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ブータンの国土 中国が削り取る

 「メンジョン」と呼ばれる薬草の国ブータンの北部は、漢方の三大薬材の1つで冬虫夏草の産地だ。

 なかでもブータン産の冬虫夏草は、折り紙つきの逸品だ。

 そもそも「冬虫夏草」とは、「冬虫夏草」キノコ菌が冬に昆虫の体内で生きながら栄養分を摂取して菌糸を伸ばし、夏になると菌糸体から子実体(キノコ)が発生して、細長いキノコとして成長することからそう呼ばれたものだ。

 滋養強壮や精力増強、抗癌作用などの薬効が認められる冬虫夏草は、世界に300以上の品種がある。その中でコウモリガの幼虫に寄生する「コルディセプス・シナンシス」は最高級とされ、チベットの標高3000メートル以上の高山にしか生育しない。ブータン産の冬虫夏草がブランド品になっているゆえんだ。

 漢方に目がないだけでなく医食同源の中国人にとって冬虫夏草は、古くは秦の始皇帝や唐の楊貴妃から、近年では馬軍団と呼ばれ大活躍した中国女子陸上選手団やマラソン選手が食用していたことで一躍有名になった。日本では、冬虫夏草をもとにした馬軍団の疲労回復ドリンクとして大手商社が販売権を得て発売している。

 評判の高まりは値段となって跳ね返り、いいものは100グラム100万円、安いものでも10万円くらいする高価なものだ。これらは40年前の1万倍の価格だ。そうなると放っておかないのが、冬虫夏草を投機対象にする中国人だ。

 ミャンマーの翡翠も西太后の清にかすめとられてしまったのと同様、現在、ブータンでは冬虫夏草が国境を越え土足で入り込んだ中国人にかすめとられている。

 のみならずブータンの国土そのものが、中国にかすめとられている。

 「中国・ブータン国境地帯の平和と安定を保つ協定」を1998年12月に締結した両国はその時、国境線も画定している。だが、中国は2004年からブータン側に〝冬虫夏草ロード〟といってもおかしくない道路建設工事を始めていた。

 ブータンとすれば「道路を敷設した地域までが、中国に組み込まれるのでは」との懸念から何度も抗議を行なっているが、中国側は「チベットを含む西中国の経済発展のため」と居直ったままだ。

 結局、ブータン政府が発表した新国境線では、北部の突起部分が切り取られたラインで、国土面積は約4万6500平方キロ(九州地方の約1・1倍)から約3万8400平方キロ(九州地方の0・9倍強)へ、18%近くも縮小してしまった。

 現在、グーグルマップのブータンは、中国領になったと思われる地域が点線で表示されている。

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