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ミャンマーパイプライン稼働

中国の狙いはマラッカ・ジレンマの克服

 ミャンマーと中国を結ぶ天然ガスパイプラインが試験操業を経て、中国への天然ガス供給を始めた。パイプラインは、ミャンマー西部のベンガル湾に面するチャウピューと中国雲南省の省都昆明を結んでおり、2010年6月に着工、昨年5月末に完成した。天然ガスパイプラインと並行する格好で作られている原油用パイプラインもまもなく完成する予定で、中国は新たなエネルギー流通ルートを確保することになる。

 ミャンマーが欧米諸国の経済制裁を受けながら、生き延びてこられたのは豊かなエネルギー資源があったからだ。原油の予想埋蔵量は32億バレル。とりわけ天然ガスの予想埋蔵量は、インドネシアやマレーシアと肩を並べる88兆7000億立方フィートとされるほどの天然ガス資源国だ。

 当初、隣国タイが仏トタール社が開発したミャンマーの天然ガスを発電用エネルギーとして利用していた。ミャンマーは莫大な外貨を手にし、タイは経済発展に不可欠なエネルギーを確保した。さらに、インドや韓国がミャンマーの天然ガスを欲しがった経緯があるが、中国がこれらを出し抜く格好で機先を制した。

 インドはバングラデシュ経由かインド北東部経由でパイプラインを敷き、コルカタへのルートを考えていた。韓国は天然ガスを液化して世界市場に流そうというビジネスモデルを持っていた。

 だが、これを落札したのは中国だった。しかも、露骨な政治力を駆使しての落札だった。

 というのも英米が2006年に、ミャンマーの人権侵害状況を強く非難し、アウン・サン・スーチー氏との対話を求める決議案を国連安全保障理事会に提出した。採択されればミャンマーに関する初の安保理決議になるということで、ミャンマー政府としてもこれを無視できなかった事情があった。これを常任理事国の中国が、その特権である拒否権を行使して握りつぶした。

 その恩義に、2カ月後にミャンマーは、中国に天然ガス油田の採掘権を贈呈したのだ。

 ともあれ、中国はのどから手の出るほど欲していた天然ガスの油田開発だけでなく、ミャンマーから直接のパイプラインを引いて雲南省や重慶など中国内陸部への供給ルートを確保した。

 中国は、2本のパイプラインで年間2200万トンの原油と同120億立方メートルの天然ガスを運ぶことが可能となる。これは中国の年間原油輸入量の約1割、天然ガスにおいては4分の1に相当する量だ。このパイプラインは、沿岸部から経済を牽引してきた中国の発展形態を大きく変える可能性を秘めている。

 だが、中国が膨大な投資を惜しまずパイプライン建設に踏み切ったのは、内陸部へのエネルギー供給ルートの確保のためだけではなく、マラッカ・ジレンマを克服するためだ。

 世界第二位の経済力を持つまでになった中国のエネルギー需要は旺盛なものがある。石油消費量は、すでに米に次ぎ世界第二位にまで浮上してきた。

 こうした経済成長と同時並行する格好で、中国のエネルギー需要は大幅な拡大傾向を示しており、海外依存度は56・5%(2011年度)にまで拡大。そのほとんどが中東やアフリカからの輸入に頼っており、全輸入量の8割以上がマラッカ海峡を経由して中国に搬入されている。

 だが、狭くて航路が限られているマラッカ海峡は、有事に弱く簡単に封鎖することもできる。マラッカ・ジレンマとは、マラッカ海峡における中国の潜在的な脆弱性をいう。

 中国が懸念しているのは、マラッカ海峡でしばしば出没した海賊の横行ではない。海賊は、タンカーや貨物船に武器を携帯した治安要員を乗せていれば簡単に撃退できる。

 中国がにらんでいるのは、欧米がマラッカ海峡封鎖に踏み切った場合や同地域の有事を想定している。

 インド洋から東シナ海に抜けるには現在、マラッカとスンダ、ロンボク海峡の3つを抜けるしか手はない。他のルートは浅瀬や難所が多く、現実的ではないからだ。欧米や東南アジアがその気になれば、中国にとって戦略的ウィークポイントとなるこれらの3海峡を封鎖できることだ。

 そうなった場合やそうさせないためにも、中国はマラッカ海峡など3海峡を通過せずにエネルギー物資を国内に運び入れる必要がある。そのために中国が目をつけたのが、チャウピューと昆明を結ぶミャンマー回廊だったというわけだ。

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