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インタビュー 衆議院議員 自民党政治制度改革実行本部長 平沢勝栄氏に聞く

中国は虎視眈々と沖縄を狙っている

 警察畑の出身者らしく「巨悪」に対し身じろぐどころか、歯に衣を着せぬ「口撃」を加えることで高い人気度を誇る平沢勝栄衆議院議員に、強権台頭する中国とどう付き合えばいいのか、憲法改正のポイントはどこにあるのかなどを聞いた。


――中国に関しては「10年後にはGDPで米国を抜く」とか、一方で「中国崩壊論」があったりブレが大きいが、中国観はどういったものか?

 日本はこれからずっと、加害者であるとして中国から責められ続けると思う。だから、日中は加害者と被害者の関係がこれからもずっと続く。

 中国が望んでいるのは、できれば自分たちが世界一の国家になることだ。軍事力でも経済力でも、外交力でもあらゆる面で世界一になることを望んでいる。

 その時に、国際法だとか国際間のルールみたいなものが邪魔になる。おそらく、中国はそうしたものを無視してくるだろう。

 その兆候が出ているのが南シナ海だ。

 中国は国内法と国際法がぶつかった時に、どちらを優先させるかといえば、明らかに国内法を優先する。

 その時の理屈は、国際法や国際間のルールというのは自分たちの力が弱かった時に、大国が勝手に作ったものということだ。そのすべてを無視するわけにはいかないけれど、これを直していかないといけないと中国は考えている。

 今の国際間のルールは中国にとって不利にできているというのが中国の考えだ。中国が現状に満足することは絶対あり得ない。それに対し日本が何か言うと、「お前たちは加害者だ」と言ってくるだろう。中国はこれから、どこにでも出ていくだろう。

 現実に、南シナ海に出てきている。それで南シナ海を治めたら、それで満足するかといえば、満足しない。

 中国が1992年に定めた領海法には、尖閣(釣魚島)は自分たちの領土と書いてある。それにもかかわらず、中国が実力で尖閣を取りに来ないのは、明らかに米国を意識しているからだ。米国が背後にいなければ中国は尖閣を取りに来ると思う。

 中国の学者とか軍人と話していると、明らかに「沖縄は自分たちの領土」と言っている。韓国の中で「対馬は自分たちの領土」と言っているのと同じだ。韓国政府は言っていないが、韓国人にはそう思っている者が多い。

――韓国は「対馬」は自分たちのものだという意識はあるのか?

 対馬藩というのは、朝鮮との交流も深かった。

――しかし、江戸幕府への帰属意識はあった?

 あったけれども、実際の交流は朝鮮と密だった。朝鮮との交流の文書は一杯残っている。

 対馬王朝の朝鮮との交流記録は何万冊とあるはずだ。この多くは韓国にあるが、日本には渡さない。いつ、どういう形で韓国が、これを使うか分からない。

 竹島近くの鬱陵島(うつりょうとう)には、竹島博物館があるだけではなくて、標識に「対馬はわが領土」とはっきり書いてあるそうだ。新藤義孝衆院議員や稲田朋美衆院議員、髭の佐藤正久参院議員は鬱陵島に行こうと韓国に渡ったが、金浦空港から外に出られず、そのまま引き返してきた。

 その時には私は行けなかったが、後日、原田義明議員と一緒に出かけた時、天気はいいのに船は出ないという。翌日もそうで、結局、行くことはできなかった経緯がある。

 そうした「対馬」に対する韓国人の領土意識と同じように、中国は「沖縄」に対して領土意識を持っている。

 だから中国とすれば、まずは尖閣。次には沖縄だ。そんなことは絶対させてはならない。領土と言うのは一寸といえども譲ってはだめだ。イェーリングは「権利のための闘争」(岩波文庫)を書いているが、一部の領土を取られて黙っている国民は全部の領土を取られるとある。国家の最たるものは「領土や国民の命」だ。絶対に、少しでも妥協してはだめだ。自分の領土を気前よく占領させるようなお人よし国家は、その全土を侵略されて消滅するのが世の常だ。

 中国は今、尖閣が日米安全保障条約の対象になっているから黙っているけれども、そうしたものが外れたら、ちょうどフィリピンから米軍が出て行った後、南沙諸島に出てきたようにすぐ出てくる。日本がひるむ時に必ず出てくる。中国は虎視眈々と力の空白を狙っていると思う。

 その意味では中国の動きと言うのは、日本にすれば脅威だ。日本政府は中国に対し「脅威」との言葉を使わないで「懸念材料」という言葉を使い、「中国の国防力の増強など」に対し「懸念」といっている。私は「懸念」じゃなく「脅威」だと思っている。

――ドナルド・トランプ氏が米大統領共和党候補の指名をほぼ確実にしているが、発言を聞くと「米軍撤退」もあり得る?

 トランプの考え方が米国のマジョリティーとは思わないが、日米関係でいえば米国に理解してもらうしかないし、そのための努力を怠ってはだめだ。

 もし米軍が日本から離れたら、平和安全法制を憲法違反だと騒いでいた連中は、どうやって日本を守るのか。彼らは安全保障と言うのは、日本は憲法があるから何もやらなくていい、ただ米国に任せておけばいいという考えだった。ところが、米国が出ていくことがあり得るとなった時、日本としてどうするんだということの判断を迫られてくる。

 だからトランプが、ああいうことを言ってくれたので、日米安保条約は当然のように考え、駐留米軍を日本を守る番犬みたいに考えていた人には、冷や水になっただろう。

 彼らの論理は、外国に自衛隊は一人も出さない。ただ憲法だけを守って何もしない。基地提供しているんだから、米国は日本をしっかり守れ、ということだ。こんなことが、いつまでも続くはずがない。

 それをトランプはしっかりと教えてくれた。

 米軍が1992年、フィリピンから撤退した時、フィリピン政府はまさか米軍が出ていくとは思わなかった。91年のピナトゥボ火山の噴火があったこともあって、実際に米軍は出て行った。

 日本の米軍も出ていかないとも限らない。そのためには、日本もそれなりの貢献をしなければいけない。日本は憲法があるから何もしないというのじゃ通らないだろう。

 日本人が一番勘違いしているのは、憲法9条があるから日本は世界から大変に尊敬されている、信頼されていると思い込んでいることだ。大学の憲法学者の中にも、こういう考えの者が一杯いる。

 日本は平和憲法を持っているから外国から信頼され尊敬されていると言うが、全然、日本は世界から信頼されていないし、尊敬されてもいない。

 日本はむしろ、外国から見たら日本人の命が一番大事だと思っている国だ。そして日本だけ平和になれば、他の国はどうでもいいと思っている独りよがりのセルフィッシュ(利己的)な国民だと思われている。

 私は役人時代の最後、防衛庁の審議官をやっていた。外国はずいぶん回って、国防関係者と話をした。その時、彼らが言うのは、日本というのはセルフィッシュな国だ。自分の国民さえ助かれば、他の国の国民はどうなってもいいと思っているのが日本国民だ。非常にわがままだし、自己中心だ。みなそう言っていた。

 表向きには言わないし、新聞に出るようなところでは言わないが、内々で話をすれば必ずこうしたことを言う。

 世界から日本が尊敬されているなんて現実にはない。テロリストは「尊敬」しているかもしれない。韓国、中国も「尊敬」しているかもしれない。

 先だってBSフジのプライムニュースという番組で、「憲法シリーズ」をやっていて、私も出演した。一緒に出演した中国の朱建栄という教授が、憲法前文の「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」について(自民党の草案では)何でこんないい文章を削ったんだと言った。すかさず「そんなにいいのなら中国の憲法に入れたらいいじゃないか」と返したら、朱氏は黙ってしまった。

――中国の習近平政権というのは言論の自由を抑え込み、人権派の弁護士は牢獄に放り込むなど「強権統治」の手法をとっている。さらに「ハエもトラもたたく」とのスローガンで、汚職一掃にも動いてきたが、これは汚職一掃しないと共産党の求心力は消えてしまうとの危機感から動いているのか、政敵を潰すための権力闘争なのか、どちらだと思うか?

 その両方だろう。中国は憲法に人権が書いてあるが、人権が守られない国だ。なぜ守られないかというと、中国は憲法や法律の上に共産党がある。その共産党がすべてだからだ。だから、人権も党の方針でいくらでも右にも左にも動かすことができる。

 中国の長春で国際会議があった時、慶応大学名誉教授の小林節さんと一緒に参加した。私はそこで「中国は憲法や法律があって法治国家と言っているが、中国では法の上に共産党がある。党の方針で法を変えることが可能だ。これでは法治国家とは言えず、信用して中国とは付き合えない」と言った。さらに、示し合わせたわけではないが、私の後の小林節さんも同じような基調報告をした。

 そうしたら、昼の食事の座席が変わった。今までメインテーブルだったのが、すみっこに押しやられた。

 そして私たちに「シンポに出なくていいから見学に行ってくれ」と言う。そして、小林節さんと私に車を用意してくれて、案内された。その場所が、日本が戦時中、いかに残虐なことをしたかという博物院だった。

 最初に言ったように「中国は被害者。加害者のお前たちは何を言うのか」という意識だ。つくづく「この国とつきあうのは大変なことだ」と私は思ったものだ。

 要するに、中国には法律とか正義とか何もない。要は共産党があるだけだ。

 経済については自由主義みたいな錯覚を持っているが、人権とか思想とかは共産党一党独裁下の共産主義国家だ。そこを忘れてはだめだ。

――1991年12月にソ連は崩壊し冷戦終結と言われたが、アジアには共産主義は残った。北朝鮮にしろ、中国にしろ異質の国だ。

 中国は民主主義国家ではなく、共産党独裁の共産主義国家であることは間違いがない。ただ経済では一部、自由主義的な側面が出ている。

――アジアに残った共産主義とどう対峙していくのかという歴史的課題がある?

 日本にとって戦後は終わっていない。韓国とは同じ価値観と言うことでやっているが、北朝鮮とは国交もないし、中国とは価値観が全く違う。その中国から日本は脅威にさらされながら、これからもうまくやっていかないといけない。

 軍事力でも経済力でも、今まで中国が弱かった時はよかった。しかし、中国は現在、変に自信をつけてきている中で、昔の被害者意識を丸出しにして、無理難題を含めて日本にすべてを飲み込ませようとしている。これから中国との付き合いは、大変になると思う。

――その意味では、安倍首相がロシアを訪問するなど、ロシア外交に力を入れようとしている。タタールのくびきといった歴史的な教訓もあるし、中国の圧倒的な人口圧力にさらされているロシアの中国への脅威感は強いものがある。そうしたロシアを中国へのカウンターバランスとして使う必要がある?

 その通りだ。ロシア外交強化路線は正しい選択だ。

――落としどころは2島返還か?

 領土というのは国家主権の最たるものだ。ただ難しいのは領土というのは、100年も取られていたら既成事実化する。前にも二島先行返還論とか面積で二等分するとか妥協案が出たが、これについては国内がまとまらないから難しい。

 ただ私は、二島でも三島でも返してもらって、後は今後の交渉に任せたらいいと思う。すでに戦後70年で、このままだと完全に既成事実化する懸念がある。

 だから、取れるときに少しでも取っておかなくてはならない。その意味では1991年12月25日のソ連崩壊の時が大チャンスだった。その千載一遇の機会を日本は逃してしまった。

――なぜ、歴史的な好機を逃してしまったのか?

 残念ながら日本国内の政治状況が悪く、腰を据えて外交できるような環境にはなかった。日本の政界は竹下登氏の後、宇野さん、海部さん、宮沢さんと目まぐるしく動いた。さらに細川政権につながっていった。

 小泉政権だとか安倍政権のように安定した政権だったら、そうしたことにはならなかった。

――中国の内的な課題である道徳問題をお聞きしたい。人民公社や文革の時代、中国は家族間での密告を奨励したり、教師を売るようなことを薦めた。さらに改革開放路線で、拝金主義が蔓延した。人倫道徳はすたれる一方だが?

 中国はパナマ文書では、習近平関係者だけでなく、もっと出てくると思う。中国の富裕層はできるだけ外国に金を蓄えて、何かあれば逃げられるようにしている。

 自分たちの子弟も、できるだけ外国の大学とかで学ばせて、場合によってはいつでも外国に住めるように準備している。

 中国の致命的な問題の1つは、極端に格差が大きいことだ。金持ちは日本と比較にならないぐらいの富豪で、自家用飛行機や外国に別荘を持っている。

 今、カジノ都市マカオが困っているのは、これまでマネロンダリングでカジノを利用していた中国人が来れなくなって閑古鳥が鳴いていることだ。習近平主席が厳しく汚職追放に動いているから、下手に動けば、汚職疑惑の対象にされかねない。とりわけ役人の顧客がごっそり消えた。マカオだけでなく、韓国の釜山やソウルなどのカジノも運営が厳しくなった。それまで、中国の顧客でもっていたようなものだったからだ。それに比べると日本人顧客というのは大したことはない。

 そして中国は儒教精神で家族を大切にすると言いながら、政治家を含めて自分たちさえよければいいという社会現象がみられるようになっている。

 その意味でも私は、中国のあの体制というのはそれほど長くは続かないと思う。

――中国要人の汚職の額が半端じゃない。3000億円や4000億円だとか天文学的で、田中角栄氏のロッキード事件での5億円という数字の比じゃない。

 先だって中国大使館の人と話した時、甘利さんが大臣室で受け取ったとして大騒ぎになった50万円というのは、中国では問題にもならないと言っていた。

――憲法改正の眼目は?

 前文と9条だ。さらにいうなら前文から103条まで全部、変えないといけない。

 ただし、前文と9条を変えるとなると問題になるし、国民は憲法改正のやり方も知らないから、私は方法論としては誰もが反対しないところから入ったほうがいいと思っている。全部、変えようとしたら多分、2、30年はかかるだろう。

 いっぺんに全部の改正を試みようとしても、国民がついてこれない。せいぜい、同じジャンルの部分に絞って改正案を出していく。次には別のジャンルに絞って、何回も改正案を国民に提示する必要がある。

――入り口としてはどこが適当か?

 私学助成や裁判官の給与とかの改正あるいは緊急事態、犯罪被害者の権利利益の保護、環境権やプライバシーといった新設のところなどが適当かもしれない。それと憲法には確実に誤っているところがある。

 憲法7条には「天皇陛下は内閣の承認と助言により、次の告示を行う」とあり、4番目に「国会議員の総選挙を施行すること」とあるが、「国会議員の総選挙」というのはありえない。衆議院は全員改選されるので総選挙と言うが、参議院は半数の選挙で、通常選挙と言う。これは憲法の明らかな過ちだ。

 それから憲法第60条に「予算は先に衆議院に提出しなければならない」とあるが、これは「予算」ではなく「予算案」でないといけない。こうした明らかな間違いもある。

 それと石原慎太郎氏が国会で質問したことがあるが、前文に「諸国民の公正と信義に信頼して、我が国は生存と安全を守ると決意した」とあるが、「諸国民の公正と信義に信頼して」の「に」は国語として過ちだ。「に」ではなく「を」でなくてはならず、「諸国民の公正と信義を信頼して」でないといけない。「あなたに信頼して金を貸す」とは言わず「あなたを信頼して金を貸す」が正しい。

 それから言葉の中に「官吏」や「吏員」、それに「奴隷的拘束」とか日本語で使わない言葉も出てくる。なぜ、こうした言葉があるかというと、もともと英語であったものを日本語に訳したからこういうことになった。

 ともかく、誰もが反対しないところから直したり、付け加えた方がいい。だが、最後の本丸は9条だろう。そもそも、これは自衛隊が存在しない時に、できた憲法だ。だから昭和22年に憲法がスタートした時、自衛隊の存在は前提としていない。

 自衛隊は昭和25年に朝鮮戦争が勃発して、警察予備隊を作ったのが前身だ。自衛隊は憲法の後からできたもので、憲法は自衛隊を想定していない。

 本当なら日本が独立を果たした時、憲法を書きかえて自衛隊を位置付け、その中で自衛隊は何ができ何ができないのか明記すればよかった。それを何もしないで今日まで、無理な解釈でその場しのぎできた経緯がある。

 安倍首相が国会で「わが軍は」と言って問題になったことがあった。これは日本は軍隊を持たないことになっているからだ。軍は持たないけれど、自衛力は持つ。あるいは自衛のための実力組織は持つ。だが軍隊ではない。

 こうした屁理屈みたいなことを言ってきた。こうした屁理屈は、いつまでも言うべきじゃないし、まともな国家じゃない。そろそろ改めた方がいい。

 それと護憲・護憲という人たちがいるが、あの人たちも実は改憲主義者だ。民主党国会議員とテレビで一緒になった時、この議員は「憲法は一言一句変えてはいけない」と言うから、私は「天皇制はどう思うか」と聞いた。すると、その人は「天皇制は民営化した方がいい」と答えた。そうしたら憲法を変えないといけない。

 要するに、護憲派は嘘をついているだけの話だ。

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