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第二パナマ運河着工に見る 中国「孫子の兵法」

 中南米ニカラグアを横断し、太平洋とカリブ海を結ぶ全長276キロの第二パナマ運河が昨年、着工した。事業を手がけるのは、中国系企業の「香港尼加拉瓜運河開発投資有限公司(HKND)」だが、バックに控えるのは中国そのものだ。中国が考えているのは、世界の物流拠点を抑える事で「戦わずして勝つ」中国古来の「孫子の兵法」の発動た。

 水深27・6 メートルの新運河は、40万トン級の大型船舶が航行可能で、同プロジェクトでは運河だけでなく、空港、道路などといった基礎インフラとともに自由貿易区も建設される。総投資額は約6兆円規模で、運河そのものは5年内の完工を見込んでいる。

 太平洋と大西洋を結ぶ経済的合理性だけを考えれば、現在のパナマ運河の補修増築だけで事足りる事柄だ。

 それでもなお、巨額の投資を惜しげもなく投入してまで第二パナマ運河建設にこだわるのは、経済合理性を超えた野心が中国にあるからだ。その野心とは、米国一極型の世界秩序を破壊し、当面は米中並立型、その上で米国の覇権構造を付き崩して中国の覇権確立へと駒を進めようとするものだ。米国の風下に立たないためには、致命的な部門でのリスク管理が要求される。

 大西洋側の南米と中国を結ぶ海上ルートでは現在、パナマ運河に頼らざるを得ないが、有事の折には中国船は排除されかねないリスクが存在する。そのリスク管理の手段として、第二パナマ運河を建設する戦略的必要性があったのだ。

 これは中国が、ミャンマーのベンガル湾に面するチャオピューから国境ムセを経て中国雲南省の昆明まで、石油と天然ガスのパイプライン2本を建設したのと戦略的には同じものだ。ミャンマー経由のパイプライン建設は、マラッカリスクを回避するためのものだった。

 中東やアフリカから運ばれる原油は、これまでマラッカ海峡経由で中国に運び込まれていた。だが、有事の折にはシンガポール付近では航行幅が2・8キロメートルしかないマラッカ海峡は米軍に抑えられ、エネルギー資源の流通が途絶えかねないリスクが存在する。そのリスクを回避するためのミャンマーのパイプラインだった。

 なお、第二パナマ運河が完成した暁には、中国は格安での運河利用を提案する手はずだ。あわよくば、米国がバックに控えるパナマ運河を利用する外国船舶の利用率を激減させ、中国の影響力の増大を図る見込みだ。

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