インタビュー 参議院議員町村信孝氏に聞く
中国は異常な軍事政策を見直せ
それなしに日中関係は改善しない
経済力を身につけた中国が軍事力増強に走っている。同時に中国は韓国やASEAN(東南アジア諸国連合)を引きつけ日米との離間を図ろうとしている。我が国と中国、韓国との関係は、かつてない厳しい状態に陥っているが、どう打開すべきなのか。原発や尊厳死問題を含め、自民党の最大派閥「清和政策研究会」を率いる衆議院議員・町村信孝氏に聞いた。
――対中韓関係が冬の時代を迎えているが?
中国や韓国ともいい関係を結んだ方がいいに決まっている。ただ日本は、これまで、相当な努力を積み上げてきた。
でもこうなってしまっている。
日本がやったことは全部よかったとは言わないが、客観的に見て今の中国の外交や軍事政策というのは異常だと思う。個別に言い出せばきりがない。そこは言わずもがなの世界だ。
とりわけ中国には、外交というより基本的な軍事政策を見直してもらわない限り、日中関係が良くなることはない。それなりの外交努力で、今よりよくなることはあると思うが、それなしに基本的に安定した良好な両国関係は築けないと思う。
何であんなに武力増強を図るのか。自分たちは大きな国になった。経済も強くなった。GNP(国民総生産)で、今や日本を抜き米国に次ぎ世界第二位だ。だから軍事力も強くなっていいんだ、というような単純な発想で、これからどんどん軍備増強に走るというのはいかがなものか。
それをやったら周辺の国は、中国というのは経済力も軍事力もあるから、中国とは敵対関係になりたくないと思うだろうけど、心底、本当に慕われ尊敬する国として友好関係を結びたい国だとは思わなくなる。それは日本だけの問題ではない。その点を、中国には改めてもらいたい。
それから韓国も、これで日韓関係の過去の話は終わりだと合意したにも関わらず、大統領が代わると、またイロハから始まる。何度も何度もその繰り返しでは、日本側もいやになってしまう。
もちろん、領土問題は一辺に解決するものではない。韓国が、竹島云々というのは、それはそれとしてやむを得ない面があるかもしれないけれど、戦後賠償を含め戦前の話では日本は十分な対応をしてきた。
それをまたイロハに返って蒸し返されるというのは問題だ。
私は小渕首相時代に外務政務次官を務め、金大中大統領と「一度謝れば韓国は二度と従軍慰安婦の事はいわない」と約束した上で日韓共同宣言を出した。
僕自身、これでやっと過去の問題に終止符を打って、未来志向型の日韓関係の話で、これから議論できるなと思ったけど、次の大統領も、その次の大統領も、全部、戦前の話に戻る。
それは日本関係者からすると、もうくたびれて「韓国? もうどっちでもいいや」という気分になってしまう。
今の朴槿恵大統領もそうだ。
やはり、韓国には「この辺で無意味なことを繰り返すのはやめよう」と言わないといけない。韓国側にそうした考えを改めてもらわない限り、日韓関係はよくならないと思う。
――河野談話は?河野談話は非常に悩ましい問題ではある。
日本外交には、主張すべき点をあまり主張せず、ソフトな姿勢で外交をやるという考え方があるが、それはおかしいと思ってきた。
それで私が外務大臣の時、随分、諸外国に言うべきことを言ったつもりだ。
例えば、中国のODA(政府開発援助)を私の時に止めた。
だって中国は、自分たち自身、どんどん海外にODAを出しておきながら、日本からODAをもらうというのは、そもそもおかしい話だ。
それに対して、誰よりも一番強く反対したのは、我が党の自民党の一部の方々だった。それでも、きちんと話を付けて、中国側も分かったとなって止めることができた。
誰もが見てもおかしいものは、思い切って変えないといけない。
今の安倍総理の外交は、主張すべきは主張する姿勢を堅持している。しかし、同時に耳を傾けるべきことには耳を傾ける必要がある。どちらも安倍政権はしっかりやっているので僕は評価している。
――南シナ海などで見られる中国の武力による新国際秩序形成といった地域覇権主義みたいな傾向が顕著となっている。特に中国はASEAN(東南アジア諸国連合)への影響力をかなり強め、軍政下のタイやラオス、カンボジアといった国を取り込み始めている。
中国は経済力で、それをやっている。それ以外で不十分な場合は、軍備の力も使う。
ASEAN諸国が、経済力のある中国との関係を少しでもよくしたいと思うのはやむを得ない。かつての日本の影響力を、もう一度と言っても無理がある。
ただ日本は日本として、ASEANとの関係はかなりよくやってきたと思う。さらに中国を意識して、さらなる力を注ぐという発想の時代ではない。
――しかし、南シナ海のシーレーンは日本の生命線ではある。
それは経済じゃない。安全保障の問題だ。それはそれで、しっかりやっていかないといけない。
――南シナ海の自由航行を守るための行動規範(CIC)の策定を牽制したのは中国だった。中国はASEAN首脳会議で議長国だったカンボジアに後ろから手を回し、フィリピンの要求を議長権限を使って排除した経緯がある。こうした中国の横暴を牽制する我が国の政治的な外交力行使が求められている。
もちろん、それこそ外交の一環だから、そう言う意味ではやるべきだと思う。
――エネルギーは経済や安全保障の根幹でもあるが、原発はずばり、どうすべきなのか。
もちろん原発は安全でなければならない。3・11の教訓である。しかし、そうだからといって原発をやめてしまえというのはいかがなものか。
私は原発は必要だと思っている。手順を追って再稼働をすべきだ。
原発がこれからも一定の割合を日本のエネルギー補給の中で占めていくというのは当然のことだ。
――原発による電力依存度は30%程度あったが、目標値は?
具体的数値は分からないが、それがゼロになっていいというほど、甘い問題ではない。
最近の資源エネルギー庁の資料によると、発電用の日本の燃料負担が年間3・6兆円増えている。
もっと広く言うと、日本全体の輸入額で10兆円も増えている。これは国の富が海外に流出していることを意味する。エネルギーだけの問題ではなく、国家全体の問題だ。
さらに家庭生活の問題であり、企業や地域の問題だ。日本全体の問題であると同時に、幅広い影響を与えるものだ。
だから「原発なしに、どうやるんですか?」と、逆に問いたい思いだ。
ソーラーエネルギーとかバイオエネルギーとか言う人がいるけど、それでとてもカバーできるものではない。
しかも、原発は国産エネルギーと認識すべきだ。不安定な中東情勢は、これからも続くかもしれない。だから輸入に依存するのではなく、国産のエネルギーをもっていないとナショナルリスクの増大を招く。
やはり輸入に依存しているようなエネルギ政策では行き詰まる。
――物理学や電気工学を専攻した2万人近い技術者が日本の原発を世界のトップクラスに押し上げているが、こうした人材が使い捨てになるようでは未来が危ぶまれる。
今、原子力研究者志願の受験生が激減している。
もしかしたらなくなるかもしれない原発を一生懸命、勉強しようという気にはならないからだ。その意味で、モチベーションが低下しているのだから、少なくなるのは当然だ。
だから、間違ったイメージを若い人に与えたならば、日本の強さが消える。日本の強みを自ら壊すことはない。原発研究を支える中堅以上の力をフルに発揮してもらい続けるためにも、原発イコール悪という誤ったレッテル貼りをしていてはダメだ。
その筆頭に小泉元総理が立つというのはいかがなものかと思う。
小泉先生なりの論理がおありだろうと思うけれども、人気のあることはやっても、不人気なことはやらないというポピュリズム的な傾向が小泉政権にはあった。
小泉政権の時、僕は「消費税引き上げをやったほうがいいじゃないですか」と提言したことがある。
そうしたら、彼は手を振って「俺はやらない。次の人にやってもらう」と言った。
「どうしてですか」と聞いたけど、答えない。
理屈を立てれば、自分は歳出削減をやっているので、こういう時に、消費税率を上げると、歳出削減努力が飛んでしまうということはありえたのかもしれないが、人気がないからだとは、さすがにその場で言わなかった。
でも、歳出削減と消費税率アップを同時にやったっていい。
――小泉政権時代の新自由主義はどうか?
竹中さんは、すばらしい政治家として一世を風靡したけど、学者としてそういう評価があったとは聞いたことはない。
――尊厳死の問題は?
だいぶ前、尊厳死協会に入会した。なぜかというと、自分が死ぬときには、チューブが一杯入っているような状態で、長生きしたいとは思わない。それで尊厳死協会に入会した。
それは個人のことだが、ちょうどそのころ尊厳死法案をやろうという議員の集まりがあって、僕はたまに出ていた程度で決してメインではなかったが、なぜか中心人物のような役割になってしまった。
自民党でも、これを法制化に向けて進めようという声が結構出てきて、賛成した経緯がある。
もちろん、尊厳死問題は生死に関することだから、党議で縛るテーマではない。
なぜ、そう考えたかというと、私が厚生委員長の時、議連の提案で、臓器移植法案があった。たしか、中山太郎先生が当初の発案者だった。
だが、それまでいろいろ議論はしたものの、結局、結論を先送りにし続けた。国会で議論すらあまりしないで、10年以上、時間だけが経ってしまっていた。
それではよろしくない。
賛否の答えをはっきり出さないと前に進めないと考えて、厚生委員長として、臓器移植問題を積極的に議論するようにした。
それで、結局、みなさん自由にご発言してくださいと言ったら、30時間もしないうちに誰からも発言がなくなった。
それで採決したら、圧倒的に賛成、それで可決された経緯がある。もちろん、反対はありましたが、それでも可決された。それで、死亡した者が臓器移植の意思を生前に書面で表示していて、遺族が拒まない場合に限り、「脳死した者の身体」を「死体」に含むとして、その臓器を摘出できると規定する現在の臓器移植法に至っている。
ただ、その後、いろんな条件をつけてしまったものだから、そんなに事が進んでいるわけではない。
その時の経験から、難しい問題だから国会議員は避けて通りたい気持ちになりがちだが、難しいテーマだからこそ議論をしないといけない。そもそも国会というのはそういう場だ。
この尊厳死法案に私は賛成で、議論をしようと言っている。だが、党議を外すということをはっきりさせているにも関わらず、法案を国会に出すことに反対する一部の議員がいる。
まことにおかしなことだ。
いろいろな理由があるのかもしれないが、議論そのものをも封殺しようということで、この法案を国会を出すことに反対するのはおかしいと思っている。
だから、今後の臨時国会で出せればいいと思っている。
どれだけ賛成者がいるか、それは分からない。でも、議論をする価値のある重要なテーマだと思っている。
――与党の最大派閥を率いているが、派閥をまとめていくポイントは何か。
昔と違って、金の力とか人事の力とかで、派閥を使う時代は終わっている。派閥は自由闊達な議論をする場だ。
民主党政権時代、自民党は野党だった。しかし、我々がいたから、派閥の中の落選中の人達は、一生懸命頑張れた。選挙の時、特に若い方々を応援するのは派閥なくしては困難だ。それをはじめとして、政治家としての基本を学ぶ。そういう機能が派閥には強くある。
派閥があることそのものに反対という石破さんみたいな人もいたが、その人が自分の派閥を作っている。
何を言っているのかと思うけれども、それはそれとして、私は派閥はあっていいものだと思う。
派閥を禁止してしまえという人がいるが、それでは自民党の良さがなくなってしまう。
野党に転落した民主党に、復活する力が出てきていない。民主党にもやはり、派閥的なグループはある。そもそも派閥とグループはどう違うのかよく分からないが、本来、リーダー的な人たちは、それぞれにいる。
元総理の野田さんとか、横路さん、岡田さん、前原さん、そういうトップのリーダーたちがいる。
そういうリーダーにいる人たちが、民主党をどういう党として今後、再建するのかということを議論しないといけないのに、みんな水面の下に潜ってしまっている。
積極的に民主党をこれからどうするのか、どういう政策が必要なのか、党の体制はどうすべきなのか、本質的な議論に参画しないように見せている。
あれでは、いつまでたっても水面上に上がってこないと思う。そういう人たちの責任は重い。
そう言う意味で、いい意味の派閥が民主党にはない。
やはり自民党が一時、300人から100人余に減った。そこからの復活を果たしたが、その要因の1つは、派閥が本来の機能を発揮して努力したことにある。