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インタビュー  元金融・郵政改革担当大臣 亀井静香氏に聞く

総選挙で自民は過半数を割る 超党派防波堤議連で国難対処

 元金融・郵政改革担当大臣の亀井静香氏は2月に、代表世話人として超党派の「防波堤議連」を立ち上げた。「各国の厳しい要求から日本を守る『防波堤』を構築しなければならない」との趣旨だ。その亀井氏に時代の世界的大潮流をどう見ているのか、その破壊力をブロックするために何をすべきなのか聞いた。亀井氏は安全保障ではミサイル防衛強化の必要性を強調し、政治問題では日本式民主主義のありようを説く。とりわけ強調したのは、実態のない小池ブームの亡霊にとらわれると、自民党も民進党も時代の大波に流されてしまうリスクの高さだった。
(聞き手=松田まなぶ本誌論説委員長)


――日本がアメリカに依存する国だとされる根っこには、日本の安全保障の基軸が日米同盟だということにある。いまや日米間で軍事体制は一体化しているが、その中にあって、日本が安全保障面での自立を図っていくとすれば、どのようなことが考えられるのか。

 ミサイル防衛を強化すれば沖縄の基地もいらない。イージス艦もあるし、新しい視点で新しい防衛体制を整備する必要がある。それをやらないで、現実にそぐわない半世紀以上前の米軍占領時代のままじゃだめだ。

 ミサイル防衛は3兆円投入すれば、相当な防衛体制を構築できる。

 ミサイル防衛の時代に入り、米軍はグアムに迎撃基地を置いている。ミサイル防衛をやる上で日米はどういう協力をしていくべきか、トランプ政権の誕生は、それを考えていくいいチャンスだ。

 それと北朝鮮との交渉窓口を作ることが大事だ。危険な奴をほっておいてはいけない。その懐に飛び込まないと、やりようがない。抗議声明を出しても痛くも痒くもないのが北朝鮮だ。

 中国は北朝鮮をバックアップしているが、その中国以上の依存関係を作り上げもいらない。イージス艦もあるし、新しい視点で新しい防衛体制を整備する必要がある。それをやらないで、現実にそぐわない半世紀以上前の米軍占領時代のままじゃだめだ。

 ミサイル防衛は3兆円投入すれば、相当な防衛体制を構築できる。

 ミサイル防衛の時代に入り、米軍はグアムに迎撃基地を置いている。ミサイル防衛をやる上で日米はどういう協力をしていくべきか、トランプ政権の誕生は、それを考えていくいいチャンスだ。

 それと北朝鮮との交渉窓口を作ることが大事だ。危険な奴をほっておいてはいけない。その懐に飛び込まないと、やりようがない。抗議声明を出しても痛くも痒くもないのが北朝鮮だ。

 中国は北朝鮮をバックアップしているが、その中国以上の依存関係を作り上げればいいだけの話だ。隣国の中国から植民地扱いされるより、地理的にも離れた日本と仲良くしたほうが得だということになれば、日本のいうことも聞かないといけなくなる。

 経済制裁といっても、頼られていない以上、大きな効果を上げることはできない。

――2月に立ち上げた「明日の日本を考える議員連盟」で、米国にも言うべきことを言っていくということだが、議員外交を強化するのか?

 議員外交というより、省庁をしっかりさせる。政府をしっかりさせる。

――どう尻を叩くのか?

 呼ぶんだ。米とどう対処するのか、北朝鮮とどう向き合うのか、ちゃんとしないと罷免要求する。

 その出方によっては味方にもなるし、敵にもなる。

――最近、ポピュリズムの台頭など民主主義の危機が言われているが、トランプ大統領の側近のバノン氏などは人種主義者だと警戒する見方もある。

 民主主義というのは、そもそも頭の中で作られた政策だ。

 民主主義は戦後占領政策で作られた。デモクラシーといってもいろんなものがある。世界中、国によって全部違う。中国は中国でデモクラシーという。

――デモクラシーは、大衆を意味するデモスと、支配を意味するクラシーの合成語で、そもそも、大衆が支配するという意味だそうである。

 基本的にはそうだ。長期的には下部構造が上部構造を支配する。下部構造から支持されなかったら、上部構造は崩壊する。下部構造が上部構造に反映するというのは、いろんなやり方がある。

――世界のインテリたちが、ポピュリズムのリスクを語り、独裁の危険性を議論しているが、結局、各国のエリートたちが中間層や低所得層に夢を与えられなかったことの方がもっと大きいと思う。

 みんな自分の立場で考えている。

 だから民主主義というなら、日本的民主主義が存在する。民本主義といってもいいかもしれない。日本にもそれがあった。明治以降、自由民権運動だって民本主義だ。それは頭山満の大アジア主義にもつながっていくが、民意が政治に影響を与えるというのはいろいろな形がある。

 日本は戦争に負けたから、米流民主主義が持ち込まれたが、それが日本に根付いた民主主義かというと必ずしもそうではない。

 今だって、東京都政は民主主義ですか? ヒステリーを起こしているおばさんを、都民が圧倒的に支持している。それで政治決定されるのが民主主義ですか。

――小池ブームと言われるが、政局はどうなっていくのか?

 都民の人気が高い小池百合子都知事が、85歳の石原慎太郎元都知事をいじめて、拍手喝さいを受けている。

 豊洲問題の本質は、安全かどうかが問題の核心なのに、早急に確かめようともしない。都知事の仕事は、都民が安心して暮らせるようにすることだ。それもしないで、いびっている。

 都議会議員も同じ穴のむじなだ。自分達が決めておきながら、元知事が悪いという。

 韓国では前大統領を弾劾して追い落とし、それで自己の正当性を高めるような政治風土があるが、日本でもそうした悪しき風潮が出始めている。

 何よりメディアがだめだ。国をどうするのかといった視点がないばかりか、ただ面白、可笑しく、ただの漫才中継にしてしまっている。

 ともあれ東京は大阪の比じゃない。小池新党という実体のない幽霊にとらわれてしまう。それで自民も民進党もなくなるリスクは高い。

 次の総選挙で自民党は220、230議席まで落ちる。500%落ちる。小選挙区制度というのは、そういう制度だ。2年以内にそうなる。

――天皇陛下の譲位問題については?

 国が危うくなる時、社会もおかしくなる。

 天皇譲位問題にしても「天皇陛下がそうおっしゃるなら、そうさせてあげなさい」という意見が国民の8割以上だ。それでいいのか。天皇陛下や皇族が引退されるのをお決めになることができるようになったらどうなるのか。日本の歴史を見れば、権力者が恣意的に皇位を使っていく可能性も出てくる。

 譲位問題を特措法でやっても前例ができる。今の皇太子が天皇陛下になって、務まらないから次に譲りたいということが起きたら、皇室は存続し得るのか。非常に難しくなる。

 天皇陛下は権力や財産を持つ英国など欧州の王室と違い、権威の象徴だ。われわれは日本に連綿と続いた天皇制度を守っていくことをしないで、この国の将来を考えてはいけない。天皇陛下の仕事は宮中祭祀と国事行為の2つだ。震災や洪水の被災地を回られ、膝を屈してまで人々を慰めになられることは大変ありがたいが、天皇の本分ではない。

 健康問題があったとしても、代行制度や摂政の制度を使えばいい。

――もう言い尽くされていることだが、英国のEU離脱、トランプ大統領の誕生など、世界では大きな潮流変化を思わせる事態が相次いでいる。「トリレンマ」という言葉があって、グローバリゼーションと国家主権と民主主義の3つが同時に成り立つことはないという。民主主義によってグローバリゼーションが否定され始めているかにみえる中で、国家主権が強まり、世界が分裂気味になっていくのか。他方で、民主主義そのものが危機に直面しているのか、大きな転換点を迎えているようにも思われるが、時代の潮流をどうみているのか。

 個人と個人の戦いでは、格差社会を生み出している。また、国家と国家の戦いが赤裸々な形で表出し始めている。その中で日本だけがオープンにしようとしても、食い千切られるだけだ。だから、こちらも閉めるところは閉めていくということでないと、全部持っていかれてしまう。

 自由貿易は必要だが、それを政策的にどうもっていくかが課題だ。その舵取りを迫られる難しい時代を迎えている。

 とりわけ米国にトランプと言う怪物が現れた。軍事力を行使する世界の警察官はやらないというので感心したが、トランプ政策は女性蔑視や人種差別など、やってはならないことを平然とする危険な側面を持っている。

 昨年5月には、米大統領選でトランプが当選すると確信していた。

 それは、ちょっと考えれば子供でも分かることだ。しかし、みんな目が曇っているから、誰もこれが見えなかった。

 オバマ大統領は8年前、16%しか黒人がいない中で大統領に当選した。米国の人種差別はものすごいものだ。地域によっては、有色人種を人間だと思っていない。その16%の中からオバマは、大統領に就任した。

 格差社会の米国では2、3%の人が富を独占している。オバマが当選したのは、低層の人々がオバマなら我々の利益を守ってくれると思ったからだ。しかし、そのオバマ大統領も議会の壁に阻まれたまま、退陣していった。

 昨年の大統領選で民主党候補者の1人だったサンダースは、共産党と同じような政策ながら善戦し、最後はクリントンに負け民主党代表にはなれなかった。

 そのサンダースを推した人々がトランプに流れていったのだ。トランプなら、現状打破してくれる。自分達にも少し、おこぼれがくるのではないか。それを見ていれば、トランプが勝つのは分かる道理だ。

 トランプはいいことも言うが、極めて危険な人物だ。

――そのトランプ政権と日本はどう向き合うべきだとお考えか?

 トランプ大統領だけでなく中国の習近平国家主席、ロシアのプーチン大統領といった「胴元」といっていいような主要元首を相手に、安倍総理とすれば猛獣使いでないといけない。

 やっかいな時代に入ったが、そうともいっておれない。だから、NOというべきものはNOと言い、いいものはいいと言う選別能力が問われてくる。残念ながら今の官邸にはそれが欠落している。

――安倍首相がトランプ大統領と会談して、信頼関係を構築できたと評価されている。だとすれば、それは世界全体にとっても大事な関係であり、国際社会にも安倍総理がトランプ大統領に物申してくれるのではないかという期待もあるようだが?

 2、3日、一緒にゴルフして遊んだだけじゃ、トランプ大統領の本性を変えることはできない。今は官邸がしっかりしないといけないのだが、残念ながら官邸はそうした力がなくなっている。

 代表世話人になって、2月に立ち上げた超党派の防波堤議連(衆参両院の国会議員69人)というのはそのためのもので、これから日本は難局に難局が重なるような大変な時代を迎えていく。その危機を一緒に突破していくためにも、外交や経済施策について政府に提言していく。

――亀井さんは「新鎖国主義」を主張しているが、その先に日本の繁栄戦略が問われてくる。1億3000万人の国内マーケットを相手にモノづくりをやって、そのマーケットを拡大するためには所得が増えないといけない。その所得をどう増やすのかというのは、経済政策の大きな課題だ。

 政策としてまずやらないといけないのは、大企業のワンサイドゲームをやめさせることだ。下請け、孫請けの系列の中で、契約さえしないまま優先的地位を利用したものが横行している現実があるが、政府がこの仕切りを作って、大企業と下請け、孫受けの正常な関係を構築する。

 何より内需拡大が課題だ。

 これから円高になっていく。何よりトランプ政権が米国の輸出を伸ばそうと国の舵を切ってくる。そうすればドル安円高にしていかざるを得ない流れもあるし、中小企業も円高によって原材料費が安く調達できるメリットもある。

 それで、国内で消費することが大事になってくる。できたものを日本に輸入するのではなく、原材料は輸入しても国内で加工して1億3000万人の市場を持つ国内で販売する。そのためにも中小企業に補助金を出すとか、元気づけないといけない。

――おカネが循環していないといけないわけだが、一部の所にしかいっていない。おカネをまわしていくにはどうしたらいいのか?

 それには需要喚起するしかない。まず官需だ。民需より官需で呼び水効果を狙う。ゼネコン含めた大企業ではなく、中小零細企業が直接、受注できるような予算を組むことが大事だ。それはやればできることだ。

 霞が関にも支局はある。それぞれの地域で、地産地消型でやっていけばいいことだ。それについての補助金を出していくとか、いろいろ手立てはある。

――中小零細企業に直接、資金がいくようにすることが大事だということだと思うが、それはやろうと思ったらできる?

 できる。ただ、地方が池の鯉じゃだめだ。この時は、官が主導して、眠っている池の底の鯉をたたき起こす必要がある。

――民間にまかせて、自由な市場経済でやっても結局、うまくいかない側面がある。

 日本は官が出ていかないとだめな国柄だ。まず糸口を作り、その後、民がついてくるのが日本の体質だ。現実はそうだ。

――金融担当相時代に実現させた金融円滑化法は、自由な市場に任せていても、おカネは回らないという現実に対して、そこに一定の政府の介入をするという、意義のある政策だった。そのほかの政策でも、亀井さんは新自由主義を否定する立場を貫いてきたと思う。一般に自由主義を重んじるとされるのが保守系の政治的立場だが、亀井さんの場合は、保守系でありながらも政府の介入を大事にしている立場だとお見受けする。

 自由に市場原理に従っていく新自由主義は保守とは関係がない。新自由主義の行き着く先はアメリカだ。保守とは、国家自体が国の運営に責任をもつということだ。その立場から中小零細企業を助ける時には、思い切って助ける。それが保守だ。

――そもそも保守対リベラルという対立軸自体が分かりにくくなっているが、国家を重視するのが保守だという見方はできるかもしれない。やはり、大事なところは国家が主導しなければならない。日本は新自由主義に翻弄されて、国として、もっとやるべきことがあるのにやっていないことが結構多いのではないか。まず、国家が手をつけるべきものは何か。

 まず大きなものから手を付けないといけない。その意味では新幹線を北海道に通す。北陸新幹線も早く回す。地方に光を与えるのは鉄道だ。これは間違いがない。

 運輸大臣の時、新幹線凍結を解除した張本人だ。そういうことを思い切ってやる。そのためには無駄な公共事業を減らす。

――目指すべき国づくりにも関わってくるが、本来あるべき日本の社会の姿というのは、どういったものとお考えか。

 日本という国の成り立ちは農業立国だ。それにも関わらず食料の自給率がカロリーベースで40%でしかなく、日本は世界最大の食糧輸入国になっている。フランスの食料自給率は120%以上だから、日本は逆立ちしている。まずは食料自給率を高めていくことを基本に据えるべきだ。

 今、都市から農村へという回帰現象が起きている。東京のような物質的に豊かなことができなくても、心豊かな毎日の生活を求めていこうと考える人が大勢、出てきている。こうした地方移住をとりあえず国が支援して、人々が地方に住むようにすればいい。東京に人口集中するのは異常だ。

――今まで農産物の関税を高くするというやり方での保護政策が、逆に農業を衰退させた、この際、財政でゲタを履かせながら競争させるやり方へと、保護政策の方法を転換すべしという議論もあるが?

 広大な耕作地のある外国と、太刀打ちできるわけがない。だから、日本は日本のやり方がある。外国には外国のやり方がある。それを同じテーブルにのせて競争するのは土台、無理な話だ。日本は何千年も、この自然的条件下で生きてきている。日本には大きな国内需要があるわけだから、安全安心な作物を作って地産地消型でいくべきだろう。


かめい しずか

 1936年11月1日、広島県庄原市生まれ。東京大学経済学部を卒業後、サラリーマンを経て警察庁に入庁。配属された警察庁警備局で極左事件に関する初代責任者となり、成田空港事件(東峰十字路事件)、あさま山荘事件、テルアビブ空港乱射事件などの陣頭指揮を執った警察庁長官官房調査官を最後に退官。退官時の階級は警視正。退官後、衆議院議員になり、長らく自由民主党に所属。運輸大臣、建設大臣、自由民主党政務調査会長を歴任。自民党離党後は国民新党代表、内閣府特命担当大臣(金融担当)などを歴任、中小企業金融円滑化法の成立に尽力した。


【聞き手プロフィール】

まつだ まなぶ

 1981年東京大学卒、同年大蔵省入省、内閣審議官、本省課長、東京医科歯科大学教授、郵貯簡保管理機構理事等を経て、2010年国政進出のため財務省を退官、2012年日本維新の会より衆議院議員に当選、同党国会議員団副幹事長、衆院内閣委員会理事、次世代の党政調会長代理等を歴任。

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