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インタビュー  元郵政民営化担当大臣 下地幹郎氏に聞く

野党の自失だった総選挙 政権担える野党再編不可欠に

新しい酒は新しい革袋に

  

 「艱難汝(なんじ)を玉(たま)にす」との諺通り、2度に及んだ浪人を経て一回りも二回りも政治家としての器を広げた下地幹郎元郵政民営化担当大臣(現衆議院議員)に、一強多弱の永田町風土に変革の風穴を開ける野党再編の展望と沖縄復興の基本政策を聞いた。


――昨年末、晴天の霹靂の衆議院議員解散、総選挙となったが、どう受け止めたのか?

 新聞に解散、総選挙の話が出た時に、「こりゃ、まいったな」というのが最初の思いだった。解散の話が出た時には、丁度、沖縄県知事選挙の最中だった。私を衆議院に送った方がいいと思っている人たちの気が、知事選挙を戦っている最中、ワーと抜けていくのを実感した。結局、知事選に出て、すぐ衆議院選に出たというのは、300の選挙区で僕だけだ。貴重な体験をさせていただいた。

――2ラウンド戦う体力も必要だった。体力というより、傷が癒えないうちにというのが本当のところだ。

 長丁場を走って体力がないというのではなく、ボコボコにKOされている最中だったからきつかった。

――浪人時代は何年続いたのか?

 丁度、2年だ。

――艱難の時こそ、本当の友人を知ることになるが、浪人時代に得たものは?

 2回目の浪人だが、1回目と違って、苦しい時期に支えてくれた人の真心への感謝に尽きる。1回目はまだ若かったので、起死回生への夢だけで走った経緯があるが、53歳になった今、これで負けると次はないと崖っぷちに立つ切羽詰った状況だった。

 知事選だけでなく、さらに衆議院選になっても支えてくれる人たちには、本当に熱い思いがこみ上げてくる。

――安倍政権は圧勝したわけだが、強みは同時に弱点にもなり得る。安倍政権の展望は、どう読んでいるのか?

 まず、安倍政権が今回、圧勝した最大の理由は、政権を担う政党が野党にないことだったと思う。どの政党が勝っても、過半数にいかないようなことになっていて、民主党と維新を足して、全選挙区で勝っても過半数ぎりぎりだった。

 そういう意味から言うと、野党が分裂して形が整わないうちに、安倍政権は選挙に打って出てきた。これこそが自民党の勝因だと思う。

 だからいま、自民党の他に政権を担えるという政党が存在していない。結局は自民党を選ぶというような形になった。それで、現政権が無くなったら次はこういう形の政権ができますよといった野党の形をこれから作らなかったら、いつまでたっても万年野党のままだろう。

 民主党は自分たちで再建復帰と言っているけど、民主党が政権を降りたときの逆風は、自民党が民主党に負けた時の逆風とレベルがまったく違っていた。だから外から見てて、ものすごく厳しいと思う。

 ある意味、自民党は反省すれば復権できる。しかし、民主党は反省するだけでは復権できない。やはり、政権を放棄したと思われるぐらいの厳しい環境になっているからだ。

 そういうことからしてももう一度、形を整える必要がある。民主党だけの血ではなく、新しい人の血を入れて野党が共闘する中で、この勢力だったら政権を担えるというようなものを作らない限り、また同じ結果が出るだけだと思う。

 今回の安倍政権が勝った最大の理由は、アベノミクスの評価ではなく、それが作りきれなかったことにあったと思う。それでアベノミクスはどうなるかというと、「3つの矢」と言っているが、それは自分で決定できるものだ。予算を一杯付けようと思えば付けられる。異次元の金融緩和をやろうと思えばそれもできる。

 だけど、規制緩和は既存の権益を持っている人がいるから、なかなか難しい。「3つ目の矢」の規制緩和に副作用は無いのだけれど、「第1、第2の矢」の2つには副作用がある。予算をあまり付け過ぎると、財政赤字になるし、異次元の金融緩和を無防備にやると、前のように不良債権処理の問題が出てくる。こういった2つの副作用がある。

 安倍政権は、この副作用のある2つに頼って経済を運営しているだけで、「第3の矢」には全く手が付けられていない。これをどうやってやるかというのが、これから肝心のところとなる。

 なお第1、第2の「2つの矢」が向いている的が何かというと、大企業と株価だけだ。これがもたらす影響ばかりを重視し過ぎた。

 今回、法人税を下げても、地方の中小零細企業にとってあまり効果はない。それをやると大体、2・5%、1兆円の税金を払っているところだと250億円、税負担が軽くなる。これが設備投資に回るか、社員の給料に回れば、それなりの効果が期待できるが、内部留保が積み上がるだけだったり株主配当にも回る。株主は法人税が下がると、大体、株を買う。目標設定はそこだけで、結局、日本の経済を支えている中小零細企業がある地方には行かない。このひずみは大きなものがある。

 安倍首相は、それが分かっているから地方創生本部を作った。これを本気で、どこまで地方に委ねるかというのが大きなポイントになっている。

 データをいま、とっているが、建設会社だと、東京と大阪、名古屋以外でどれだけの仕事をとっているかというと、北海道から沖縄まで地方の方が、30%を超えると言う。

 沖縄とか北海道の地場企業は、この地域でしか仕事ができない。だが例えば、大きな建築受注は、三井、住友みたいな大企業に仕事が流れていきがちだ。だから、大企業に地方の仕事にまで手を出させないようにして、地方の仕事は地方の企業に回していく仕組みを作っていかないと、なかなか地方企業の活性化には繋がらない。

 そうすると、地方創生本部を立ち上げて、新たな事業などで新芽を出すことより、グローバル化した企業を外に出して、どんどん仕事をさせる方が経済のダイナミズムをもたらすことになる。さらに、そのための協力社も、地方から呼んでくるみたいな形が必要だ。

 そうしないと、なかなかお金が下にいかない。大企業と株価のみに目が行っているアベノミクスの抱えている問題を整理しないと絶対だめだ。

 だからもう一回、本当にこうした細かなことをできるかどうか、示す必要があると思う。

 さらに「3つ目の矢」に規制改革があるが、これは維新の党が言っている身を切る改革をやらないとダメだ。維新の党が言う身を切る改革というのは、無駄を省く作業を徹底的にやる。なかでも議員定数の削減は不可欠だ。

 人に痛みを伴う改革を迫る以上、自分たちの議員定数の削減をやって、行革をやり、天下りとかいろんな禁止事項を盛り込みながら、財政再建の財源を生み出す必要がある。

 これをやっていかないと、なかなか日本そのものが元気にならない。これが一点。

 さらにもう一つの両輪の一方は、大胆な規制緩和だ。

 建築の規制緩和や用途の見直しを行うとか、地方の企業が地域で新しいビジネスを起こす時の制度緩和をするとかだ。

 予算と金融緩和だけでは絶対不可能だ。この2つに安倍首相が力を入れるかどうかを見守りながら、全否定ではなくアベノミクスの修正を求めていくというのが維新の党の基本姿勢だ。

――総選挙の結果は野党の自失だったということだが、政権を担える責任政党になるために野党再編が不可欠となる。

 野党再編をやらなければ、万年野党が続くだけだ。

 野党が本当に政権を取って、自民党に代わる新しい仕組みを作ろうと思うのだったら、再編をしないといけない。

 一つの例を上げれば、太陽光発電がある。太陽光発電の買取り制度というのは絶対、自民党政権ではできなかったことだ。電力会社がいやがることだから、民主党だからできた経緯がある。

 そういうのが一杯、出てくる。沖縄の一括交付金なんて、全くひも付きでない金を提供した。これは民主党だから、できたことだった。

 安全保障面でも、島嶼防衛という言葉を出したのも民主党政権の時だったし、武器輸出三原則の見直しも民主党政権時代にやった。

 だから政権が変わらないと、新しいものが生まれてこない。米国も、民主党と共和党といった考え方が全く違う二大政党制が生きているから、国家というのがいろんな穴を埋めて強くなっていく。同じ政党だと同じ人間しか集まらないから、大胆な変革をやろうとしない。

 しかもいま、我が国にはTPPが迫っていて、これからあらゆることについて見直しが迫られる。会計のあり方もそうだし、農業、医薬品でもそうで、グローバル化の波に洗われる。

 そういうふうになってきた時、ずっと自民党政権の中では、そんなに大きな受け皿を作りきれない。

 また、TPPで困るところにお金を出すというやり方だけで、積極的に世界に飛び出すことはやらないと思う。

 そういう意味でも、考え方が違う政権を担える政党が2つあるというのは、この国にとって必要な政治インフラだ。

――注目されるのは、維新の党の橋下代表が代表の座を降りて、大阪府・市政に専念するということだ。この一年間、どういう実績をあげるかが維新の党が国政を担える責任政党としての評価にもつながってくる。

 第2の東京を作るという大阪都構想というのは、今までの政治家で誰も言ったことがないことだ。昔、京都から江戸に移ったら、京都が力を失なっていったが、橋下さんの考え方というのは、東京も存在して、大阪も存在するという発想だ。今までは、それが法律的に許されなかった。東京だけが都として存在した。

 自治体そのものが、これまでと全く違う形で運営できるようになってくるわけで、これを成功させて橋下さんが衆議院に戻ってきたら、首相の器はあるということになる。

 逆に、大阪都構想が失敗したら、政権を担える柱みたいなものが一つ、無くなってしまう。

 その意味では、維新の党としては、どうしても大阪都構想を成功させないといけない政治課題だ。

――そもそも維新の党に組みしていった動機は何だったのか?

 「そうぞう」という僕が立ち上げたローカル政党と二年前、政策協定を結んだのがそもそもの契機だ。それは沖縄で分権を進めたいというのがあった。その分権をモデル的にやっているのは大阪都構想だった。

 米軍基地を74%抱えている沖縄というのは、日本の安全保障面での貢献度は高い。その意味で東京や大阪を支えているのは沖縄の安全保障だと思う。

 ただ沖縄というのは自立性がない。10年間、3000億円もらうという話ではなく、やはり、しっかりした東京都がもっている仕組みであるとか、大阪都構想が実現できたあとのシステムだとか、同じようなものを沖縄は持ってしかるべきだと思う。それを勉強するという意味でも、考え方に共鳴できるところがあったことから、維新と政策協定を結んだ経緯がある。

 一つの目標としていたのは、ローカル政党が47都道府県に全部立ち上がって、それに勝ち残ってきたものが東京で連立を組むという姿を描いてきた。

 ローカル政党が中央政党になったいうのは、今までにないケースだ。

 自民党というのは東京で生まれた政党だ。一方、維新というのは大阪で生まれ、「そうぞう」というのも沖縄で生まれた地方政党だ。

 それがいま、中央政党を作り始めている。これが、自民党ができた背景と、全く違うところだ。生まれが違うから、違う政策を提案していけるメリットがある。東京から始まるのではなくて、地方から始まるということで、日本は変わっていくと思う。

――沖縄復興の要は何か?

 安全保障での過重な負担を少し減らすことだ。知事選の時、30と言ってきたが、74あるうちの34持ちましょうというのが持論だ。74というのは、いかにも重すぎる。

 この圧迫感のある負担を取り除かないと、基地問題だけという意味ではなく、経済や生活においても、ゆとりが出てこない。

 2つ目は、アジアに近いという地政学的なメリットを活かして、42億人いるアジアとどうアクセスしていくかが課題だ。

 沖縄経済というのは「江戸上り」みたいなところがあって、東京と結んで経済を成り立たせようと思っている。そうした呪縛された方向感覚を開放し、南の香港だったり、ASEANなどに広げていく形にしないといけない。

――アジアとの連携というのは具体的にどういう形を想定しているのか?

 まずアジアの方々に来ていただく。沖縄は観光地として安全面からすると、ずば抜けている。ハワイを超えるような観光ポジションを沖縄は担える。沖縄に行ってゆったりして、それから世界に行って仕事をする。そういった世界に貢献できる地の利があるところが沖縄だ。

 さらに、沖縄にはオリジナルな食文化があるし、長命草だったり薬草文化など、いいものがいっぱいある。それを外に出したい。

 そもそも、沖縄は長寿県だった。いまは少し落ちているけど、そうした長寿の仕組みを世界に輸出できるところが沖縄だ。

 この2つを外に出し、また外からのものも受け入れる。そのバランスを考えながらやっていけば、沖縄は十分、頑張れる地域になれると確信している。

――高齢社会を迎える中、薬草文化というのは興味を引く。

 とりわけ、他の地域にない薬草が島々にある。それを産業化していく力さえあれば、新しい地場産業として育つ素地がある。

――それには政治的リーダーシップが問われる。

 それこそ政治の仕事だと思う。

 やはり、こうした沖縄の潜在力を、県が活かしきれていない。実にもったいないことだ。

 沖縄は、GDPも3兆8000億円ぐらいしかない。これはどうしようもなく小さい。沖縄の企業で売上の10%、20%を県外にもっているというのは正直、ゼロに等しい。

 なぜ、こんなにいいものがあるのに外に出せないのか。零細で商業力が弱いからだが、この部分を県がサポートしていけば、絶対にいけると思う。

 ただ、沖縄県の考え方は全く逆だ。もっぱら経済というと企業誘致を考えている。今度も100億円かけて、全日空の整備工場を作りたいといって動いている。そこで働く人というと、わずか200人程度でしかない。

 レンタル工場でも70億円ぐらい投資している。本土企業に倉庫まで作って上げているが、僕はそういう時代は終わったと思う。

 沖縄の企業が台湾にお店を開くとか、外に出ていく場合に、支援する方がよほど効果が高い。

 それなのに、本土の企業が沖縄に来るのに、100%作ってあげてどうぞと言っている。こうした体質が、沖縄経済の成長を削ぎ落としている現実がある。企業誘致というのが経済政策の一番になっている現実を変えないといけない。

 本当に沖縄が良くて、整備工場を作りたかったら、自分でお金を出してやればいいだけの話だ。そもそも自分の会社のメリットにしかならないのだから。

――カジノはどうか?

 論議する必要はあると思う。いま、沖縄で反対している勢力がいっぱいいる。ただ、物事を進めるためには、反対勢力を説得する力がないとダメだ。

 それでもいいといって押し切るのではなくて、反対が出れば、その意見を聞いた上で、論議してみる必要がある。

――射幸心をあおるという負の側面はあるが、ラスベガスでは見本市を開催したり、老後の生活の場として人気を博するとか、波及効果は大きなものがある。

 カジノのギャンブル的なものは財源を作るための要素で、これでは儲からない。この財源でコンベンション事業をやったり、外国人の移住とかの仕組みを作ったりとか、いろんなことをやるから、カジノで稼いだお金を教育にも回せるようになる。ただいま、沖縄で論議されているのは、ギャンブル中毒の弊害とかギャンブルそれ自体だ。まずはこれを説得しないといけない。

――辺野古問題は?

 沖縄では辺野古反対という民意が出た。その民意をどうやって米国政府と交渉していくかというスケジュール論に入っている。

 ただ一方、安倍首相は12月14日には、衆議院選挙であれだけ圧勝した。その時の公約が辺野古移転でもあった。それも民意だ。

 沖縄県民の民意と日本国民の民意と、民意が2つある。

 両方とも公約だ。だからどっちかが降りないといけないが、沖縄県からすると安倍首相に降りてもらって辺野古を止めてもらって、基地をどんどん減らして欲しいというものだが、それは並大抵のことではないので、それを翁長知事どうやるのか、シナリオを描く必要がある。

 翁長知事は検証チームを作って、承認した経緯に瑕疵があると言っているけど、万が一、瑕疵があったとしても、安倍政権は3分の2の議席数があるので、これが瑕疵でない法律を作り直すだろう。それぐらい、安倍政権には数がある。

 だから、行政手続上の失敗を見つけ出して、それで辺野古を止めるというのは土台、無理な話だ。

 そもそも行政手続上の瑕疵があった場合、沖縄県そのものが責任を問われる。タコが自分の足を噛むようなものだ。

 防衛省からすると、印鑑を押したのはあなたがたなんだから、あなたがたで処罰しなさいとはねつけられるだけだ。

 だから、瑕疵を見つける作業ではなくて、堂々と政治的問題として安倍首相と交渉して辺野古移転を止めさせるというのがいいと思う。

――ナイ元国防次官補は最近、沖縄への戦力の集中は、中国が強化しているミサイルには弱いといって海軍を除いた戦力の分散を言い始めている。

 ただ沖縄から基地が出ていってくれというだけでなく、こうやってもアジアの安全保障を維持できるよ、といった視野を広げた議論が必要だ。

 検証やるより辺野古移転に賛成している人とか、ナイ元国防次官補みたいな世界に通用する識者を招いて論議してもらい、大きい視点を持った上で米国とか日本政府にアクセスするようなアプローチが必要かと思う。

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