雌鳥が鳴くと国が滅ぶ
元自民党参院幹事長 村上正邦氏に聞く
今春の調査で、「いま首相にふさわしい人物」を聞いたところ、１位は自民党
の石破茂前地方創生担当相で、安倍晋三首相を初めて上回った。だが、９月の自
民党総裁選挙は自民党員の選挙で決まり、国民の支持率がそのまま反映されるわ
けではない。自民党内では安倍支持はダントツの勢いを維持している。果たして
ポスト安倍も安倍なのか、あるいは新規交代となるのか、永田町事情に精通して
いる元自民党参院幹事長の村上正邦氏に聞いた。
──安倍首相以降の展望をお聞きした
い。
岸田氏への禅譲となるだろうが、短命
に終わるだろう。長続きしない短期政権
となる。
──安倍政権は持たない？
「雌鳥が鳴くと国が滅ぶ」と言う。結局、
昭恵夫人が足を引っ張ることになりそう
だ。
三木武夫氏の睦子夫人にしても、そこ
まではやらなかったし、菅直人氏の伸子
夫人だって同じだ。
──石破さんへの支持率が安倍さんを超
した。
石破氏は安倍首相とそりが合わない。
憲法改正にしても、安倍首相と石破氏の
考えでは違いが鮮明だ。それ１つとって
も、安倍首相の次にはならない。
ただ憲法改正は、今年出来るとか、来
年出来るという話ではないが、結局はで
きるだろう。
自由民主党が続いている限りにおいて
は、憲法改正はやる。
──ポスト安倍が石破氏ではないという
のは？
石破氏は腹がない。
麻生首相の時、石破氏が農林大臣をや
っていた。石破氏は麻生首相に辞表を持
っていったことがある。
閣僚の中に反麻生の勢力があるという
ことを鮮明にして、麻生首相の退陣を迫
った。
ところが、麻生首相は「俺を辞めさせ
たいなら、辞めさせろ。その辞表を俺に
出せ」と迫った。
結局、石破氏は辞表を出し切らないま
ま、すごすご帰ったことがある。それを見て、だらしないな─と思った。
せっかく辞表を書いて「あなたが総理
大臣を辞めなきゃ、俺が農林大臣辞める」
と啖呵を切って刺し違えることができな
かった。最後の最後は、詰め切れず度胸
がない。
それが総理大臣ということになれば、
何より麻生氏が承知しない。
日本の総理大臣というのは、その程
度なのかというわけ
だ。総理のポストを
馬鹿にされている思
いがあろうというも
のだ。
だから、石破氏は
総理にはなれない。
今度だって、石破
氏にしてみれば反安
倍を打ち出さないと
だめだ。政治的な千
載一遇のチャンスな
のだから。
党大会が終わった
以後も、おとなしい
ものだ。改憲反対を
ぶちあげるには、絶好のチャンスだ。
外野の保守系にしても、憲法改正しな
きゃならないという必然性には迫られて
いない。
──岸田氏はどうか。
むしろ岸田氏の方が、人心は集まると
思っている。しかし、岸田氏も岸田氏で
安倍首相の敵ではない。しかし今回、安
倍首相は岸田氏に禅譲するだろう。
──しかし、岸田氏はハト派だから、中
国の強権台頭や北朝鮮の核ミサイル問題
などが浮上する今の時局でやっていける
のかと問題がある。
自民党の歴史は、振り子の原理できて
いる。タカ派とハト派がそれぞれ主導権
を握っていく。
──今の国際情勢からすると、安全保障
をちゃんと抑えて外交的手当てができな
いと難かしい。岸田氏はやれますか？
それは難かしいかもしれない。周りの
人材が必要になる。
ただ、岸田氏がなっても、短命だ。外
交力ではるかに劣っている。北朝鮮問題
にしたってそうだ。パンチ力がない。
だが、そうはいっても北朝鮮に限れば
安倍首相に拉致問題を解決していく力は
ない。拉致問題は腰が引けた北朝鮮政策
で、３階から目薬落としているようなも
のだった。
北朝鮮という国は、上品でいったらだ
めだ。日本は国家として、本腰を入れて
やらなきゃ。それには北朝鮮担当の専従
の責任者を置かなきゃだめだ。腰掛け程
度では北朝鮮は動かせない。
その意味でも安倍首相では、北朝鮮問
題は解決できない。米国を頼りにするよ
うではだめだ。自分で時局を切り開く気
概が何より必要だ。
明治初期、大久保さんがヨーロッパを
回っている時、西郷さんは韓国に殺され
に行こうとした。そうなれば、日本が有
利に戦いを進められる。
政
まつりごと
をやる人は、特に他の国と外交を
やる時、命を捨ててかかる気迫がないと
だめだ。特に北朝鮮に対してはね。
小泉首相が北朝鮮に行った時、飲む水
まで用意するようじゃだめだ。向こうの
水を飲めばいい。毒でも何でも飲ませろ
という位の覚悟で行かなきゃ。そうしな
いと玄関払いだ。
特に北朝鮮は、外交ルールがない国な
のだから。交渉決裂になったとき、ケツ
をまくるぐらいじゃないと、まともな交
渉はできない。
──日本で初の女性宰相に意欲満々の野
田聖子氏は？
ダークホークにはなり得る。
場合によっては、総理代行ということ
もある。
ただ個人的には私は野田氏を買わな
い。女性の限界と視野の狭さが問題だ。
野田氏は政策的なことは何も言わな
い。外交とか、今、一番大事なこと何も
言っていない。「多様な女性がのびのび
生き、働ける」とか。それ以外、何も言
わない。今が平穏な時期ならまだしも、
あれじゃいけない。
──次の次として、勢いのある小泉進次
郎氏は？
あの手のパワーは若手の中にないとだ
めだ。ただあの程度の元気は、自民党に
あって当然だ。
ただ、大成は難かしいだろう。
一匹狼だった親父の純一郎氏と同じ、
ワンフレーズ型政治家だ。
純一郎氏は女の話しかしない。国家百
年の大計についても政策についても、聞
いたこともない。ただキャッチフレーズ
だけはよかった。
次の次といってもなかなかね。
しかし、進次郎氏は日本会議の好みで
あることは確かだ。
進次郎氏はおやじの純一郎氏のような
激しさもないし、仲間もいない。
純一郎氏の場合は、ＹＫＫと呼ばれた
山崎拓氏や加藤紘一氏との友情があっ
た。
総じて、今の政治家にはこうした仲間
が不在だ。
中身をえぐるような、本当の同志とい
うものをつくらないとだめだ。
政治家というのは本音で語り、本音で
ぶつかっていく。そうしないと誰も本音
で話してくれなくなる。
みんな建前ばかり、それじゃダメなん
だ。情熱をもった本音でしか政治は動か
せない。
政治家というのは、そうした信念と覚
悟が必要だ。
自由民主党の弱みはそこにある。
──若手では？
若手の中では、茨木の梶山ひろし氏だ
とか、神奈川の小此木八郎氏や 、地味
だけどちゃんとやっている。
──河野太郎氏は？
骨があるという人もいるが、言ってる
ことはばらばらだ。
何より食い物がハンバーガーだけとい
うのはいただけない。宴席持たない河野
氏に、人が集まってこない。
財界人が「河野太郎を囲む会」を作ろ
うと言っても、ＮＯだからね。自分の月
給でやろうと思うから、小さくなる。
昔の政治家は、金は天下の回り物で集
まってくるものだと思ってやっていた。
──政治家が小粒になった。何がそうさ
せたのか。
やはり、国民だろう。維新では
20
代の
青年が国を動かした。それはまず国とい
うことを考えた。武家社会からの変革を
迫られ、世界の列強に伍していくことを
考えざるを得なかった。
今の連中はそうじゃない。自分が優先
する。
──危機意識の問題？
そうだ。国家観がないということだ。
平和と繁栄が続くと、人間はその上にあ
ぐらをかく。
それとシステムとも関係がある。小選
挙区制ではなく、中選挙区制だといろん
な人が２番３番でも当選できる。別にト
ップにならなくてもいい。
どんじりだって同じ国会バッジをつけ
られる。
小選挙区制というのは怖い。池の金魚
は、先頭の金魚が行く方向へみんな泳い
で、金魚の流れができる。
西の風が吹けば西を向く。小泉の時は
小泉チルドレン、民主党の時には小沢ガ
ールズと言われたし、橋本ベイビーズと
いうのもあった。
それに二世議員や三世議員など、政治
が家業になった政治屋ばかりが目立つよ
うになった。
田中角栄は、裸一貫で総理にまで登り
つめた。失敗すればまた裸に戻ればいい
という覚悟が出来ていた。