インタビュー
隣国を遠くに追いやらず話し合って事を進めよ
自由民主党幹事長/二階俊博氏に聞く
政治家は高い理想に向かって驀進する理想主義者であ
るとともに、現実問題を処理できる現実主義者でもなけ
ればならない。その意味では安倍晋三政権を支える大黒
柱である二階俊博自民党幹事長は、浮き足立った理想論
に酔うことのない現実主義者だ。その二階幹事長に急変
する朝鮮半島情勢や強権台頭する中国、そして普天間問
題などへの率直な意見を聞いた。
(聞き手=徳田ひとみ本誌論説委員)
──「安倍三選支持は、一ミリも変わら
ず」とのスタンスですが?
私は安倍三選支持を問われたところで
はそう率直にお答えしている。今日の政
治状況や安倍総理の世界各国との外交実
績からしても、当然のことだろう。
今、安倍総理の後を、すぐに誰という
より、ここは安倍総理にもう少し頑張っ
てもらう方がいいというのは、大方の意
見として一致したものだと思う。
──来年には参院選挙や統一地方選挙を
控えていることからすると、改憲のタイ
ムリミットが迫っている。年内の改憲発
議はあるのか?
総理の心境を尋ねたことはありません
から、分からないが、総理ご自身で判断
されることだろう。
──朝鮮半島情勢が急変している。日本
と米国と韓国の絡みの中で、日本はどう
動くべきなのか?
日本の総理大臣としての立ち位置は極
めて微妙だ。
日本は何もかもやれる国ではないのだ
から、内外と気持ちを合わせながらやっ
ていくしかないだろう。
だから、当分はこの手法でやっていく
というのが国のために一番いいだろうと
思っている。
──拉致問題では、米国のポンペオ国務長官が訪朝して、3人の米国人を帰国さ
せたが、日本の場合はいかがか?
さすが米国の外交だと感じた。やはり、
米国というのは思い切った対応をする。
拉致問題ではお辞儀をして返してくれ
という方法もあるが、米国の場合は、も
しこのままの状態を続けていくなら、米
国にも覚悟があるといったことを言外に
意識させている。これは米国外交の偉い
ところでもあるし、見事なことでもあっ
た。
だから、そうかといって日本がまねを
しなさいといっても、日本は日本として
のやり方とならざるを得ない。
──関係者らが高齢となっている現状か
ら、拉致問題の解決は急がれる。
拉致問題と高齢問題は、切り離すこと
ができない人道問題だとは思う。ただ、
それだけを唱えても、必ずしも成功に導
けるかどうか不透明だ。
ここはやはり、国民の期待に応えて日
本政府がしっかり考えて対応、対策を講
じていかないといけない。
──昨年末にも北京で習近平国家主席と
会見しているが、幹事長の個人的感触は?
習近平主席とは3、4回、お目にかか
ったことがある。
だからといって、すべてが分かるわけ
ではないが、私は誰とでも話し合いの窓
口だけは常に持っておくべきだと思って
いる考えは変わりない。
常々、話し合いながらことを進めてい
く必要がある。医師と患者の例えでいう
なら、医師が聴診器を当てるようなもの
だ。そういった形で、何事も普段から付
き合っていくことが肝要だ。そうしてい
れば、特に気をつけないといけないこと
というのは理解できる。
──厳然として存在する隣国とのお付き
合いも、何か用事がある時だけ、堅苦し
く話をするだけでは駄目だし、外交的に
はプラスにはならない。
常日ごろのことだね。そういうことが
大事だと思う。
習主席は大国を背負って立っているの
だから、苦労は極めて多いし、神経質に
ならざるを得ないところもたくさんある
はずだ。
この国を遠くに追いやるのではなく、手の届くところへ引き寄せ、いつでも話
し合いができるという政治状況を作って
いくことが大事だ。
──一方で中国の強権台頭が顕著だ。東
アジアの安全保障はどう担保すべきか?
日本が外交を考える場合、日本が置か
れている立場と日本の力を計算に入れる
必要がある。その上で、どういう対応が
でき、どういう対応が一番いいのかを割
り出していくことが、今後も大事なこと
じゃないかと思う。
それから私どもは、日本が勇んで何か
力を行使するのではなく、各国と安定し
た形で、意見交換を積み上げていくしか
ないと思っている。そもそも日本は武力
を持っていないのだから、そうせざるを
得ない。
米国の場合は、攻撃をしかけるぞとい
った威嚇をバーゲニングパワーに使える
が、残念ながら日本はそういう手は取れ
ない。その中でどうやっていくかとなる
と、自ずと道は定まってくる。
そこに日本の平和外交という難しい
が、これをどこまでも貫いていくことが肝要となる。
──それこそが尊敬される日本というこ
とにつながると思う。
日本は過去、戦ってきた歴史がある。
それを忘れて今日明日のことだけで、物
事を判断してはいけない。
周辺国の中にはそうしたことを記憶の
中に残しているのだから、あえて敵対心
を簡単に帳消しにしようとしたって、そ
れはこちらの都合にすぎないのだから、
そもそも無理がある。相手の考え方に、
じっくり耳を傾けなければ、相手は心か
ら納得することはない。
長い時間をかけて、歴史的わだかまり
を解消していく努力が問われる。
それは恥ずかしいものではなく、世界
の平和のために必要だということを言い
続けないといけない。
──今の子供達は、そういうことを学ば
ない状況がある。
学ばないというより、教えないところ
に問題がある。学ばないのは相手は子供
だから仕方がない。
──同感です。教えてもらうチャンスが
ない。教育の中で、そういうのはあまり
言わない。とくに近現代史など全く教えないので、スポット的にその場面だけを
切り取って世界を見るというのはいいこ
とではない。幹事長が言われたようなこ
とを知っている大人が、子供達に伝える
ことが大事だと思う。
そのことを大人が 勇気をもって、悪
いことは悪かったと反省し、そして大事
なことは貫いていく。そういったきちっ
とした考え方が大事だ。
──先だってロシアを訪問されたばかり
だが、北方領土の返還に関して将来的な
見通しはどうか?
北方領土というのは、まるきり何もな
かった形で、しばらく預かっておきまし
たから返しますよといった、そんなこと
には絶対ならないと思う。
やはり、ロシアが返すなら、その代償
をしっかり求めてくることになる。そう
したことを覚悟していないといけない。
その心の準備と、その時、経済的な面
で日本がどうするかという問題は、政治
の責任者は考えておかないといけない事
柄だ。
──対ロシア交渉で具体的な進展は望め
るのか、あるいは先
のことになるのか。
強いリーダーである
プーチン大統領の在
任中こそチャンスと
いう見方もあるが。
いつ、そのチャン
スが訪れるのか。日
本と違って大国とい
うのは劇的な形で動
いてくる。だからそ
の時に、一方的にび
っくりしないような対応を考えておく必要がある。
──政治的なもの以外にも、いろんなこ
とが絡んでくる沖縄の普天間基地移転問
題はどうか?
普天間基地移転問題には非常に長い歴
史がある。基地の周りは住宅地や小学校
等がひしめき合い、この状態を放置して
おけば大変危険だということは誰の目に
も明らかだ。最近も米軍ヘリの部品が落
ち、県民の不安は最高潮に達している。
辺野古沖に基地を作るということは国の
方針ではあるが、政府は丁寧に進めてい
かなければならない。過去、我々の先輩
たちも、「沖縄に寄り添う」という言葉
をその通りに体現してきた。今必要なの
は、そうした真剣な姿勢だ。