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一般社団法人 日本・ガーナ経済文化交流会 加賀祐介・代表理事に聞く

21世紀はアフリカの世紀

ガーナで金貿易、期待される先行利益

 ガーナの公用言語は英語。もともとイギリスの植民地だった。ただ周りの国はほとんどフランス語圏だ。現在、豊かな資源と治安の良さが評価され、ガーナは西アフリカ進出拠点として活用されるケースが顕著となってきた。他社に先駆けてガーナに進出し、そのパイロット役を期待されている日本・ガーナ経済文化交流会代表理事の加賀祐介氏に、ガーナビジネスのリスクと課題を聞いた。


──英国がガーナを押さえたのは、何か地政学的な意味はあったのか?

 植民地時代、もともと奴隷の輸出基地だった。ヨーロッパとかアメリカとかに積み出していった有名な港があった。

──現在、ガーナではどういったビジネスを展開しているのか?

 昔、鉱山開発が本業で、金の買い付け業務をやってきた。金を現地で安く買って香港に送るというもので、今も継続してやっている。

 相場で買ってもらえるところだったら、どこでも売るが、基本的に香港が一番、高く買い取ってくれる。大体、月に50キロぐらいをガーナから香港に持ち込んでいる。

──金の取引場所は、香港のほかにはどこがあるのか?

 ニューヨークとかロンドン、ドバイにもある。

──もともと貿易をしていたのか。

 全くの素人だ。キャッシュを持っていって現地で金を買い付け、ハンドキャリーで香港まで金を運ぶということをやっていた人物がいた。こうしたやり方は、結構リスクの高いやり方だが、しっかりリスク管理さえすればビジネスにはなる。

──金は国外持ち出しのチェックが厳しいのでは?

 ガーナでは昔、5キロまでは持ち出せた経緯がある。一応、国家機関のPMMCを通して届出を出せば許可がとれ、持ち出しが可能だった。ただ今は、輸送でしか受け付けてもらえないシステムになっている。

──将来の展望は?

 金鉱山では掘ったらすぐ出るようなところもあり、中国人が退去したこともあって採掘権を購入して機械を導入したら利益を出せるような事案が結構、出揃うようになっている。

 なおアフリカ西部というのは治安が悪かったり、日本から遠く地政学的距離があるのは事実だが、今後は西部にも力を入れていくことにならざるを得ない。これまで行っている人はいないことから、パイロット的な使命が残っていると自覚している。

──外国人も鉱山の開発権は購入できるのか?

 可能だ。ただ、広さが25エーカー規模の場合、ガーナ人だけしか開発できない。大型鉱山については外国人でも鉱山局で許可をとれば、開発可能だ。

──ガーナに資本投下する主要国はどこか?

 アメリカや南アフリカだ。金の産出では第一位は南アフリカ、豪州、第3位がガーナだ。

──税制は?

 住民票とかないので、税制は整備されていない。税収が安定していない。日本のように所得税とか住民税とか集めることは不可能だ。

 これはガーナだけでなくアフリカ全体の問題点もある。

 それで金取引とか大企業からしか、税収を期待できない状況にある。消費税をはじめとして、国民からは税をとりにくい構造的問題がある。

 国に金はなく、インフラも海外頼みという形にならざるを得ない構造問題がある。道路の整備は中国が先行していて、橋とか港湾整備などが日本としてやれるところだ。教育とか人道支援的なところを日本が率先してやる必要があろう。

──昨年、ガーナではゴールドラッシュで一攫千金を企んだ中国人がたくさん、国外追放されたことが報道された。

 国外追放された中国人が1万人ぐらいだから、結構な規模だ。ガーナ人を雇用してやればよかったのだけれど、自分たちで機械を持ち込んで、マーケットも通さずに中国に送るという全部取りを図ったため政府が警戒心を持った。

 国家とすれば、ODAとかで中国から道路を作ってもらったりしていたので、関係は良かったのだが、殺人事件など現地のガーナ人とトラブルを起こして、ガーナ警察と中国人がもめたりした。

 基本的に現地の鉱山では、ガーナ人と中国人というのは仲が悪い。無許可の鉱山を開発していたとかのケースも結構あった。とりわけ殺人事件などが起こったことで、中国に対する国民感情が悪化し、政府も無視できなくなって軍隊を入れて鉱山を一気に制圧した経緯がある。

 それでビザが切れていた人達は、全員、強制送還の対象になった。それが昨年4月、5月のことだった。

 今も中国人の入国に関してはガーナ政府は厳しい態度で臨んでいる。ただ、道路建設とかスーパーの進出とか別の仕事もあるので、そういった関連の中国人については排除されることはない。

──中国の海外進出は、中国本土から機械を入れて、ワーカーも中国人を雇用して、現地に金を落とさないシステムだと聞くが?

 その通りだ。

 中国のイメージというのは印象がよくない。はじめは多分、よかったかもしれないが、中国のイメージというのは資源を取り尽くすイナゴ軍団だ。

──そういった中国人の進出は、アフリカ全土で起きているとみていいのか。

 そうだ。アフリカのどこでも日常のこととして存在する。

──ガーナにいる日本人は何人?

 大使館の登録では約350人となっているが、海外青年協力隊とか、JICAとか実際に仕事に携わっている人は70人程度だろう。

──強制退去数だけで1万人の中国人と比べると圧倒的な少数派だ。

 そうだ。

──ガーナそのものの将来展望はどうか。

 ガーナの強みは資源があることだ。金の埋蔵量は南アフリカ共和国、豪州に次いで世界第3位だ。もともとゴールドコーストと呼ばれていたほど、金の鉱区としては歴史的なものがある。

 石油も5年前、西の海沿いで油田が発見された。三井も油田の鉱区を買い取って開発に乗り出している。

 その他にもボーキサイトとか、農業ではチョコレートの原料となるカカオ。それらが主要なものだ。

 ただ、現地にチョコレートの工場があるわけではなく、豆だけを森永製菓などが輸入している。

──21世紀はアフリカの世紀といわれるが、実感はあるか?

 活気がアフリカにはある。10年後、20年後にはアジアが戦後復興を遂げていったような大きな勃興が起きる活力を感じる。早ければ10年後、資源があることと人口、若い方が中心となっている人口構成も魅力だ。

 ネックになっているのは、治安の悪さだ。やはり宗教の問題がからんでくる。

──ガーナの治安はどうか。

 キリスト教圏にあるガーナの治安は悪くない。イスラムもあるがイスラム原理主義のような人は存在せず、テロや内戦はない。

──反政府武装勢力は?

 ない。国境沿いにもない。

 治安面での不安定要素はない。西隣りはコートジボアール、東にトーゴ、北にブルキナファソやマリがあるけど、基本的に西アフリカは仲がいい。

──西アフリカと東アフリカでは国柄が違うのか?

 アフリカ全体で治安が悪いが、とりわけ北の治安が悪い。やはりイスラム教徒が多いからだ。イスラム原理主義という一番は宗教上の問題が絡んでいる。

 ケニアとかタンザニアとか、モザンビークとか東アフリカの治安は比較的いい。

 アフリカ南部は大分、治安が良くなっている。ただ南アフリカのヨハネスバーグとか都会にいくと、ちょっと治安が悪かったりする。ガーナと近いナイジェリアは、人口が1億6000万人ぐらいで、アフリカで一番大きな国で、一番治安が悪い国でもある。

──理由は。

 キリスト教徒とイスラム教が半々でもめている。また石油の利権争いがあったりして、宗教の軋轢と金の争奪といった様相があって、治安が悪くなっている現状がある。市場としては大きいのだが、治安が悪いので、政権も安定しない。

 ガーナを西アフリカの進出拠点として位置づける欧米企業が増えている。

──障壁や課題は何か?

 電力問題とか道路といったインフラ問題だろう。これはアフリカ全体の問題でもある。停電がしょっちゅうあって、製造業などの企業進出はためらうことになろう。産業が発展していない。日中であったり、夜だったりばらばらだが、停電になると、一日2、3時間程度止まってしまう。

 港湾にしても空港にしてもインフラが整備されていないので、これらが改善されれば、かなり大きな市場になるし、企業の進出も加速されるだろう。労働力も安いし、ただ物価は意外と高い。

──そうなのか。

 やはりインフラが整備されていないので、流通コストが高くついたり、コストに上乗せされることになる。例えば、東南アジアだと500ccの浄化水は10円とか15円程度だが、それが50円ぐらいだ。

 工業団地はまだない。電力はほとんど水力発電に頼っているので、乾期と雨期で水量が激変するので不安定になりがちな事情がある。

──金売買以外の業務は?

 社団法人では企業誘致の業務もしている。

 また今年からボランティア活動をも始めるようになった。小学生とか成長が早い子供は、靴がすぐサイズが変わってしまったり、古い靴はすぐ捨ててしまうことがある。ガーナに、そうしたサッカーシューズや運動靴をコンテナ単位で送るプロジェクトが動き出している。自治体にも働きかけていて、乗ってきてくれているのが、サッカーが盛んな松戸市だ。もともと元横浜マリノス監督でバルセロナと日本と行ったり来たりしている西秀信さん(55)のプロジェクトだが、お手伝いすることになった。

 ボール一つあれば、世代を超えて楽しめるサッカーはアフリカ全体で盛んだ。アフリカではみんなサッカーは大好きだし、しかも強くて、ガーナ出身の選手が欧州の有名なプロサッカー選手で出ていたりする。

 現在、サッカー大会などで持ってきてもらったりとか、シューズは集まりつつある。また、アフリカではガーナで有名なサッカー選手が帰国した折などに、選手から子供に渡してもらったりすることになっている。

 このプロジェクトでは、カルロス・ベシャック氏からも協力していただくことになっている。

──靴一足で将来が開かれていけば、素晴らしい支援になる。

 そうだ。

──教育の状況は?

 義務教育ではないかもしれないが、ガーナの教育熱は結構高いものがある。多分、英国植民地時代の遺産だろう。

 他のアフリカの国と比べると、教育レベルが比較的高いのがガーナだ。ガーナ大学はアフリカの中では、レベルの高さでは名が通っている。実際、優秀な学生が多いし、卒業生は各界で活躍している。

──日本のアフリカ外交をどう見ているのか?

 中国に遅れを取ったので、今の中国がやっている投資の量には、すぐには追いつかないだろうが、日本独特のやりかたで影響力を強めていく必要性を強く感じる。

 日本政府はケニアやモザンビークとか東アフリカ外交に力が入っていて、企業もそちらに進出しているが、今年1月に安倍総理がコートジボアールに出かけた時、ガーナの大統領もコートジボアールに出かけていき安倍首相と会談する機会をもった。

 その時、ちょうど中国の外相がガーナに来ていたが、それを蹴って安倍総理のコートジボアールに出かけていった。こうしたフットワークの良さは評価できる。

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