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集団的自衛権の行使容認 閣議決定

「普通の国」へ大きく前進 誤導する朝日、毎日、東京

 集団的自衛権の「権利はあるけど行使はできない」という矛盾した憲法解釈に拘束されてきたわが国の安全保障政策が大きく転換することになった。政府が7月1日に臨時閣議を開き、行使を容認するよう憲法解釈を見直す基本方針を決定したからだ。わが国の抑止力を向上させ、日米同盟を深化させる方向が定まり「普通の国」へ大きく前進することとなった。しかし、行使を可能にするには関連法の改正が必要だ。与党はもちろん、野党もどう改めるのが国家・国民にとっての最大益になるかの視点で国会での議論を深化させる必要がある。


 決定された政府見解文書のタイトルは「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」だ。集団的自衛権、武力攻撃に至らないグレーゾーン事態、国連平和維持活動(PKO)を含む国際協力の3分野について、かつてない新たな方向性を示している。

 集団的自衛権に関しては、行使を限定容認する「新たな3要件」として、①日本と密接な関係にある他国への武力攻撃が発生し、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある②国民を守るために他に適当な手段がない③必要最小限度の実力の行使――を掲げ、それらを武力行使の「歯止め」とした。

 また、離島に武装集団が上陸した場合の自衛隊の迅速対処手続きの検討や、平時に弾道ミサイル発射の警戒に当たる米艦を防護するための自衛隊のあり方が見直される。国際協力分野では、国連安保理決議に基づく多国籍軍への後方支援について従来の「非戦闘地域」といった概念を廃止し、自衛隊の活動範囲を拡大したり、PKOに参加する自衛隊が、離れた場所で襲撃された文民要員や他国部隊を救援する「駆け付け警護」を可能にすることなどが盛り込まれている。

 安倍晋三首相は閣議決定後の記者会見で、「現実に起こりうる事態において何をなすべきかという議論だ。万全の備えをすることが日本に戦争を仕掛けようとするたくらみをくじく。これが抑止力である」と強調した。

 東西冷戦時代にはなかった中国の軍事的脅威の高まりや尖閣諸島をめぐる度重なる領海・領空侵犯、防衛識別圏の一方的設定などによる覇権主義的で不法な領土拡張の企図や、北朝鮮の核・ミサイル技術の向上およびわが国の都市名を具体的に挙げての攻撃の示唆など、安全保障環境の急激な変化に対応し、わが国の抑止力の向上の必要性が迫られているのだ。

 それと同時に首相は、同盟国である米国との相互協力の強化と域内外のパートナーとの信頼、協力関係を深め平和と安全を維持していく覚悟も表明した。「今回の閣議決定で、日本が戦争に巻き込まれる恐れは、一層なくなっていく」(首相)のである。

 今回の決定について欧米諸国や豪州、東南アジア諸国連合(ASEAN)などでは「歓迎」または「支持」が相次いでいる。

 米国のヘーゲル国防長官は7月1日に「日米防衛協力の指針(ガイドライン)再改定を通じて同盟関係を近代化しようとしてきた米国の努力を完全なものにする」と評価する声明を発表した。ヘーゲル長官はまた「日本の新たな政策は自衛隊がより広範な軍事行動に携わることを可能にし、米日同盟をさらに一層効果的にするもので、歓迎する。今回の決定は、地域、世界の平和と安全に一層貢献しようとしている日本にとって重要な一歩だ」とも言及。ホワイトハウスのローズ大統領副補佐官も1日の記者会見で「この政策は同盟を成熟させる作業の一環だ。歓迎する」とし、オバマ大統領も支持していることを明らかにした。

 豪州とは6月11日に、都内で開催された外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)で集団的自衛権の行使容認問題が取り上げられ、ビショップ外相が「日本が(安全保障面で)さらに大きな役割を果たすことを期待する。行使容認についても歓迎したい」と語っている。フィリピンのアキノ大統領も来日中の6月24日に、安倍首相との会談で南シナ海における領有権問題で紛争を巻き起こしている中国に関して「法の支配による平和的な解決」を求めることで一致した上で、「日本の国民がそれ(集団的自衛権)を望み、それによって国際的な義務に貢献する能力が向上し、われわれが共有する目標に近づけるのなら警戒はしない」と述べ、支持する考えを表明した。

 海外の報道各紙でも、前向きに評価する論調が多い。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは「集団的自衛権で日本は『普通の国』になる」と題する社説を掲載。「日本、ベトナム、フィリピンの枢軸が強化されれば、東アジアのリバランス(再均衡)につながり、中国の侵略行為に対して互いに積極的に支援する非公式同盟が生まれる」などと分析している。その他、豪州のマスコミなども評価している。ところが、反日スタンスで共闘している中国、韓国を除くマスコミの中で米紙ニューヨーク・タイムズだけがおかしな社説を展開した。

 同紙の日本に関する社説には、これまでも偏見と悪意に満ちた内容がときどき掲載されてきたが、今回の件でも同紙は5月15日付で「解釈変更は民主的プロセスを完全にむしばむ」とか「憲法は政府の思いつきで変えられるものではない」などと批判した。これに対して菅義偉官房長官は掲載翌日に「一方的評価に基づく著しく誤った内容だ。日本政府の対応や国内の議論をよくご覧になってから執筆していただきたい」と反論したが、問題はこの種の恣意的な企てをするマスコミが日本に多く存在し、誤った風評を絶え間なく流し続けていることである。

 その典型例が朝日、毎日、東京の各紙の論調だ。「ごまかしが過ぎる」(朝日・6・28)や「『平和の党』どこへ行った」(毎日・6・28)などと連日のように政府・与党批判をし、集団的自衛権が行使されるようになると「外国を守るために戦争に巻き込まれる」とか「日本が再び戦争をする国になる」などの批判感情を国民の心にすり込ませてきている。だが、これらは全くのデタラメの主張なのである。

 1960年の日米安保条約改定の際には、「戦争に巻き込まれる」論が沸騰し非常に多くの学生がこれら各紙にミスリードされたが、戦争に巻き込まれたことは一度もなく日米同盟の強化によってわが国の平和が守られてきた。1992年にはPKO法案が国会で審議されたが、やはりこれらマスコミは「戦争への道をひらく」などと批判。それに同調した社会党(当時)の国会議員は投票時に反対を貫くため5泊6日に及ぶ徹夜の見苦しい牛歩戦術を展開した。しかし、同法に基づいて海外に派遣された自衛隊の貢献に対する国内外での評価は高い。戦争への道がひらかれるどころか自衛隊の活動を歓迎しているのが実情なのだ。

 最近では、昨年の特定秘密保護法での対応が記憶に新しい。朝日、毎日、東京は、同法が成立すると「戦前の特別高等警察のように飲み屋で秘密情報を話しただけでしょっ引かれる」(朝日)といった脅しのたとえ話までして反対し国民を煽った。しかし、「しょっぴかれた」例は聞かないし今後もあるまい。それにもかかわらず、自分たちの解釈と判断こそ正義であると堂々と主張し続けているのである。こうしたまやかしが十分な検証もされず平然と流布されている事実を国民はそろそろ悟るべきではないか。

 今回の閣議決定を受け、政府・与党は法の整備に着手する。防衛省ではすでに小野寺五典防衛相をトップとする法整備検討委員会を発足させた。秋の臨時国会以降、関連法案を国会に提出するためだ。改正すべき法は、自衛隊法のほか、周辺事態法、テロ対策特別措置法、PKO法、国民保護法、武力攻撃事態対処法など10数本が見込まれており、早急に対処しなければならない。

 ただ閣議決定はあくまでも政府の新見解と基本方針を示したに過ぎない。自民、公明の与党間で詰められなかった細部の議論も残っているのが実情だ。「両党の詰めの最終盤になって自民党が提案した集団安全保障への参加文言を公明党の反対で取り下げられたが、国際社会では通用しない笑い話だ」と自民党幹部は指摘する。わが国が集団的自衛権の行使に踏み切った後、国連が安保理決議を採択し多国籍軍が結成されるや、自衛隊活動の法的根拠が「集団的自衛権」から国連の「集団安全保障」に移るが、移った時点で派遣されていた自衛隊は法的根拠を失うため引き揚げなければならなくなる。本当にそれでいいのかという問題だ。

 公明党の要求で、行使できる範囲を日本近辺に限定してしまったことも、今後、法案作成段階で尾を引こう。集団的自衛権の武力行使は、日本と密接な関係にある他国への武力攻撃が発生し、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合に実行される。石油の輸入が集中する中東地域でのシーレーン(海上交通路)での機雷敷設なども想定されるため、遠隔地での行使のケースも踏まえなければならないが、それに日本近辺という歯止めがかけられるとすれば、国益にマイマスの影響を与えてしまう可能性も否定できない。

 もちろん、「平和の党」公明党が連立離脱カードまでちらつかせながら最終的に集団的自衛権行使容認の土俵にまで上ってきた意義は大きい。「絶対平和主義」を生命視する創価学会婦人部を相手に、選挙が弱く、創価学会におんぶにだっこの山口那津男代表と北側一雄副代表がともに弁護士出身の立場で安保理論構築をし彼女たちを説得した指導力は評価できる。その一方で、理論構築に行き詰って動けなくなった公明党を、同党の弱点である「政教分離」問題の国会再提起を主張してブラフをかけ、背後から突き動かしてきた自民党のしたたかさも目立った。

 だが逆に、こうした経緯から分かるように、無理に無理を重ねた与党合意であり閣議決定となったことから、今後の立法化作業での議論の行方は予断を許さない。

 野党の姿勢も不透明だ。特に、日本維新の会が分裂したことで国会論議での立ち位置が定かでなくなった。もともと維新の会は集団的自衛権の行使容認に前向きで、石原慎太郎共同代表らが結成する「次世代の党」の平沼赳夫衆院議員は「解釈を見直すべきだ。自衛隊の活動のための法整備でも、与党に協力していく」との姿勢だが、橋下徹共同代表系の松野頼久衆院議員は結いの党と合流する過程で、集団的自衛権の問題については結いの党の政策判断に委ねることを示唆している。松野氏本人は1日の記者会見で、「アジアの緊張状況の中で時間的猶予を考えた場合、憲法解釈変更は仕方がない」と従来の維新の見解を語ったものの、結いの党の江田憲司代表は「疑問だらけだ。(米艦保護、機雷除去などへの対応について)個別的自衛権や警察権で全部、対応可能だ」と全く異なる主張をしている。重要政策での一致をさておき、野党再編を優先して野合に進めば国民の厳しい審判が待ち構えていることは、政治史が示す通りである。

 野党第一党の民主党の対応もはっきりしない。海江田万里代表は憲法解釈見直しの閣議決定の「撤回を求める」としつつ、集団的自衛権の行使容認への是非について党の態度をまだ決定していないのだ。党内には前原誠司元代表ら行使容認の積極支持派が3割、中間派も3割程度いて、左派執行部は容易に「反対」の見解で党を取りまとめられないのが実情である。しかし、日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増し、党内抗争や政策後回しの再編劇に明け暮れている時間の猶予はない。国民の生命と財産を守るために知恵を出し合い最良の政策を法制化していくのが国会議員の責務のはずだ。

 秋の臨時国会での論戦の質を高めるためにも野党は奮起すべきである。


「集団的自衛権」閣議決定要旨

 政府が7月1日の臨時閣議で決定した文書「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」の要旨は次の通り。

 政府の最も重要な責務は、わが国の平和と安全を維持し、その存立を全うするとともに、国民の命を守ることだ。同盟国である米国との相互協力を強化し、域内外のパートナーとの信頼、協力関係を深めることが重要だ。切れ目のない対応を可能とする国内法制を整備しなければならない。

【武力攻撃に至らない侵害への対処】

 警察や海上保安庁等の関係機関が対応能力を向上させ、連携を強化する。離島の周辺地域等で近傍に警察力が存在しない場合や警察機関が直ちに対応できない場合、(自衛隊出動の)早期の下令や手続き迅速化のための方策を具体的に検討する。

【国際社会の平和と安定へ一層の貢献】

 〔後方支援と「武力の行使との一体化」〕従来の「後方地域」「非戦闘地域」といった自衛隊が活動する範囲を一律に区切る枠組みではなく、他国が「現に戦闘行為を行っている現場」ではない場所で実施する補給、輸送等の支援活動については、他国の「武力の行使と一体化」するものではないとの認識を基本とした考え方に立ち、他国軍隊に対して必要な支援活動を実施できるよう法整備を進める。

 〔国際的な平和協力活動に伴う武器使用〕「国または国に準ずる組織」が敵対するものとして登場しないことを確保した上で、国際的な平和協力活動での「駆け付け警護」に伴う武器使用、「任務遂行のための武器使用」、領域国の同意に基づく邦人救出等の「武力の行使」を伴わない警察的な活動ができるよう法整備を進める。

【憲法9条の下で許容される自衛措置】

 憲法前文で確認している「国民の平和的生存権」や憲法13条が「生命、自由および幸福追求に対する国民の権利」は国政の上で最大の尊重を必要とする旨定めている趣旨を踏まえて考えると、憲法9条が、わが国が自国の平和と安全を維持し、その存立を全うするために必要な自衛の措置を取ることを禁じているとは到底解されない。

 現在の安全保障環境に照らして検討した結果、わが国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合に、これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、必要最小限度の実力を行使することは、従来の政府見解の基本的な論理に基づく自衛のための措置として、憲法上許容されると考えるべきだと判断するに至った。

 「武力の行使」が国際法を順守して行われることは当然だが、国際法上の根拠と憲法解釈は区別して理解する必要がある。憲法上許容される上記の「武力の行使」は、国際法上は、集団的自衛権が根拠となる場合がある。

 自衛隊出動を命ずるに際し、原則として事前に国会の承認を求めることを法案に明記する。

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