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維新の党が分裂へ

「橋下新党」10月結成で再挑戦

非大阪系議員は茨の道

 維新の党発足の立役者だった橋下徹大阪市長と松井一郎大阪府知事が8月27日に離党し、10月1日の記者会見で新党結成を表明することになった。大阪系議員ら約20人が新党に参加する見通しだ。一方の松野頼久代表ら非大阪系議員は民主党との野党再編に向かう流れである。その亀裂の度合いが安保法案の採決や内閣不信任案の取り扱いをめぐって深まっている。もともと維新の党への国民の期待値が高かったのは、政権に対して「是々非々」を貫く歯切れのいい姿勢だった。橋下新党が分裂を乗り越え再び勢いを得るカギは、その原点に戻り「責任野党」として再スタートできるかどうかだ。


 橋下、松井両氏は8月27日に離党を表明した。橋下氏は、この時点では党分裂を避ける考えを示していたが、翌日の28日には一転して大阪系議員らとともに新党を結成する方針を示した。労働組合(連合)を支持基盤とする民主党との合流を嫌う橋下氏らが、古巣の民主党との野党再編に舵を切りたい松野代表らと一緒に行動していても「責任野党」としての政治姿勢を貫けず、党勢の回復は望めないとの判断があったからだ。

 両氏が離党を決断した直接のきっかけは、柿沢未途幹事長が14日に、山形市長選挙で民主、共産などが推薦する候補者の応援演説をしたことにある。維新の党としては、その候補者を推薦せず「自主投票」で決まっていた。それなのに柿沢氏がこれを無視したもので、松井氏が柿沢氏の幹事長辞任を要求。それを柿沢氏は拒否し、松野代表も「公党の幹事長が辞する案件ではない」と擁護し対立が深まったからだ。

 しかし、「それだけの理由で党を分裂させ、新党結成に向かうとは思えない」とする自民党中堅は「11月22日に大阪府知事・市長のダブル選が控えている。その直前のタイミングに新たに結党して有権者らの注目を集め、選挙戦に勢いをつける狙いがある」と指摘する。住民投票で看板政策だった大阪都構想が頓挫したため、起死回生策として次の一手を打ったというのだ。

 ただ対立の背景にはもともと根深い問題がある。維新の党の生い立ちを辿ると、大阪維新の会というローカルパーティーから日本維新の会として国政進出した後、2014年8月に日本維新の会と結いの党が合併する形で結成され、旧日本維新の会の橋下代表と、旧結いの党の江田憲司代表が共同代表に就任した。結いの党は、みんなの党を割って江田氏が率いた政党で、この合併に反対した日本維新の会の議員らは次世代の党を結成して離れたため、党内は野党再編論が勢いづいた。さらに5月に行われた大阪都構想の住民投票で賛成多数を得られず敗北したことから、橋下市長が政界引退を表明したのを受けて江田氏も代表を辞任することになった。

 「橋下氏は、政界引退表明をしたことによって党に対する発言力が急速に衰えた。その一方で民主党出身の松野氏が幹事長から代表に昇格し、みんなの党から来た柿沢氏が幹事長となったことで党の路線が野党再編へとさらに傾いた。それに対して大阪維新の会を核とする大阪系議員は不満だったのだ」と政界関係者は解説する。

 つまり、安倍政権に「是々非々」で臨む「責任野党路線」の大阪系議員と、民主党と連携し政権との「対決路線」をとろうとする松野氏ら執行部との路線の対立を内包していたのだ。それが山形市長選という一地方首長選挙を機に噴出したのである。

 こうした亀裂が同党の国会対策にも大きな影響を及ぼしている。維新は安保法案の対案5本を参院に提出し、自民・公明の与党は修正協議を再開し合意を得る方針だった。ところが、与党側は「バラバラの政党(維新)を相手に修正案をまとめるのは難しい」と消極姿勢に転換したのである。

 仮に参院で法案を修正しても、衆院で修正部分の採決を改めて行わなければならない。その際、維新がそろって同じ行動を取れるか疑わしいからだ。

 そのため与党は、次世代、元気、新党改革との修正作業に力点を移し、衆院での再採決のいる「修正」でなく、再採決のいらない「付帯決議」に3党の要求を盛り込むことで成立を期すように戦略を転換させたのである。

 修正が困難となった維新としては、安保法案の採決に際して、大阪系議員らは「出席して、自党案に賛成し、政府案に反対」することで強行採決色を少しでも薄めたい政府側に〝配慮〟した行動をとることになろう。

 一方、非大阪系議員らは民主、共産などと欠席戦術を含めた強硬阻止路線を選択することになろう。

 そして、内閣不信任案の決議について、松野氏らは民主党と協調する意向を示しているが、大阪系は「永田町の悪しき習慣」(馬場伸幸・国対委員長)として同調しない方向だ。「今でも亀裂は明確だが、9月中のいくつかの局面で衝突し党は完全に割れてしまう」(自民党中堅)との見方が強い。

 新党結成に向かう橋下氏の政治パワーの要因のひとつに、安倍首相や菅義偉官房長官とのパイプがある。離党表明直前の8月25日夜に、松井氏は菅官房長官と都内で会食した。その時話し合われた具体的な内容は不明だ。

 ただ、「松井さんは席上、安保法案採決での協力を約束する一方で大阪都構想復活への支持を依頼しただろう。さらに、新党結成と国政への橋下氏の転身も伝えたはずだ」(政界関係者)という。安倍首相が9月4日に、橋下氏の国政転身について「可能性はあるのではないか」との見方を示したことからも、すでに新党結成を国政転出の足掛かりにする意向が菅、安倍両氏に伝えられていた可能性があるのだ。それだけではない。国政進出後の政権との距離感についても話し合った可能性もある。

 橋下氏が10月1日の新党結成の記者会見で発表する予定の新「維新八策」(党綱領)原案は、新党を「国の形を変えることを目的に設立する」とし、「中央集権型政党とは本質的に異なる地方分権型政党」と位置付けている。さらに、国政に地方の声を反映させるために「地方議員と首長も国会議員と一緒に国政に参画する」とし、「国会での質問には地方議員や首長が起草した内容が含まれる」と盛り込んだ。

 それと同時に経済政策では、労働市場の改革や産業構造の転換を柱とした成長戦略の推進を明記。外交・安全保障政策では「多様な価値観を認め合う開かれた社会を構築し、『法の支配』『自由主義』『民主主義』等の価値を共有する諸国と連帯し世界平和に貢献する」と記し、「首相公選制、一院制、大阪都構想を始めとする統治機構改革を実現する」と打ち出し、憲法改正など安倍政権が掲げる重要政策と方向性の重なる点も盛り込んでいる。「それから見ても、地方色重視の新党らしさを鮮明にしつつ、重要政策では政権に協力していくというベクトルが浮かび上がってくる」(政界関係者)と言える。

 維新が直面している当面の現実的な課題は、党の割れ方をどうするかだ。「分割」か「分派」かの分裂の仕方によって、その年の政党交付金の額が違ってくるからだ。維新は今年、合計26億6400万円交付されることが決まっている。支給されるのは4、7、10、12の各月の年4回だ。今年はすでに4月と7月の分が支給済みである。

 仮に、ある政党の当事者が合意の上で政党助成法上の「分割」手続きをすると、その政党はいったん解散して複数の政党に分かれることになる。そして、政党交付金が議員数に応じて各党に配分される。したがって、維新が穏便に分党(「分割」)すれば、10月と12月の額が所属議員数分、各党に支給されることになる。維新の前身の「日本維新の会」が昨年8月に、石原慎太郎氏らの次世代の党と維新に円満な形で分かれたケースがこれだ。

 これに対して、一部の勢力が飛び出てしまう「分派」の場合、残った側がすべてを受け取ることができる。出て行った側(分派)にはその年は支給されない。ただし、国政選挙があれば、その結果を踏まえて計算し直した交付金が支給される。

 2000年3月、自自公連立政権からの離脱に傾く自由党党首の小沢一郎氏らに対し、連立継続を求める海部俊樹、二階俊博両氏ら反小沢グループが党を飛び出して新党・保守党を結成した。この時、保守党は過半数の参加を得たので自由党に対して「分割」を要求したものの、拒否された。そのため、保守党は分派の形での分党となったのである。政党助成金は同年6月の総選挙後に交付された。

 次回の支給は10月20日であるため、同月の13日までに総務省に請求しなければならない。しばらく国政選挙もないので、大阪系としては「分割」手続きを急ぎたいところだが、松野代表ら執行部は自由党分裂のときの小沢氏と同様、「分割」を認めない可能性が大きい。円満な分党は実現しそうもないようだ。

 一方、民主党との合流を志向する松野代表ら非大阪系議員には茨の道が待ち構えている。松野代表は5日に、地元熊本での記者会見で民主党との合流構想について「年内にきちんとした政党の形をつくり、来年の通常国会で国民に見てもらって参院選で審判を仰ぐのが筋だ」と意気込んで語るが、その筋論に反発する民主党議員も多い。しょせんは〝出戻り〟(元民主党)議員の発言に過ぎない。「松野氏ら約10人は3年前の衆院選で大敗必至とみられた苦しい時に、勢いのあった他党へ逃げ出した張本人たち」との冷ややかな声が民主党内に絶えない。

 その上、気に入らないのが松野氏の態度だ。松野氏は合流形態について「改革勢力の結集により政権交代可能な野党をつくる」とし、両党がまず解散した上で対等合併し、党名も変えることを要求している。議員数は、維新が衆院40 、参院11の計51議席。このうち、非大阪系は30人ほど。民主は衆院72、参院58の計130議席。つまり、4倍以上の規模の政党に向かって「合流してあげるので解党せよ、名前を変えよ」と上から目線で注文している形だ。民主党の岡田克也代表らが容易に呑めるわけがない。松野氏を含む比例代表選出議員は国会法の規定により、選挙の時に競合した政党に個別には移籍できないこともあり、民主党が維新をのみ込む「吸収合併」が当然との考えである。

 ただ民主党内で野党再編に前向きな若手・中堅らから、解党して抜本的な立て直しを図るべきだとの意見が顕在化してきた。党勢回復の好機ととらえているからで、衆院当選3回の岸本周平、大西健介両氏は3日に岡田代表と会い、「安全保障関連法案の成立を阻止できないことは民主党の力不足だ」と主張、速やかな解党と新党の設立を求める文書を若手7人の連名で提出した。中堅やベテランの一部にも新党構想を支持する声が出ており広がりを見せ始めている。

 しかし「合流できたとしても何がわが党の売りになるのか」と懐疑的なのは民主党幹部の指摘だ。維新側から参加するのは非大阪系で、民主党では政策面で非主流の保守派に近い。現在、労組を支持基盤とするリベラル派が党運営の主導権を握っている同党にとって、議員数は増えてもお荷物となる可能性もはらんでいるのである。いくら目先を変えても、民主党の支持率アップにはつながるまい。同党が国民政党として政権復帰を目指すために必要なのは、労組との緊密な関係を断ち切り、橋下新党が志向する「是々非々」の責任政党に脱皮することなのである。

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