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インド市場の捉え方(2)

環境破壊する携帯電話

ASEAN協会 国際委員 加賀祐介

 インドのスマートフォン市場が沸騰している。仕掛け人はインドのベンチャー企業、マイクロマックスだ。今まではノキアやサムスンなどの外資系に圧巻されていた携帯電話市場が、地元産業の力によって一気に巻き返されようとしているのである。すでにサムソンのシェアを抑えて、市場全体の3割に到達しようとする勢いである。

 とはいっても、インドの携帯電話のインフラはまだまだスマートフォンには対応していないということを理解しないと、方向性を見失ってしまうであろう。

9億台の携帯電話

 インドでは約9億台の携帯電話が普及している。世界最大の携帯電話普及率であり、都市部の住民は一人当たり1・5台という保有率である。しかし農村部に行くと、地区住民の10%ないし20%しか保有していないという統計にも目を凝らす必要がある。

 マイクロマックス社の成功は「携帯を格安で利用したい」という利用者の要望に応えて、SIMカードを2個装填できるという新機軸を搭載、さらに停電に備えて30時間連続して使えるバッテリーを搭載した。SIMカードというのは、日本ではまだなじみが薄いが、携帯電話番号に対応したチップである。つまりSIMカードを2枚入れれば携帯電話を2台保有しているのと同じサービスを受けることができるのである。

 インドでは街角のあちこちでSIMカードが売られており、若者たちは新しいサービスが発表されるたびに1枚99ルピー(約150円)で売られているカードを買い求める。「99ルピーで100時間かけ放題」とか各種の「アプリ」などのサービスがついているからだ。

 つまりマイクロマックスの成功は、インドの携帯電話事情に対応した新サービスをうまく取り入れたことによるのだったのである。

公害を生み出す携帯電話

 しかし、インドの携帯電話は普及率が極めて高いことから、大きな公害を生み出す元となっている。スマートフォンは大都市でしか使えず、地方都市や農村部では旧世代の機種が主流である。ところが携帯の数が巨大なので、そのための電波を飛ばす送電塔はインド全体で40万基に達している。電波塔一基当たりの発電量は3キロワット時から5キロワット時であるが、政府の発表によれば全体の発電量は2012年の時点で、すでにインドの鉄道全体の発電量を上回っているそうである。

 問題なのは、電波塔の発電の大部分がディーゼルエンジンで賄われている点にある。さらに蓄電用の電池は、すべて鉛電池であるという点も問題である。

 日本政府はインドの携帯電話用発電機の支援のために、鉛電池よりはるかに効率のよいリチウム電池にすべきであるという提言をしているが、初期コストが高くつくことから、インド政府は未だに受け入れることができずにいる。

 インド政府は電波塔の電源を太陽光電源に切り替える法規制を検討しているそうだが、日本でも難しい新エネルギーの導入にインド政府が踏み切れるかどうかは未知数である。

 インドでIT事業に進出するためには、こうした現地の特殊事情を正確に捉えなければならないのである。

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