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今月の永田町

安倍首相が9月20日の自民党総裁選で選出される見通しだ。首相は総裁選の最大の争点を憲法改正と位置付けたことから、今後の政権運営に向け「改憲」で求心力を確保できるとの確信を強めている。最後の任期3年の間に悲願の憲法改正を実現するため、秋の国会に党としての改憲案を提出し、来年7月の参院選の際の投票と同時に行う国民投票に持ち込む戦略を描いている。

総裁選3選後の政権戦略
憲法改正で求心力を確保

 首相は総裁選の最中、「次の国会」に改憲案を提出するという自らの改憲戦略を明らかにした。これは、秋の臨時国会に自民党の改憲案を提示し、来年の通常国会で衆参両院の3分の2以上の賛成を得た上で発議して国民投票につなげ、「2020年に新憲法を施行する」という道筋を示したものだ。 
 そのため、今回の総裁選は、西日本豪雨や北海道大地震による選挙日程の事実上の短縮という異例の事態となっただけでなく、対抗馬となった石破茂元幹事長との改憲論争に決着を付け、秋以降の改憲を軸にした政権運営に弾みを付けるという意味があった。
 自民党内では、憲法9条2項の「陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない。国の交戦権はこれを認めない」をそのまま維持して「9条の2」を新設し、「自衛隊」を書き込むという首相らの案と、2項を削除して自衛隊の保持を明記し、「通常の軍隊」と位置付ける石破氏らの案が併存していた。首相としては「これで党内論争が決着した」(自民党幹部)と見なす考えのようだ。
 首相が2項の維持にこだわる理由は2つある。最大の理由は、自衛隊が合憲か違憲か絶えない論争を決着させるために「自衛隊」の3文字を何としても盛り込みたいという首相の執念とも言うべき思い入れがあることだ。
 9月3日午前、防衛省で同省幹部や自衛隊の指揮官が一堂に会する自衛隊高級幹部会同に出席した首相の挨拶には、自衛隊員への熱い思いと誇りがほとばしっていた。「つねに国民の心を自己の心とし、一身の利害を超えて公に尽くす。50年以上受け継がれる自衛官の心構えの精神を実践し、国民の負託に全力で応える諸君を私は頼もしく誇りに思う」と述べた上で、「時には心ない批判にさらされたこともあったと思う。すべての自衛隊員が強い誇りを持って任務を全うできる環境を整えることが政治家の責任だ」と訴え、自衛隊の根拠規定を明記するための改憲への意欲をにじませたのである。
 それを現実的に実現させるためにはどうすべきなのか。その文言を盛り込ませて成立させるために他党との議論で妥協が必要だ、というのが第二の理由なのである。首相は10日行われた石破氏との共同記者会見で、「公明党と一緒に法案を成立させてきた。公明党の理解を得たい。他党の理解も大切だ」などと語った。
 つまり、「公明党など他党との合意の上で作業を進めていかなければ改憲が実現しない。せめて自衛隊盛り込みの理解だけは得て、2項削除は次の段階の作業として残す、というもので、最終的なゴールは石破案とほとんど変わらないのが首相の腹案なのだ」と自民党中堅は解説する。以前、船田元衆院議員が語ったことのある「9条2段階改憲論」で、当面の戦術として2項を残したままの主張をするというものだ。
 問題は公明党の姿勢だ。社会変化を勘案した「加憲」を提唱し、緊急時における対応を考慮して国会議員任期延長に限る緊急事態条項なら改憲のテーマになり得るとしている。「自衛隊」を盛り込んでの加憲については消極的なままだ。これをどう説得できるのか、が首相のさしあたっての課題となろう。また、「モリ・カケ」(森友・加計)問題に関する報道に見られたごとく、リベラルの朝日、毎日、東京やその系列のテレビ局はこぞって安倍つぶしに傾注し他の重要課題の報道は後回しにされた。「その背景には、首相が2020年5月までの改憲に意欲を示したことがあり、あの異常なこだわりと偏向報道ぶりは改憲阻止のための狂い咲きだ」と保守系のマスコミ関係者は指摘する。今後、さらにあの手この手の改憲阻止圧力は強まるものと見られるが、その難も振り払わねばならない。
 国民投票の時期については、来年中はスケジュールが過密なため年内に持ち込みたいとの意見もある。公明党さえ説得できればそれは可能だろう。ただ、過密とはいっても国政選挙である参院選と同時のタイミングであれば、新たな天皇の下でのお祝い気分の中での投票効果を期待できる。経費の節減にもなる。また、10月には消費税を10%に引き上げることが決まっている。引き上げ後の国民投票ではマイナス効果となる可能性が強いとの計算も働こう。前半は統一地方選で余裕がない。 
 首相は「憲法改正は全ての自民党員の悲願であり、その責任を果たしていかなければならない。いつまでも議論だけを続けるわけにはいかない」と改憲発議への姿勢を繰り返し明確にしている。改憲が1955年の自民党結党時の党是だったことからも、すべての党員の覚悟が問われる時期に来ているとも言える。首相の大叔父の佐藤栄作長期政権は「沖縄返還なくして戦後は終わらない」をキャッチフレーズに掲げて求心力を維持し、72年5月の返還を実現させて2カ月後に退陣した。「戦後レジーム(体制)からの脱却」を掲げた首相も、「改憲なくして戦後レジームから脱却できない」ことをアピールして最後の3年間の本丸での戦いに臨むことになる。

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