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中国が呪縛される唯物論ハート無き全知全能指向

 ユーラシア大陸だけでなくアフリカや南米、北極海にまで手を伸ばす千手観音のような一帯一路プロジェクトは、補給を継続できる中国の財務基盤が問題となっている。
 2008年のリーマンショックで中国が57兆円の財政出動した以後も、気前のいい財政出動は続き、政府や国有企業などの債務が急激に肥大化、中国経済はきしみ始めている。
 何より米中貿易戦争が、中国の経済基盤を直撃中だ。貿易と投資の2本柱で高度成長を実現してきた中国にとって、貿易戦争で輸出入が激減し投資の冷え込みを余儀なくされれば致命傷になりかねない。
 米国には同時多発テロ以後、テロとの戦いに追われ、中国を野放しにした悔いがある。
 中国を世界貿易機関(WTO)に加盟させればルールを守り、中国が経済的に豊かになり中産階級が誕生すれば、民主化が達成されると期待した米国の読みは外れたばかりか、中国は欧米から盗み出した先端技術を軍事転用し、貿易黒字で稼いだ資金で軍事力増強を図ってきた。
 結局、2049年の建国100周年をゴールとする100年マラソンを走り、覇権追求意欲を鮮明にし始めた中国との衝突を回避するには、中国の軍事力増強の基礎となる経済力を弱め、一方で米国の国防力を増強し、その覇権追求意欲を削ぎ落とすしかないという覚悟の上の貿易戦争だ。
 中国からの輸入品に25%の高関税を課し、過去の損失分を取り返すという米国の対中貿易戦争は、損得のそろばんを弾いた単純なバランス問題ではない。
 米国からみれば、世界のヘゲモニーを中国には断じて渡さないという戦略的決意の表明だ。決して商業レベルの発想ではない。
 その点が、わが国との貿易摩擦とは根本的に違うところだ。
 そうした崖っぷちに立つ中国ながら、今春まで使用頻度の多かったキーワードは「弯道超車」だった。
 カーブで減速した先行車を一気に追い抜くことを意味する「弯道超車」は、衰退し始めた欧米社会を追い抜く機会到来といった意味で使われた。
 スピードと効率性を特徴とする開発独裁で、高度成長を成し遂げた中国が最近、力を入れているのが「AI(人工知能)とロボット」だ。
 北京の中関村に誕生したAI企業は今年、4000社に達した。政府の補助金が呼び水となり、雨後の竹の子のごとく増殖している。
 さらにロボットやビッグデータ、電気自動車、量子コン ピューターなどと幅広く、中国は国をあげて取り組み、21世紀の世界を「知能と技術」でリードしたい意向だ。
 中国が狙うのはビッグデータで国民を監視し、デジタルレーニン主義による支配の構築だ。
 中国は、ジョージ・オーウエル作「一九八四年」のビッグブラザーよろしく、画像認識技術を駆使した監視社会を実現している。具体的にはネット監視の「金盾」システムと都市監視の「天網」システム、さらに農村監視の「雪亮」システムが存在する。
 だが「知能と技術」という神に代わる「全知全能」を入手しても、政治家や国民に道徳心というハートが涵養されなければ国家そのものの運命は危うい。
 その典型がシェア自転車の破綻だ。GPS搭載の自転車のロックをスマートフォンで解錠し、乗り終わったら好きな場所に乗り捨てることができる便利さが当初、もてはやされたが、今では放置自転車が山と積まれている。
 二宮尊徳は「経済なき道徳は寝言であり、道徳なき経済は犯罪だ」と言った。
 中国が生き延びるための最大の関門は、唯物論の呪縛から脱せられるかどうかだ。中国の悲劇は、それに気づいていないことにある。

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