インド市場の捉え方 Ⅲ
インド物流の問題点
ASEAN協会 国際委員 加賀祐介
効率の悪い市場システム
インドの市場は、小規模の仲間が乱立した多重構造になっている。ひとつの商品が流通するのに、7段階が必要だとされている。複雑な卸制度は、雇用創出の源泉であるともいえるが、消費者にとっては迷惑な話である。特に生鮮食品の場合は、鮮度を失わせる原因ともなっており、消費者は海外の大手スーパーなどの進出を待ち望んでいた。
インド政府は小売店の大部分を占めているキラナ(パパママショップ)を守るために、慎重な姿勢を崩すわけにはいかず、長年にわたって外資系スーパーの進出を拒んできたのである。
しかし、新鮮な生鮮食品を待ち望む消費者の声に押され、インド政府は2012年に今まで禁止していた外資系スーパーの進出を一定の条件のもとに認めるようになり、米国のウォルマートと英国のテスコがインド企業と合併する形で進出を開始している。
インド政府としては、地元の雇用を守ることが最優先なので、地元企業との合併やフランチャイズの形をとらない限りは、進出できないような規制をかけているが、前近代的な流通機構を改革しなければ消費者が納得しないため、その舵取りにさまざまな工夫をしているようである。
農村地域の無舗装を改善するには
流通がスムースでないもう一つの理由としては、農村部から主要幹線道路に至る道が、未だに舗装されていないという問題も大きい。インドは国際機関による支援を受けながら、国全体をハイウェイで結ぶ計画を推進し続けている。大都市間の幹線道路はおおむね整備されているのだが、幹線道路から農村にいたる道は、ほとんどが未舗装であり、雨期の水溜りによる穴で流通不能になることが多い。
農村から幹線道路を経由して都市に生鮮食品をスムースに流通させることができれば、農村部の貧困率の減少に大きく貢献できるのだが、コストが引き合わないので、地方自治体も手をつけられない状態になっている。
その問題を効率的に解決するためには、日本で昔、使われていた土嚢による舗装を採用することも必要である。日本のNPOである「道(みち)普請(ぶしん)人(びと)は、土嚢を使うことによってコンクリート道路と同じ強度で、3年もの耐久性があることを実証し、世界各地で普及活動を行っている。労働力さえあれば、格安に道路を舗装できるこの工法は、多くの途上国で歓迎され、ケニアなどでは政府公認の事業として雇用を生み出すレベルまで達している。
先進国と類似した発展をしながらも、国内に未開発部を抱えているインドの場合、途上国で採用されているローテクによるインフラ整備を大胆に導入することが必要である。道路インフラだけでなく、エネルギーや水資源に関しても、ローテクを利用した様々な試みがあることから、地元民にやる気さえあれば、住民の手で持続的に運営できるものが思いのほか多いものである。
インドの開発に必要なのは、先進国のモノマネではなく、古来から伝わる技術も含めた多様な手法を大胆に取り入れることであろう。