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二階俊博氏の心は藤吉郎

草履を胸に天下取りの志

元自民党参議院議員会長 村上正邦氏に聞く

 大所帯となった自民党の束ね役・二階俊博幹事長の動きが激しい。沖縄にも飛べば海外への敷居も低い。二階氏の腹の内は何か。さらに天皇の生前退位問題、ポスト安倍問題を永田町の表も裏も知り尽くした元自民党参議院議員会長・村上正邦氏に聞いた。


――自民党は大所帯となっているが、大きくなると分裂の芽も出てくる。これを束ねていくパワーは?

 二階俊博幹事長がキーパーソンになると思う。二階氏はもともとは自民党だが、宮沢政権の時に離党してから、新生党、新進党などを経て、保守党を結成するなど政治の裏も表も知り尽くした苦労人だ。実に異能・異形の政治家だよ。安倍首相は、不慮の事故にあった谷垣前幹事長の後任に「自民党で最も政治的技術を持った」二階氏を起用したが、成功すれば儲けもの、失敗しても仕方ないということだったんじゃないかな。

 今回の福岡の補欠選挙で鳩山氏が蔵内氏に勝ったが、二階幹事長は勝ったほうを公認するという方針だった。本来なら、公党としてはあんな裁定はできないはずだ。また都知事選では自民党推薦候補ではなく、無所属の小池百合子さんを応援した若狭氏を厳重注意処分で済ませた。

 その若狭氏を東京10区補選で党の公認候補にする一方、豊島・練馬の区議会議員の諸君は離党勧告。筋から言えば、むしろ若狭氏を除名すべきだった。しかし、二階氏は実に融通無碍、党内の軋轢を呑み込んで、知恵を絞って打った手だ。

 こんな手法が「最も政治的技術を持った」男と称される所以だね。

 大体、二階氏の辞書にはNOという言葉がない。秀吉が藤吉郎時代に、信長の草履取りに徹したように何でも引き受けた。二階氏の凄いところは、藤吉郎と同様、引き受けた以上は、やり遂げるということだ。日本一の幹事長になろうという心意気だね。藤吉郎のように、腹の中で狙っているのは天下取りかも知れんね。二階氏は野心家だ。普通の幹事長とは違うよ。

――〝二階藤吉郎〟は次の総理を狙っている?

 そう思うよ。安倍総理と菅官房長官の仲がおかしくなって党内が乱れれば、それだけ二階氏の値打ちが上がっていく。沖縄の辺野古訴訟の判決直前という微妙な時期に、二階幹事長が沖縄を訪れた。事前に官邸とは調整しているとは言っても、総理や官房長官の対応とは一味違うところを見せた。これも将来への布石と見ていいんじゃないか。

――ポスト安倍だが、石破茂氏は?

 彼は度胸がない。だめだね。麻生政権の末期に、麻生降ろしを目論んでいた農水大臣の石破氏は官邸に乗り込んだことがあった。場合によっては麻生首相に辞めろと言うつもりだったんだろうね。しかし、言えなかった。その時、麻生総理は「あんた、辞めるなら辞めていいよ。懐に辞表を持っているだろう。受理するよ」と、逆に迫られた。石破氏は「分かりました」と、辞表を出すことなく、尻尾を巻いて逃げだしたそうだ。その現場にいた政務から聞いたよ。

 彼には本当の度胸はないのじゃないかね。

 石破氏は今回も閣内から出て行ったけれども、何が何でも天下取りにいくという、覚悟を持って出て行ったわけではない。

 その点、二階氏はくそ度胸があるよ。幹事長というのはナンバー2だからね。つまり天下を狙える位置にいるということだ。

――天皇の生前退位問題についてどう考えるか。

 去る八月八日に、天皇陛下が自らの思いをテレビを通じて吐露された。私はこの陛下のお言葉を「心と魂の叫び」だと受け止めた。

 それ以降、譲位を求めるべきか否か、各方面で有識者の議論が活発に行われている。

 こうした中、新聞は「生前退位で特措法皇室典範に付則追加」と報じている。記事によれば、政府は識者から幅広い意見を聴取し、陛下の「生前退位」を特措法制定によって可能にする検討を始めたようです。しかし、私は強い違和感を覚えます。

 仮に譲位が実現すれば、皇室典範の改正が必要不可欠だ。現在の天皇陛下に限って例外的に認めるという特措法の考え方は、余りにも場当たり的であり、恣意的だと思いますね。

 陛下は先に述べられたお言葉の中で、「これからも皇室がどのような時にも国民と共にあり、相たずさえてこの国の未来を築いていけるよう、そして象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことをひとえに念じ」とお述べになっている。

 つまり、陛下は皇統をしっかりと次世代につないでゆくことを自らの最大の使命とお考えになっておられる、と私は思う。単に、高齢になったから、仕事が辛くなったと仰っておられるのではない。陛下は皇太子だけでなく、孫の世代の悠仁さまや、さらにその先々まで見据えておられる。

 この陛下の思いを真正面から真摯に受け止めるべきだと思います。

 安倍総理は、ことが大きくなれば念願の憲法改正が困難になると危惧し、特措法の制定で早期決着を図ろうと考えたのかも知れないが、それは大間違いだ。天皇一代限りにおいて云々といった取り方自体がおかしいのじゃないか。   天皇が公務でお疲れになったから、仕事を減らせばいいという安易なものの捉え方は困る。まずは陛下の真意をしっかりと受け止めることだ。

 日本の伝統や歴史を考えて、陛下のお言葉のもつ深い意味を探らないといけない。そもそも世界に日本のような皇室の歴史はない。安倍内閣はそういうことを考えないといけない。陛下のお言葉を単純に考えすぎている。

 憲法改正のスケジュールに支障を来すから、特措法などという姑息な手段で、事を処理しようと考えてはならない。国家の一大事が問われているのだ。

――そもそも天皇には「祭祀の天皇」ということが大きな存在としてある。

 天皇は五穀豊穣と国家国民の安寧と幸せのために祈る、祭祀王としての本来のお務めに戻っていただくことこそが大切なのだと思う。

 歴史を振り返れば、明治維新まで天皇は祭祀王としてのご存在だった。しかし、近代化の過程で、明治維新後は薩長藩閥政府によって大元帥に祭り上げられ、薩長政権に利用された。敗戦後は米国の日本支配に資するため、シンボル・象徴に仕立て上げられた。

 天皇は明治維新期には薩長藩閥政府に、敗戦後は米国にそれぞれ利用されたといって過言ではないと思う。

――タイのプミポン国王が逝去されたが、ラオスの王室は1975年のパテトラオの共産革命で消失し、ネパールの皇室も近年、消失した。アジアの中でも王室は衰退している。

 タイのプミポン国王は元首であると同時に国軍の統帥権を持つ現実的なパワーも所持していたが、日本の場合は伝統の体現者のような立場だ。

 私は陛下の「心と魂の叫び」を真摯に受け止め、明治以来の異形な天皇の姿を本来あるべき姿に戻すことこそが大切だと思う。

 その意味では、現世の権力の象徴たる皇居である江戸城から、日本武尊が「国のまほろば」と詠った大和の地へお戻りになり、「国民の安寧と幸せを祈ること」に専念していただきたいと切に思う。

 明治維新で天皇を京都から千代田城という今、お住まいになっている所に移した。千代田城というのは徳川家康が作ったものだ。京都を離れ、そこにお住まいになっていること自体がそもそも間違いだ。

 天皇に軍服を着せ、白馬に乗せて、パフォーマンスをやらせた天皇制のあり方が間違っていた。

 千代田城は国民遺産に登録して、世界に開放すべきだ。現実問題として天皇がお住まいにならなければ、地下が自由に往来できる。

 大手町からタクシーに乗ると、新宿に行くのに迂回しないといけない。それを地下にトンネルを掘って自由に行けるようにすれば、経済効果は大きなものがある。スムーズに地上も地下も通れるようになるのだから、東京の再活性化を促す。

 そして、世界の人々に千代田城を開放するくらいのことをやらないといけない。

――12月にはロシアのプーチン大統領が訪日する。北方領土問題は歴史的な解決の日を迎えることになるのか。日経新聞は共同統治論をすっぱ抜いているが?

 4島返還は難しい。僕はうまくいかないと思う。プーチンが何を言おうと、今は4島返還は夢物語だ。歯舞・色丹の2島帰返還は実現するだろうが、国後・択捉は100年、200年先というのは、もう帰ってこないと言うに等しい。国際情勢がどうなっているかも分からず、空手形に等しい。

 そもそも経済協力を餌に北方領土を取り戻そうと考えるのは、無理筋というものではないか。ロシアに経済協力をするだけで、北方領土問題は進展しない、つまり「食い逃げ」される可能性が濃厚だ。

 現実問題としては、北朝鮮を中に組み込んで、北朝鮮とロシアとの関係をよくみていかないといけない。

――北朝鮮を組み込むというのはどういうことか?

 ロシアは北朝鮮に相当な援助を提供している。不凍港を欲しがっているロシアは北朝鮮を非常に重視している。ロシアは北朝鮮を影響下に組み入れて、米国、あるいは中国への牽制役として使おうとしている。そうした広い視点を持った上で、ロシア、北朝鮮を巻き込んだ交渉を展開していく必要がある。

 そうした考えなしに、北方領土だけに目を向けても駄目だ。

 拉致問題も、北朝鮮にだけ目を向けるのではなく、米国・ロシア・中国も視野に入れて考えるべきだ。直球一本だと何も解決しないよ。

――相乗効果というか、組み合わせの妙手があるということか。

 そうだ。ロシアをうまく利用しなきゃいけない。北朝鮮だってロシアと米国の関係をうまく利用している。中国もそうだ。日本だけ馬鹿正直に米国にだけ顔が向いているが、それでは駄目だ。

 安倍・プーチン会談も落ち着くところは、二島返還。国後・択捉は100年後、200年後になってしまうと私は思う。それを逆手にとらないといけない。

――北朝鮮のロケットの技術も中国からではなく、ロシアからきているということだ。

 そうだ。プーチンと仲良くしているから、個人的にどうのこうのという次元の話ではない。プーチンだって国家を背負っている。特にロシアという国は甘いものではない。

 そもそもプーチンが、このまま日本と米国の関係を許すはずがない。北方領土問題は戦後の歴史的経緯を振り返ってみれば、米国とロシアの問題でもある。米国は日本とロシアが対立状況にあることが、国益なのだ。ハッキリ言えば、米国は日本がロシアと対立することを望んでいる。

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