権が交代した。しかし、それが期待外れに終わったことが明瞭になったために、今では再起できるのか否か予想もできないほどの状態になってしまった。期待のしっぺ返しは大きい。早くも自民党内では新人議員の派閥加入争いが生じていたが、国民に目を向けないかつての利権政治やポスト獲得を最優先した派閥政治が復活すれば、期待は失望に変わっていく。

 それだけに首相は、政治家となった原点である改憲の志を果たすべくさまざまな壁を乗り越え、国・国民益を生命視して邁進する決意と覚悟を強めなければならない。

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