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安保法制整備の「改革国会」 「戦後レジーム脱却」へ

改憲戦略、来夏参院選に照準

 昨年12月に投開票された衆議院総選挙で自民党が圧勝し、公明党と合わせ与党で3分の2を超える議席を獲得した。3年前の衆院選、2年前の参院選と3つの国政選挙はすべて自民党の圧勝となったことから、国民は自民党の公約の主柱であるアベノミクス、憲法改正、原発再稼働などを信任したと言える。これを背景に安倍晋三首相は1月26日からの通常国会で十分な審議を経て諸改革を断行し、国民の付託に応えねばならない。また、戦後70年に当たる今年、安倍首相は新たな談話を発表する見通しだが、積極的平和主義の旗の下、国際平和に一層貢献する決意を表明するとともに、それを可能にするための安全保障体制の整備と憲法改正を実現できるよう戦略を確立し、謙虚さと丁寧さをもって他党への説得作業を積み重ねなければならない。


 自民党の「1強」体制は、安倍首相が政権を奪還した2012年以来続いている。同年12月の衆院選で、自民党は118議席から294議席へと大躍進した。翌年夏の参院選でも、公示前の84議席から115議席へと躍進。改選定数121のうち過半数の65を獲得する圧勝だった。昨年12月は0増5減法が施行されて初の衆院選だったが、291議席を獲得する圧勝だった。

 「国政では連戦連勝、しかも圧勝だった。投票率が低かったとかケチをつける人もいるが、あくまでも民主的な手順を踏んだ結果であり、自民党・安倍政権への信任である」(自民党中堅)ことは間違いない。すべての選挙で公約した首相の経済政策であるアベノミクスへの期待や憲法改正、原発再稼働などの政策に、国民はゴーサインを出したとみるのが妥当だ。あとはその信任を受けた安倍首相が、断行する決意をどこまで固められるか、そこが問われるのである。

 首相は1月5日に、伊勢神宮の外宮と内宮を参拝後に、神宮司庁で年頭の記者会見に臨み「日本経済を必ずや再生させる。これまでにはない大胆な改革を進めなければいけない。東日本大震災からの復興、教育再生、社会保障改革、外交安全保障の立て直し、さらには地方創生や女性が輝く社会の実現にも真正面から取り組む」と述べた上で「今年はあらゆる改革を大きく前進させる一年にしたい。今月始まる通常国会は『改革断行国会』としたい」と表明した。

 首相の挙げた改革の第一は、日本経済の再生だ。金融政策、財政出動に加え3本目の矢である成長戦略が決め手のアベノミクスであり、農業、医療、労働などの分野で業界団体が築き上げてきた岩盤規制を打破できるのか。自民党の集票マシーンでもあった、これらの業界に手を付けることは容易ではないだろうが、経済力のアップには避けて通れない道筋だ。

 アベノミクスの恩恵は、まだ地方には行き届いていない。昨年の臨時国会で地方創生関連2法を成立させた政府は、年末の閣議で今後5年の総合戦略や50年後の人口1億人維持を目標とする長期ビジョンを決定した。地方創生元年とも言われる今年、地方の活性化へ本格的に動き出さねばならない。

 その際の決め手は、地方自治体からの夢のあるアイデアの提示である。地方の創造的な提案を国が支援し育てる仕組みを構築していくことは、日本経済の足腰を強化していく上で肝要だ。

 同時に、1000兆円超の借金を抱える財政の健全化にも取り組まねばならない。昨年11月に、首相が消費税率10%への引き上げを15年10月から17年4月に延期すると発表したが、借金をしないで社会保障などの経費をどれだけ賄えるかを示すプライマリーバランス(基礎的財政収支)を、今年度には赤字を半減し、20年度に黒字化するという目標は維持しなければならない。

 首相は今夏までに達成のための新たな計画を策定すると宣言したものの、再増税を延期して消費活動を活発化させ税収増を図るとしても限界があろう。予算の大胆な歳出削減など、それを克服する諸案をひねり出すことが求められる。

 首相が「今年はあらゆる改革を大きく前進させる1年にしたい」と語ったように、改革の本丸とも言える憲法改正に向けて本格的に乗り出す年にしなければならない。首相は昨年12月24日に、第3次内閣発足を受けた記者会見で憲法改正について「歴史的なチャレンジだ」と強い意欲を表明するとともに「まず3分の2の多数を衆参両院でそれぞれ構成する必要がある。その努力を進める」と語った。

 自民党改憲試案「日本国憲法草案」を野党時代にまとめた谷垣禎一幹事長も、元日付の年頭所感で「憲法改正実現に向けた議論を、国民の皆様の理解を得ながら進めていく」と前向きの姿勢を示した。

 問題は、憲法改正の発議ができる衆参各院での3分の2以上の議席をどう確保するかだ。衆院での3分の2は317議席だが、自民党は291議席で26議席足りない。自主憲法制定を党是とする次世代の党が2議席へと減少したため、残り24議席をどこから持ってくるのか。新たな条項を加えるだけの「加憲」の公明党と道州制導入を主張する維新の党がそれぞれ35議席、41議席なので、条文の中身は別として改正することだけでの合意であれば衆院で3分の2以上を得ることは不可能ではない。

 しかし、参院の現状ではなかなか難しい。3分の2は162議席だが、自民党は114議席で次世代が7議席の計121議席。それに公明党20、維新11の各議席が加わっても162の数字には届かない。このため「首相は来年夏の参院選に照準をあてて戦略を練っている。その時まで改憲の準備をできるところまでやっておいて、改憲を旗印にした衆参ダブル選挙に持ち込み一大決戦に挑むのだ。それが首相の言う『歴史的なチャレンジ』であり、小泉純一郎の郵政解散ごときの低いレベルの戦いではない」(自民党幹部)というのである。

 では、その時までの「改憲の準備」とは何か。

 第一に、与野党共通の改憲試案策定の協議をスタートさせることだ。自民党は、改憲に一定の理解を示し「加憲」を主張する公明党と、民主党内改憲派と維新の党など野党勢力を取り込み、合意形成を目指して3月から話し合いを始めたい意向だ。自民党幹部は、まずは「環境権」や緊急事態への対応、財政規律に関する規定の新設など、各党が協調して賛成に回れるような国民投票のための共通試案を作成し、秋の臨時国会に条文を出して審査をしたいとしている。

 国家の在り方を明確にする上で最も重要な9条の改正については、自民党と次世代の党だけが明確にしているだけで、他党はあいまいではっきりしていない。そのため、自民党としては「国民投票の一回目から9条改正を国民に問い掛けて、もし否定されてしまったら、再び投票にかけられるのに条文の修正などかなりの時間を要する可能性がある」(同党幹部)として消極的だ。首相としてはむしろ、国民投票に備え国民的理解を深めるための憲法研修会を都道府県別に行って国民運動を盛り上げ、世論を喚起していきたい考えである。

 また、衆参両院の憲法審査会で地方公聴会を積極的に行う計画だ。

 憲法改正をとりわけ急がねばならないのは、単に首相の悲願だからという理由だけでない。わが国を取り巻く国際情勢の緊迫化がある。アジアでの覇権を狙う中国の不当かつ不法な海洋進出は露骨だ。米国と太平洋を2分して管理しようとする「新型大国関係」を米国に求めたばかりでなく、わが国の領海を公船で侵犯したり、防空識別圏を勝手に設定したり、沖縄県尖閣諸島の近くに軍事拠点を構築し隙あらば島を奪取しようと画策している。南シナ海でもベトナム、フィリピンに対して力で現状を変更させようとする国際法違反を正当化しながら平然と繰り返している。

 こうした中で、わが国が「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意」(憲法前文)することはできない。中国だけでなく核開発に奔走する北朝鮮や北方領土を不法占拠し続けているロシアの動向も直視しながら、わが国は自国の安全と生存をしっかりと確保しなければならないのである。

 そうであるなら、憲法9条2項の「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」とあるのは改められねばならない。陸海空軍の戦力を持つ自衛隊の存在を明記し、侵略はしないが、わが国が侵略される有事の際には国防のために交戦権を行使することをはっきりさせるべきだ。これらを国の最高法規に書き込み、諸法(下位法)を規定するのが本来的なはずである。

 ただ一気に9条改正に進めないので、政府は憲法解釈の変更という形で「武力行使の3 要件」を定め、昨年7月1日に閣議決定し現実に対処できるための体制を整えることになった。政府はそのための安保関連法案を4月の統一地方選の後に国会に提出するが、その行方が通常国会の最大の注目点であり、活発な論戦が予想される。

 成立すれば、例えば、ホルムズ海峡での機雷封鎖が「わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」と認められる場合には集団的自衛権の行使を認め、自衛隊が掃海活動を行えることになる。これまで集団的自衛権の行使は「権利はあるが行使はできない」という内閣法制局の歪んだ論理で国際常識に反し制限してきたのだが、それが取り払われることになる。

 そうした法律の成立は、米国製の日本国憲法が制約してきた「戦後レジーム(体制)からの脱却」の第一歩となるもので、行政システム、教育、経済、国と地方の関係、外交・安全保障などの基本的枠組みはもとより憲法改正に至るまでの「あらゆる改革を大きく前進させる」(首相)ことにつながる重要な意義があるのである。

 首相が年頭に行った記者会見で「戦後70年の節目を迎えるに当たり、安倍政権として先の大戦への反省、戦後の平和国家としての歩み、今後アジア太平洋地域や世界にどのような貢献を果たしていくのか、英知を結集して考え、新たな談話に書き込んでいく」と語った。また「この70年間、日本は先の大戦の深い反省とともにひたすらに自由で民主的な国家をつくりあげてきた。アジアや世界の平和と発展のためにできる限りの貢献を行ってきた。その誇りを胸に、次なる80年、90年、100年に向けて積極的平和主義の旗の下、一層貢献しなければならない。その明確な意思を、この節目の年に世界に向けて発信したい」とも述べている。

 すなわち、今年は安倍首相が主導する改革を前進させる年であると同時に、戦後レジームから脱却していく日本が、アジア、世界に向かって胸を張って誇れる理想と決意を発信する節目の年でもあるのだ。首相が尊敬する幕末の志士・吉田松陰は「志定まれば気盛んなり」と諭したが、憲法を改正して世界の平和と繁栄に貢献することを喜びとする新しく生まれ変わった日本を建設するという「志」を腹に据えてあらゆる改革に挑戦する。そういう1年にしてもらいたい。

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